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嫉妬市場。

目を疑うというのはこのことだ。
ガラス越しに見えた顔に、ドーブは久々に驚いた。
「これはこれは、キルケ先生!こんなところでお会いするとは」
人間の感情を闇市場で売る河童のドーブは、腹黒さを思い切りコーティングして、老いた河童に話しかけた。
「本当に。生きている間にここに来ることになろうとはな」
「で、どんな感情をおのぞみですか?」
「嫉妬じゃ」
「ほう。それは意外な。キルケ先生とあろう方が。」
「わしは一度もそのような感情を持ったことがないのでな」
河童は古来より人間界に出現する、八百万の神の端くれ的な存在であるが、実は、一番人間に近い社会を形成している。
「わかりました。それでは、キルケ先生にもっとも相応しい嫉妬をご用意しましょう。覚悟はよろしいですか?」
「わかっておる。」
キルケは、緑の顔に清々しさをたたえ、ドーブの差し出した契約書にサインした。
その後、キルケの姿をみたものはない。




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