改名をした話

 ご無沙汰しております、侑です。毎週投稿を欠かさないように意識していたのですが、ひょんなことで1週間開けてしまいそこで心がぽっきり折れて更新が途絶えておりました。
 さて、今回は改名の話をしようと思います。実は私は性同一性障害を理由に昨年の夏に戸籍名を変えていまして、そのときの話ですね。性同一性障害についてや診断に関する話は過去の投稿を参考にしていただければと思います。

1.改名審判に必要なもの

 改名審判に必要なものをまとめると以下の通りです。
①改名手続きの申立書
②申立人の戸籍謄本
③収入印紙800円分(申立書に貼る部分があります)
④返信用郵便切手(裁判所との文書のやり取りに使用)
⑤診断書
⑥通称名の使用実績

 まず①ですが、これは
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_20/index.html
よりダウンロードし印刷して記入します。おそらく難しいのが2枚目になるかと思います。以下に私が実際に提出したものから個人情報関係だけ伏せたものを示します。

改名 申立書

「申立ての趣旨」欄には前の括弧に元の戸籍名、後の括弧に新しい(現在通称名として使用している)名前を記入します。次の「申立ての理由」欄ですが、ここはほぼ定型のようなものがあり、まず「性同一性障害の診断を受けており、女性として社会生活をしていること」、そして「現在の名が男性を示唆するものであるため女性としてのアイデンティティを確立するうえで苦痛が生じていること」、最後にこれらの根拠をもとに「現在使用している通称名に改名することを強く求めること」を記入します。インターネットを探せば雛型のようなものは転がっていますが、できればこの欄は自分の文章で書いたほうがよいと考えます。司法とは言え、申立書を読み審判をするのは人間ですから、コピペのような文章を送るよりかはいいかと個人的には思っています。

 ②~④は事務手続きに必要なものになります。戸籍謄本は役所に行って取ってきましょう、「抄本」ではなく「謄本」が必要なので注意しましょう。発行3か月以内のもので現在の情報と変更がないものであれば使用できます。収入印紙は申立書の1枚目に貼り付けます。④の返信用切手ですが、これは審判までの過程(審判結果を含む)で裁判所から書類が何度か送られてくる際に使用するもので、各都道府県によって必要な金額が若干異なります。以下のWebサイトが詳しいのでリンクを示します。
https://www.osaka-everest.com/yuken-japan/

 ⑤の診断書は精神科(ジェンダークリニック)で取得しましょう。私は主治医に「名前を変えたいのですが……」と言ってみたら改名用の診断書を出してもらえました。内容は、「性同一性障害と診断する。○○年からホルモン治療を受けており、社会生活上の苦痛を軽減するためには改名が有効である。」といった感じの文言になるかと思います。クリニックにもよりますが大体5000~10000円程度で取得できます。

 最後に使用実績ですが、多くの場合ここが手続きで最も難しい部分になるかと思います。最低でも1年以上通称名を使用していたことが分かる書類が必要になります。私が提出したものを具体的に挙げると、バイト先のシフト表(年月日入り)、航空券(国内線)、友人からの手紙の封筒、ホテルの領収書、ポイントカードになります。職場関係の書類は女性としての社会生活を裏付けるものとして非常に強力です。職場と交渉して通称名を社内文書などでも使用させてもらえると非常に実績作りがスムーズになります。個人で仕事をしている場合は相手の同意を得て報告書や契約書を通称名にするのも有効かもしれません。
 旅行に行った際などはできるだけ通称名で宿泊しましょう。宿のチェックインでは基本的に身分証を見せる機会はないと思うのでパス度のチェックにもなります。ちなみに少し前に話題になったGoToキャンペーンの時は、まだ改名前で身分証の提示ができなかったので定価で宿泊して実績作りしましたw。そのほかに重要になるのは友人知人からの手紙の封筒(消印付き)でしょうか、これはだいぶ有名ですね。
 どの書類を提出するかは個人次第といったところがありますが、ここで最も重要なのは「日付入りのものを多く用意する」ということです。改名の審判においては通称名を使用した期間が重要になってきますので、いくら使用実績が多くても、短期間でかき集めることができるものだと効力としては弱くなるようです。1年以上前の日付入りのものを用意できるように、できるだけ長期間で様々な使用実績を作りましょう。可能であれば職場をうまく活用するのが最も手っ取り早いです。

2.審判までの流れ

 改名の審判は現住所を管轄する家庭裁判所で行います。私が経験した流れとしては、
①裁判所に必要書類を提出しに行く(郵送も可)
②1~2週間で照会書が届く
③照会書に記入をして提出
④さらに1~2週間で審判結果が郵送されてくる
といった具合でした。①の書類の提出に関してですが、裁判所に直接持ち込む場合は受付に通され提出書類の確認があります。郵送でも可能ですが、不備があるのが怖かったので私は直接持ち込みました。持ち込んだ日は提出だけして終わりです。
 1~2週間経ったころ、裁判所から照会書というものが届きました。ネットで調べた事前の情報では、「裁判所から電話がかかってきて面談の日時を決める」とあったのでてっきりそうだと思い込んでいたのですが、実際は先に照会書が届きました。これは裁判所が審判の内容に関して詳細に聞き取りをしてくるもので、様式は各裁判所によって多少異なる可能性がありますが、聞かれる内容は多くの場合同じかと思います。具体的には「現在の名前だと不便であることを詳しく記入」「今後戸籍名として使う名前をいつだれが決めたか」「家族には同意を得ているか」「借金はあるか」といった内容について聞かれます。質問形式になっていて記号または記述での回答欄もあるのでそれを埋めていくようにすれば大丈夫かと思います。書くときの注意点としては、記述の回答欄が思いのほか狭いので、できるだけ小さい文字で書いたほうが良いかと思いますw。
 照会書を提出してさらに1~2週間経った頃にいきなり審判結果が届きました。電話が来て呼び出しがあると思っていたので正直驚きましたが、おそらくコロナの関係で対面での面談が省略されたのではと考えています。同時期に改名したMtFの友人は普通に呼び出されて面談があったようなので裁判所によって対応はまちまちなのかもしれません。面談の場合見た目も確認されるので(社会的に)女性として生きられるくらいのパス度はあった方がよさそうです。

3.各種改名手続きの話

 改名の審判結果は以下のような文書で送られてきます。

画像2

ほぼ通るとわかっていても(通らない可能性がある場合は申立書提出時にその旨言われるらしいです)、やはりこの書面を見たときは感動しました。しかしながらここで感傷に浸っているわけにはいきません、まず改名許可の結果が到着したらすぐにコピーを10枚くらい取りましょう、できればフルカラーでスキャンもしましょう。というのも、この原本は役場に提出して戸籍上の名前の変更手続きに使用するのですが、その際に回収されてしまいます。そのため、それ以外の銀行や各種登録サービス上の名前を変更する際に改名を示すものがないため、あらかじめコピーを取っておくと都合がよいというわけです。役場ではこの許可証と印鑑(認印)、本籍地と手続きをする自治体が異なる場合にはこれに加えて戸籍謄本が必要になります。結構時間がかかる手続きなので平日を狙って行くといいと思います。

 晴れて戸籍上の名前が変わったらその場所で住民票や戸籍謄本等を取得しておきましょう。国民年金や国民健康保険は役所で同時に手続きができるかと思います。変更が必要なものはあらかじめリストアップしておくとよいでしょう、変更する順序を間違えると別のサービスを変更する際に手続きに必要な書類が確保できない(新しい名前での身分証がない)等の問題が出てきます。戸籍の変更が第一ですがそのあとは公的な身分証から順番に変更をかけていくのがスムーズです。
 私は運転免許証→それを持って銀行へ→新しい名前でクレカ作成→各種サービスの登録変更の順番で手続きをしました。ここで注意が必要なのが運転免許証で、氏名の変更自体は地元の警察署で行うことが可能ですが、この場合は既存の免許証に裏書きで変更になります。つまり、古い戸籍名が表示されたままになるのでこのままだと男性だとバレることになり、改名した恩恵があまり受けられなくなります。私はそれがどうしても嫌だったので、地元の免許センターへ行き裏書きした免許証と再発行の手続き料を収め破損再発行にしてもらいました。紛失の場合は免許証番号が変わり信用情報等に影響が出ますが、氏名変更の場合は破損等の扱いになるので番号は変わりません。再発行の形式上顛末書を書くことにはなりますが、即日で新しい名前の免許証を受け取れるのでお勧めです。

 免許を受け取ったことで新しい写真付き身分証明書が手に入ったことになるので、そのあとは銀行に行きました。ここで盲点だったのが、銀行口座の変更には元の戸籍名と同一人物であることを証明する必要があり、私は運転免許を作り直して古いものを返納してしまったためこの証明で苦労しました。結論から言うと改名許可の審判のコピーを提出することで事なきを得ましたが、できれば警察署で裏書き変更だけをした後、各種銀行やクレジットカードの変更申し込みをして、それから免許の再発行をしたほうがいいのかもしれません…… キャッシュカードも新しい名前で再発行してもらいましたが、2社とも手数料は不要で1週間程度で届きました。ここで注意点としては、銀行でカード再発行を申し出ると古いものは悪用防止のため窓口で回収され、引き出しの際には通帳を使用するようにと言われます。私の口座は地方銀行だったため、都内では銀行のATMが存在せず、1週間ほど手持ちの現金が枯渇寸前になりました。手続きの前にはあらかじめ十分な量のキャッシュを持ち合わせておきましょう
 私はクレジットカードを当時持っていなかったため、改名後に新しく申請をして作成しました。免許証だけで手続きができるので私は性別もこの段階で女性にして申し込みましたが普通にANAカード(VISA)の審査に通りました。他のを試していないので断言はできませんがやってみる価値はあると思います。先に性別を女性で登録しておくと後でSRSを受けて戸籍上の「性別」を変更するときに余計な手間がかからずに済みます
 あとはマイナンバーカードでしょうか。私はついぞ今まで申請していませんが、最近はどこでもマイナンバーを要求されるので氏名変更のついでに作ったほうがよいかもしれません。この前も証券会社の口座を作成する際にマイナンバーの提出を求められ、元の通知カードは古い戸籍名で使えず、やむを得ず役場まで行ってマイナンバー入りの住民票を取得し提出する羽目になりました。運転免許を持っていても2枚目の写真付き身分証明書として用意しておいたほうがよさそうです。

4.改名で得られるメリットとか

 改名をすると想像以上に多くのメリットがあります。まず一般的なところから言えば買い物が楽になります。今まで名前のせいでクレジットカードを作れなかったので通販関係がとてもやりにくかったのを覚えています。なんでも便利に買えるのはいいですが買いすぎには気を付けましょう(自戒)
 クレカ作成に付帯してカーシェアも使えるようになりました。私は実家の親が厳しかったので家に車はあって保険にも入っているにも関わらず乗ることができませんでした。田舎道を延々自転車移動か歩きだったのでようやく楽ができるようになりました。

 オフィシャルなところでいえば仕事関係でしょうか、改名をしたことで履歴書も堂々と女性名で書くことができますしここまでくれば性別欄も女に丸を付けられます。ただしここで注意が必要なのが、名の変更だけをして性別を変えていない場合です。入社に際して住民票などの公的な書類を提出する必要がある際にそこで名前と性別の不一致が生じます。完パスで入社しようとする場合にここでトランスバレするので気を付けましょう。
 あと、これは以前の学校選びの記事でも触れた内容ですが、学歴に男子校が含まれる場合、地元で就職しようとするとやはり名前と性別の不一致が生じ、トランスであることを話さなければいけなくなります。私が改名後に入社した会社では、それ以上性別のことについて掘り下げられなかったので助かりましたが、お堅い仕事の場合根掘り歯掘り聞かれる可能性もあるかもしれません、どうにもならないことではありますが覚悟はしたほうがよいです。
 仕事に付帯して通勤定期も堂々と女性名で買えるようになります。通勤定期の場合買うことそのものに身分証は必要ないのですが、払い戻しや紛失再発行の際に身分証を提出する必要があるので改名前に女性名で買ってしまうと払い戻しができなくなります。実際私は某電機メーカー勤務の時にそれをやってしまい、退職の前月に3か月定期を購入してしまったために2か月分を自費で負担することになりました。かなりの距離があった定期だったのでものすごい金額の損失をしたのを覚えています。苦い思い出です。

そのほかにも改名によって受けられるメリットは様々かと思います。何より、「もう自分の手で男性名を記名しなくてよい」という事実が一番大きかったです。名前に苦しめられ性別で人生前半を棒に振った私としては、堂々と女性の名前で(社会生活の多くを先行して女性として)生きられる喜びは計り知れないものでした。おそらく読者の中にいらっしゃるであろう性別違和の方の多くもそのような苦痛を感じてると思います。SRSをして戸籍上の性別を変える際に名前を同時に変更するやり方もあるようですが、まずは名前だけでも先に変えることを強くお勧めします。

5.まとめ

・改名の申立書は自分の文章で書いた方がよい
・最低でも1年以上の使用実績が必要、女性名の決定と使用開始はお早めに
・改名に関しては細かく理由や名の決定背景を聞かれるので予め答えられるように準備しておく
・審判結果が届いたらまずコピー、スキャン!!
・身分証や各種口座、サービスの変更は事前にリストアップと順番のシミュレーションをして手詰まりが起こらないように検討を!!
・改名すると想像以上にメリットが大きい、特に仕事関係
・改名によるメリットがある一方、戸籍謄本の提出や健康診断、出身学校等でトランスバレすることはある、改名は性別変更までの途中過程に過ぎない

 ざっくりとまとめるとこんな感じです。毎度のように6000字を超えて読みにくくなってしまったと思いますが、ぜひ苦しんでいる人の助けになればと思い私の経験はすべて書きました。これから改名を考えてる方、裁判所というなんとなくとっつきにくい組織とのやり取りで気が重いと思いますが、得られるメリットはかなり大きいので頑張ってください。では、また次の更新でお会いしましょう!!ばいちゃ!!



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