女性ホルモン剤を個人輸入した話

 どもども、侑です。なんとか週1更新を維持しようと必死ですw
 今回は以前チラッと書いた女性ホルモン剤の個人輸入について書いてみようと思います。とは言っても私は医者でも何でもないので文章中の用量や用法に関して責任は持てませんのでそのあたりは参考として読んでください。 

 まず、どこで個人輸入するかという話ですが、私は16歳の時人生初の個人輸入デビューをした時から輸入代行サイトしか使ったことはありません。直接取引する方法もあるのかもしれませんがリスクテイクを考えたら多少の代行手数料を払ってサイトで買った方がいいと思います(代行屋の思うつぼなので悔しいですけどねw)。欲しい薬剤名+個人輸入とかでググれば出てくると思うので各自探してみてください。参考までに私はオオサカ堂というところを使ってましたがこの記事では事実としてのみ紹介するに留め、取り立ててこの業者をおすすめすることはしません。

 次に、主に家族(特に親)に対してカムアウトしてない状態でどのように調達するかという話ですが、これは参考として私の経験をご紹介します。カムアウトしてるないし一人暮らし等の場合は読み飛ばしてもらっても大丈夫かもしれません。
 実は私の家庭は非常に厳しく、また機嫌を損ねるとすぐに手が出る母親でもあったため、ホルモン剤を隠すことは必須条件とも言えました。当時の私の状況としては、高校に通学+自分名義の預金口座を所持、クレジット/デビッドカードは一切なしという感じです。まず方法としては代行サイトで銀行振り込みを選択し購入します。配送先の欄で局留めオプションを選択し局留めで送ってもらいます。多くの代行サイトで局留めは選べるかと思います()
 配送の際に名前をどうするかという話ですが、ここは実名(戸籍名)を使いましょう。通称名をすでに使用している人にとっては非常に心苦しいかも知れませんが、輸入に当たって税関を通過することや、受け取りの際に身分証が必要になるのでぐっと我慢して戸籍名で発注します。 
 発注後の入金完了からおよそ1か月かからないくらいで荷物が到着します。追跡サイトで状況を確認して取り逃しが無いようにしましょう、受け取り予定の郵便局に届いてからは7日(国際小包の場合)しか保管期限がないので注意が必要です。受け取りは公的な身分証でできます、高校生の私は学生証で受け取っていました。戸籍名での受け取りが一番苦痛ですが何とか耐えてください……学校のある日や外出の用事に上手く引っ掛けることで怪しまれずに済みます

 続いて届いた後の保管の話ですが、まず送られてくる状態では薬のパッケージに対して緩衝材と段ボールがついてくるので持って帰るにはあまりにも不自然な量です。家庭ごみを持ち込む行為に関しての反省はしていますが(時効だと思うので許してください)、当時の私は通学中に駅で段ボールと緩衝材を捨て、薬の箱だけを取り出してカバンに入れて持って帰ってました。記事でこのやり方をお勧めしますとは言えませんが、学校や会社、あるいはバイト先等法的ルール上に問題ない場所で捨てて身軽にしてから家に帰ることをお勧めします。間違っても不法投棄だけはやめましょうね
 家に帰ったら親も寝静まったころにこっそり錠剤を取り出します。錠剤の箱を開けるとたいてい英語で書かれた注意事項の紙と錠剤シートが1枚ずつ入っています。錠剤シートからそのまま飲んでもいいと思いますが、当時の私は念には念を入れて錠剤を全部包装から取り出し、フリスクのケースに種類ごとに分けて筆箱に隠していました。錠剤の取り出しにとても便利なのでこの方法割とおすすめなのですが、湿気の多いところでは劣化するのであまり大量に出さないようにしましょう。残った錠剤シートとか注意事項の紙とか箱とかは折りたたんで二重底にしたプラモの箱に隠して棚にしまってました。ここまでやったので1年少々は一切親バレすることなくホルモン剤服用ができました。ご参考までに……

 では1年後にどうしてバレてしまったのかという話ですが、これはもう身体の変化です。1年も飲み続ければ体毛やひげはだいぶ薄くなりますし胸も出てきます。毎日接する機会がある家族であればここまでくるとさすがに変化に気付いてしまうので隠し通せるのも1年少々と思った方がいいです。それまでにカムアウトする準備か家を逃げ出す準備をしましょう。

 身体の変化の話題になったところで、本命ともいえる薬の種類と用量についての話に移りましょう。まず、女性ホルモンには卵胞ホルモンと黄体ホルモンの2種類に大別され、前者は卵胞で分泌され女性らしさを作りだすホルモン、後者は黄体で分泌され妊娠等の機能をサポートするホルモンとして一般的に説明されます。
 MtFの治療では主に卵胞ホルモン(エストロゲン)が用いられ、この卵胞ホルモンはさらにエストロン(E1)とエストラジオール(E2)、さらにエストリオール(E3)と分類されます。このうちE3は生理活性(生体の生理的な調節機能に対してどれだけその化学物質が作用するか、もちろん薬剤の場合薬効のみならず毒性に相当する作用も含む)が弱いため、あまり目にする機会はないかと思います。E1とE2についてですが、これはE2の生理活性がE1の約2倍と言われています。
 では黄体ホルモンは何なのかと言うとこれはプロゲステロンと言われるもので、妊娠を助けるものとされています。一見するとMtFの治療では不要なように思われますが、作用として女性化乳房があり、また抗アンドロゲン(男性ホルモン)作用もあるとされています。
(Progestogens with Antiandrogenic Properties by Raudrant et al., 2003) 
https://link.springer.com/article/10.2165/00003495-200363050-00003)
MtFの治療においては不明な点が多いともされているプロゲステロンですが、以下のサイトでMtFの治療で投与する抗アンドロゲン薬剤としてプロゲステロンが挙がっていることも踏まえ、この記事ではMtFの治療において一定の効果はあると考え、紹介していきます。(①)
https://www.vnsnychoice.org/wp-content/uploads/2020/07/CHOICE-Treatment-Gender-Dysphoric-Persons-Quick-Reference-Guide.pdf

 個人が実際に輸入で入手可能と思われる薬剤としては、E1であればプレモン/エストロモン、E2はエチニラ/ダイアン35、プロゲステロンはマレフェなどが挙げられるかと思います。
 このうちダイアン35に関しては、抗アンドロゲン作用を発生させるものとして錠剤に混合されているシプロテロン酢酸塩が持つ血栓リスクの高さが指摘されフランスで2013年に処方が停止されました。MtFに対しての女性ホルモンの投与について定めたイギリスのガイドライン(②)
https://sunderlandccg.nhs.uk/wp-content/uploads/2016/03/SCCG-Gender-Dysphoria-Feminising-Hormones-Dec-2015.pdf
においても、"Cyproterone and spironolactone are not recommended for long-term therapy"とされており、リスクの高い薬剤として扱われています(後半に書きますが、実は私が服用していた薬でもあります)。
 多くの方が個人輸入を始める際に、おそらくE1製剤+プロゲステロン製剤という組み合わせを選ぶかと思います。実際に私が飲み始めた時もプレモン+マレフェの組み合わせで服用しました。具体的にどのくらいの量を飲めばいいかということについてですが、薬にはまず薬効だけでなく副作用があることを忘れてはいけません。生理活性がE2に比べ低いE1ですが、それでも副作用があることには変わりなく、具体的な例としては血栓症または血栓塞栓症が挙げられます。命にもかかわる疾患が起こり得るので用法はきちんと検討したうえで自己責任で摂取することが肝要です。
 プレモンの成分を確認してみると、結合型エストロゲンとあります。これは英語ではConjugated Estrogensと表記され、これで検索してみると
https://www.sciencedirect.com/topics/agricultural-and-biological-sciences/conjugated-estrogens
などで50-65%のエストロンを含むとあり(何か所かソースを確認しましたがどれも50%以上のようです)主成分はE1と考えてよさそうですのでこの記事ではE1として扱います。ここでE1の用量に関して文献を調査しましたが、私では見つけることができず①②で示した資料などすべてE2としての処方量が紹介されていました。しかしながらE1はE2の生理活性の約半分であることも考慮すると、E2の用量をE1の用量として参考にすることはできると思われます。①②の資料でE2の用量が1-6㎎/dayとされている踏まえると、E1もこの量がひとつの目安となりそうですね。錠剤で考えると、プレモン1.25㎎であれば1日最大でも4錠ということになります(実際には4錠はかなり多いです)。
 続いてマレフェですが、これの主成分はプロゲステロンということでこちらは先ほどの資料では20-60㎎/dayとなっています。ここから考えるとマレフェ10㎎換算で2錠~程度ですね。
 参考までに以下の日本語サイトで分かりやすく量が紹介されてるので貼っておきます。何度も言うようですが、本記事で紹介した用法用量は、ソースの明確化にこそ努めたものの所詮一般人の考察であるため、参考にされる際はくれぐれも自己責任でお願いします。体質や疾患、体格等でも薬効と副作用は大きく変動しますのでこれも付け加えておきます。
http://joseika.jp/324

 (くだらない蘊蓄はこの辺にしていよいよ私の体験記になります) 
 これらの情報を踏まえ(とは言っても16歳当時の私にここまで文献を読み漁り考察をする余裕はありませんでしたが…)私はプレモン2錠/day、マレフェ1錠/dayからスタートしました。薬剤には1度に吸収される量に限りがあるため、これらの錠剤を複数回に分けて摂取します。錠剤を半分に割って1日に4回(朝昼夕就寝前)で飲みました。飲み始めて1か月間くらいは特に変化が起きませんでしたが、2か月目に入ったあたりで胸の張りを感じ、その後数ヶ月で徐々に膨らんでいきました。同時に体毛も薄くなり(伸びる速度が減るというより1本1本が細くなる感じでした)、また生々しい話ではありますが男性的な性欲の減退と精液が薄くなる変化もありました(本当に生々しい話ですごめんなさい)。しかしながら嬉しいことばかりでなく、効果を実感すると同時に副作用を感じる機会が増えました。具体的には吐き気や食欲不振、胃もたれ胸焼け足のむくみ等ホルモンバランスの乱れに起因すると思われる多種多様な症状が出ました。ホルモン摂取はこのあたりの症状が一番身近で苦しいところかと思います。
 苦しみながらも3か月ほどこの用量で飲み続けた結果、副作用は少し軽減してきました(足のむくみ等は続いていましたが)。そこでほぼ最大量であるプレモン4錠/day、マレフェ2錠/dayに増量してみましたが、結論から言っておくとこの量はかなり多いです、できればやめておいた方が無難だと個人的には思っています、命が怖くないなら別ですが…… まず効果としては今までよりも胸が膨らみ毛は薄くなり精液はほとんど薄い粘液状の何かが出るだけになりました。が、副作用も同時に今までの比ではなく激しい吐き気と胃もたれに襲われてまともに食事をする気も起きずに寝込む日々が続きました、これが原因で結果的に高校を辞めた話は以前の記事でも紹介した通りです。食事をする気が起きないので当然痩せます、数ヶ月で10㎏近く痩せました。かなり苦しかったです。
 しかしながら生物の適応力とは恐ろしいもので、この量も半年ほど飲み続ければ副作用もだいぶ減りました。最初の服用開始から1年と数ヶ月が経過し、もうすっかり体つきも(皮下脂肪がつくので丸みを帯びた身体になります、また太りやすくもなります)胸もだいぶ変化したころ、先述した通り身体の変化から親にバレました。この時は軽く事情を話しましたが特に取り合ってもらえなかったのでそれ以上話すことはしなかった気がします。このころ仕事もなくて精神も病みかけで吹っ切れてたので、何か強い錠剤は無いかな~とネット巡回していたら見つけたのが先ほどチラッと書いた例のダイアン35でして、当時どうなってもいいやの精神で生きてた私は迷うことなく手を出しました。
 ちなみにこのダイアン35ですが卵胞ホルモンとして含まれる成分がエチニルエストラジオール(EE)となってまして、これがE2に対してどう違うかと申しますと以下の化学物質データベースで” Ethinyl estradiol is different from estradiol due to its higher biovailability”とあるように、E2に対してbiovailabilityが高いとあります。
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Estradiol (③)
さてここで登場したbiovailabilityという単語ですが、これは調べていくとどうやら生体利用効率(bioavailability)のことのようです。さらにいろいろ読み漁ると、EEはE2に対して経口摂取での生体利用効率が高いということが分かりました。これはつまるところ経口の場合EEの方がE2に比べて経口の場合より効きやすいということが分かりました。ダイアン35の場合1錠当たりEEがが0.035㎎含有されており、そのほかに酢酸シプロテロンが2.0㎎含まれています。
 結論から先に申し上げるとMtFの女性化目的でダイアン35を服用することは私個人としてはやめた方がいいんじゃないかと思います。確かに効くには効くのですがその理由として、先ほども書きましたが酢酸シプロテロンが及ぼす血栓症のリスクが非常に高く長期的な服用に向かないことが挙げられます。現にピル(この薬品はもともと低用量ピルだそうです)として服用した患者の中で死亡例も出ているそうで、また②でも示されているようにMtFの治療目的でも長期摂取は避けた方がよいと明言されている以上自己判断での服用はやめた方が無難かと思われます。
 しかしながら当時(やっと18歳になったくらい)のそんなことなど意識していない私は果敢にもこの錠剤を服用し始め、なんと20歳でホルモン注射に切り替わるまでのみ続けていました(!)なんという馬鹿でしょうかね。1錠/dayで服用していましたが飲んだ感想としては、まず飲み始めには強烈な副作用が来ます。E1で1年少々身体を慣らして体内のホルモン濃度もある程度上がったところで飲み始めてもなお強烈な吐き気と胃もたれに襲われたのでなかなかでした。副作用が強烈なだけに効果も強烈で、服用を開始してからの2年で男性化はほぼ止まり、胸はもうすぐBカップと言うところまで膨らみ、また生々しい話で申し訳ありませんが精液はほぼ出なくなりました(本当に出ないです、射精感はあるのに出ません)。まさに諸刃の剣ですね、効果だけからもわかるように相当やばいです、ついでに後から血液検査をして分かったことですが血液もドロドロになっていたので本当にお勧めしません()。
 ちなみに余談としてダイアン35を1錠/day、つまりEEを0.035㎎/dayという量が(あくまでEEの摂取量として)妥当だったのかという話ですが、これについては https://academic.oup.com/jcem/article/88/8/3467/2845109  (④)
(Endocrine Treatment of Transsexual People: A Review of Treatment Regimens, Outcomes, and Adverse Effects by Moore et al., 2003)
に記載されている”Recommended hormonal treatment regimes and follow-up for transsexual people”のTableに”Ethinyl estradiol 100 μg/d”とあります。つまりこれは0.1㎎/dayということになり、この文献によればダイアン35を1錠/dayという量は、EEの薬効および副作用に限って言えば妥当だったのかなと思われます。実際慣れてきたときなどに2錠/dayまで飲みましたが普通に飲めました。とはいえダイアン35だけはお勧めしないので飲むなら別のEE製剤にしましょう。

 さて、長々としてしまいましたが、私のホルモン錠剤個人輸入体験記(+大量の文献引用と蘊蓄)は以上になります。実際の飲み方を体験を交えて解説しているサイトは数多かれど具体的な文献を基にしているところは少ない印象を受けたので、今回は私の赤ちゃんレベルの英語力で何とか文献漁りをしてある程度信用できそうなソースを揃えて実際の私の飲み方と照らし合わせてご紹介いたしました。
 何度も言うようですが、引用した文献は主に海外の研究であり、日本人などとは体格や体質も異なることが推測されます。また薬効および副作用に関しては同じ人種であっても個人差が非常に大きく、リスク管理は非常に難しいものです。さらにこの記事を書いている私は残念ながら医師でも薬剤師でもない一般人なので文中に記載した用量に関して健康上の問題に対する責任は負いかねます。あくまでこういう文献にこういう用量が紹介されてて、それに基づいてこれだけの量を飲んだらこんな感じでした、という体験記の体で記事を書いていますので、そのあたりをご理解の上、参考にされる際にはくれぐれも自己責任でお願いします。あと血液検査はできれば受けましょう、放っておいて血栓できてたではシャレにならないので…
 また、私のように性同一性障害の診断を受ける前に個人の判断で勝手にホルモンを摂取する行為は、フラホル(フライングホルモンの略)とも言われ一般的にあまり好ましくないこととされています。私の場合はたまたま病院での注射に移行することができましたが、フラホルをよく思わない医師では見解が異なることも想定されます。こちらについても将来の性別移行ビジョンを明確にしたうえでリスクとリターンを十分に検討したうえで自己責任でお願いいたします。

 それでは、ここまでお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。8000字近いと書くほうも疲れますが読むほうも疲れると思います。お疲れ様でした。それでは

P.S. 文献漁りをしている最中でthromboembolismという単語を初めて見かけました、日本語では血栓塞栓症というそうですが、血栓症を意味するthrombosisと何が違うのかと思い調べてみました。どうやら血栓症は血管中で血栓が発生すること、そして塞栓症はこれが血流によって流され別の部位で血管を閉塞することで臓器障害を引き起こす疾患のことを指すようです。どちらも一生使わなそうな単語ですね、少なくとも死因にはしたくないです……

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