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方程式その3「すべてを包み込む聴く力〜木村英一さんの巻」

 「ほんで、樫野の大学生活どんな感じ?」
 就職面接とは思えないラフな雰囲気で、情報資料室の木村英一さんは僕に質問してきた。
 

 「あんまり面白くないです。というか腹立つことがあるんです。クラスメートと話すとテニスとスキーの話ばかりで、いつも『00ちゃーん』と女の子を追っかけている。なんか情けないなぁと。いつのまに大学生はこんなにナンパになったのかと。と言いながら自分は部活動まみれの生活なので、実は羨ましいだけかもしれませんが(笑)。」


 「そうなんや。オマエそんなこと考えてるんや。それから、それから?」
 たいした事を話しているわけではない僕の戯言をマジメに、かつ楽しそうに、絶妙のタイミングで「あー、そう。ほんまに!」と相槌を打ちながら聴いてくれる。
 すっかり気分が良くなった僕は、日頃思っていることや将来の夢なんかを時間を忘れて語りまくった。
 おそらく僕と木村さんの話の分量は8:2。
 食事を終えて帰る頃には、すっかり木村さんのことが大好きになり、
「こんな人の下で働きたいなぁ」と思うまでになっていた。

 そして三度目の食事、忘れもしない1985年6月24日。
世の中は松田聖子と神田正輝の結婚式に沸き、サントリーのペンギンズバーのCMソング「スイート・メモリーズ」が店内に流れていた。

 なぜか男2人なのにムード満点。
デートの告白タイミングのように、おもむろに木村さんは切り出した。
「いろいろ話をしてきて思ったんやけど、樫野がそういう考えを持っているんだったら、リクルートに来ないか?」

突然の話の展開。だけど、戸惑いはなかった。
(その言葉を待ってました)とばかりに
「はい。木村さんの下で働きたいです。」
と頭を下げ、ガッチリ握手。

 これまでの3回の食事の中で、リクルートの話はほとんどしていない。なので、事業内容など何も知らない状態で自分の進路を委ねるという大胆な・・・いや無防備で危険な決断をしたと、今なら思う。

 だが、その時は思いが通じたばかりの興奮状態。
「この人に嘘はないし、他社で会った方々に比べて楽しそうに仕事をしているのは間違いない。何より、包み込んでくれるような受け入れ方、懐の深さのある人の下で働けるなら、きっと伸び伸びと自分を発揮し、仕事ができるだろう」と、根拠のない自信を持ってしまった。

 冷静に考えると、新人配属で必ず木村さんの下で働けるという保証はないし、先輩みんなが木村さんのようであるはずないのだが、
「僕にはリクルートしかないし、必ず木村さんの下で働ける」
という思い込みで就職を決めることになる。

 就職活動ではよく「コミュニケーション力」が大切と言われるが、一般的には「話す力」に力点が置かれていることが多いと思う。

 人前で堂々と話す、わかりやすく論理的に話す、質問に対して的確に答えるなどももちろん重要だ。

 しかし、「話を引き出す」、「話を受け入れることで相手を気持ちよくさせる」「相手に話をさせることで、相手の当事者意識や主人公感を醸成する」ための「聴く力」の効果が絶大であることを僕は身をもって体験したのである。

 ちなみに親父には、「もっと良い大企業に行け」と大反対されたが、サントリーと住友商事にお断りの連絡を入れ、無事リクルートに入社。幸運にも木村さんの直属の部下として神戸支社に配属された。

 運が良かったとしか言いようがない(笑)。

時は流れて2009年。
一度目の神戸市長選挙を目前にして、僕は神戸再生フォーラム代表の高田さんと会っていた。
僕を応援するかどうか、いわゆる「品定め」の面会だ。

4時間に及ぶ意見交換で、僕が話したのは1割、高田代表が9割。
かなりの熱量で、高田代表は神戸の課題や政策を語ってくれた。

そして、面談終了後に高田代表はこう言った。
「候補者として、もっと神戸のことを勉強してもらわないといけないけど、
人としては信用できそうだから、支援する方向で検討します」

「ありがとうございます」
お礼を言いながら僕は思った。

木村さんの方程式、すっかり自分のものになったかなと。

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かしのたかひと

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リクルート、福岡ドーム、メディアファクトリーを経て、映画プロデューサー、ベンチャー経営者、政治家、作家に。