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バレエ感想「親子で楽しむ夏休みバレエまつり ヨーロッパ名門バレエ団のソリストたち」


光藍社が主催する夏のガラには毎年行っていますが、今年は特に出演者のレベルがかなり高く、チケット代の元を取るどころかチケット代以上の内容でとても見応えがありました。全員かなりの実力者で、観客に真摯に向き合ってる様子が伝わってきました。夏休みに海外から日本にやってくるダンサーは多いですが、正直サマーバケーションモードで適当に踊るダンサーも多いです。しかし今回の出演者は全員気合が入っていて「お客様に良い踊りを見せたい」という気持ちが伝わってきました。
所属する国バレエ団を代表してきているという意気込みがあり、出演者たちの所属するバレエ団のイメージがかなり良くなりましたし、ぜひいつかその国で舞台を見てみたいと思いました。近年の光藍社のサマーガラで一番良かったですし、今後もこういうクオリティの公演を見たいです。

各演目について

①「眠りの森の美女」よりローズアダージオ
ジョージア国立バレエ団プリンシパルのニノ・サマダシヴィリがオーロラを演じ、ソーレン・サカダレス、ラファエル・ヴェドラ、パーヴェル・サーヴィン、ルカ・アブデル=ヌールが4人の王子を演じたのですが、これがとても良かったです!初めの演目で華やかなニノがオーロラを演じることによって1番の対象である子供たち、特に女の子のハートをガッチリ掴んでいました。王子たちも全員一切気を抜かずに演技していたのですが、特に水色の衣装の王子様(多分ルカ・アブデル=ヌール)がずっと微笑んでいて、お花の香りをかいだり、オーロラ姫へのアイコンタクトを欠かさないなど、とても良かったです。

②「ラ・シルフィード」よりパドドゥ
スロバキア国立バレエ団の三浦のぞみさんと、ウラジスラフ・バセンコによって演じられました。三浦さんはかなり明るくてテクニックが強そうなのでキトリとかも合いそう。絶対に失敗しないシルフィードって感じで、クリサノワを思い出しましたし、バセンコの足さばきはニキータ・スホルコフを彷彿とさせました。

③「白鳥の湖」第2幕 アダージオ
なんと元ボリショイのエルビナ・イブライモヴァが登場!めっちゃセクシー!こんなオデットなら男は誰でも虜になるだろうな…。ラファエル・ヴェドラはラインが美しい。

④「くるみ割り人形」よりパドドゥ
これは凄かった。カロリーナ・バストスは強靭なテクニックを持っていて、テクニックを見せる演目ではないのに、彼女の積み上げてきた物凄い量の訓練と日々の鍛錬の跡を感じました。そしてボリス・ジューリロフはノーブル。一緒に踊っている女性を気遣い、美しく見せていると感じました。

【番外編】バレエのポーズを体験
ここで白鳥の湖でコールドとして参加していたレダ・シェパロヴィチとニナ・アフォニナが登場。1番ポジションやレヴェランスなどを客席の子どもたちと一緒に披露してくれたのですが、2人とも足のラインが美しくて近くのマダムは「あの足のしなりが凄い、綺麗」と感動してました。レダさんについては後述。

⑤「薔薇の精」
ロイヤル・バレエ団所属のスタニスラウ・ウェグリジンとマリナ・マタ・ゴメスによって演じられましたが、踊りはとても綺麗なのですが、衣装が女性的すぎてLGBTQのパレードを見ている気分でした。もう少し落ち着いたトーンのピンクでも良いのではないかと感じました。

⑥「人形の精」よりパドトロワ
ハンガリー国立バレエ団で活躍するディアナ・コシェレワ、ピエロにはバイエルンのソーレン・サカダレスとラファエル・ヴェドラがイン。コシェレワはコケティッシュで可愛くてみんなが虜になるのがよく分かり、ヴェドラはあっかんべーをするなど子供にわかりやすい表現をしていたのが印象的でした。サカダレスは高身長で、この身長のダンサーって動きはイマイチなことも多いのですが、彼はよくコントロールしているなと感じました。

⑦「ジゼル」より第2幕のパドドゥ
スロバキア国立バレエ団のオリガ・チェルパノワとウラジスラフ・バセンコによるパドドゥはとても美しかったです。オリガは不思議な浮遊感と人を惹きつける美しさがあり、バセンコはこの短い出場時間でアルブレヒトの悲しみを表現しようとしていたことが印象的でした。

⑧黒鳥のグランパドドゥ
直塚美穂さんとボリス・ジュリーロフによるパドドゥ。直塚さんがニッコニコで楽しそうでした。高い技術力と柔軟性をこれでもかと言うほど見せてくれましたが、後ろでそれを引き立てるボリスも凄い。彼は女性を綺麗に見せるダンサーだと改めて思いました。

直塚美穂さんのオディール(黒鳥)について

直塚美穂さんはボリス・ジューリロフと「黒鳥のパドドゥ」を踊りましたが、事前にバレエチャンネルや石井久美子さんのYoutubeチャンネルで練習動画を見ていたので、絶対に良い舞台を見せてくれると期待していました。
直塚さんは踊りとテクニックは日本一ですが、今までの舞台を見て演技は苦手なのかなと思うことが多かったです。しかし今回は黒鳥をどう表現するか芝居についてもよく考えられており、彼女の踊りを見ていて2月にパリオペラ座バレエ団の来日公演で見たセウン・パクさんを思い出しました。
王子に視線を送って魅了するだけでなく、ところどころ観客に向かってアイコンタクトをして引き込んでいく様子は、まるで私たちもロットバルトとオディールの仲間のような気分にさせてくれ、一緒に王子を騙す悪事に加担している気分にさせてくれました。おそらくこの動画にあるように、パートナーなのボリス・ジューリロフやコーチの石井久美子さん達と沢山話し合って役作りをされたのではないかと思います。

演技面での一新だけでなく美しいポールドブラも健在で、アダージオの途中で白鳥のふりをして悲しそうに手を羽ばたかせるシーンはほんの一瞬なのにこちらまで同情したくなるくらい物悲しくて美しかったです。私はこのオデット/オディールをオペラパレスの舞台で見たいと心から願わずにはいられませんでした。
直塚さんは非常に体が柔らかいダンサーなのでその長所を生かすかのように6時のポーズ(足を高く上げる)が随所にあったのが印象的でした。

印象に残ったダンサーについて

ニノ・サマダシヴィリ(Nino Samadashvili)

ニノ・サマダシヴィリさんは、最初にローズ・アダージオでオーロラ姫役を踊ったのですが、テクニックが強いだけでなく本物のお姫様のように華やかでした。ただ難しいポーズを決めることに必死になるのではなく、トゥシューズでバランスを決めながらも上半身は常に優雅で、男性の手を取る時もギュッと握るのではなく添えているように見え、なんの苦労もせずにバランスを取っているように見せている様子は素晴らしかったです。
今年のジョージア国立バレエ団来日公演のキャストは発表されていませんが、実はチケットはすでに買っているので、ニノさんの回に当たると良いなと今から願っています。

カロリーナ・バストス(Carolina Bastos)

印象に残ったダンサーは全員ですが、特にカロリーナ・バストスのテクニックの強さに圧倒されました。彼女が披露したのは「くるみ割り人形のパドドゥ」なのでテクニックをアピールする演目ではありませんが、強靭で1ミリのミスも許さないという鍛錬の強さを感じてドキドキしました。
カロリーナはかなりテクニックが強いダンサーです。くるみ割り人形も素敵でしたが、キトリとかザレマとかも似合いそう!またカロリーナの踊りを見たいです。

レダ・シェパロヴィチ(Leda Šeparović)

個人的に今回の出演者で一番驚いたのが、なんとコールドに以前ドキュメンタリーで見てからずっと応援していたレダ・シェパロヴィチ(Leda Šeparović)が参加していたこと!このドキュメンタリーを見て以来どうされているのか気になっていましたが、現在は地元のクロアチア国立バレエ団で踊っているそうです。
レダさんはコールドとして白鳥の湖のアダージオのシーンに参加するだけでなく、今回は子供向け公演ということもありバレエのポーズのデモンストレーションとしても登場しました。手足のラインがとても美しく、隣にいたマダムも「あの足のしなりが美しい」と感嘆しており、ぜひコールドだけでなくまた日本で踊ってほしいと思いました。

余談ですが実は昨日別のガラ公演を見に行き、そこにもクロアチア国立バレエ団で踊るプリンシパル達が参加していたのですが、転ぶわ遅れるわ失敗するわ下品だわでクロアチアのバレエ団の印象は非常に悪くなりました。
しかし今日の舞台でレダさんと4人の王子を演じたパーヴェル・サーヴィンはとても美しい踊りを見せてくれ、クロアチア国立バレエ団のイメージが一気に良くなりました。もしいつかザグレブに行く機会があればレダさんやサーヴィンの踊りを見たいと思います。

ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使について

ダンサーではありませんが、駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏の祝い花を見て、さすがだと思いました。彼が祝い花を贈った理由はもちろん冬にジョージア国立バレエ団の来日公演が控えているということもあるかもしれません。しかしこの花が入り口にドーンとあり、「誰の花だろう」と注目を集めますし、送り相手である「ニノ・サマダシヴィリって誰だろう?」と観客の興味を引くこともできます。
ティムラズ氏は日本育ちなので日本語ペラペラかつ日本の文化風習もよく理解されている方です。しかし日本語が出来る外交官は今回の参加バレエ団の別国の大使館にもいますが、ここまできちんと祝意を表したのはティムラズ氏だけです。

ダンサー本人のモチベーションアップに繋がるだけでなく、ロビーに華やぎを与え、またジョージア人ダンサーである「ニノさんって誰だろう?」と観客の興味を引くことも可能にしたという意味で、ものすごくジョージアに注目を集めるよう動かれている大使だと感じました。(実際に私もこの花を見てニノさんにますます興味が湧きました)

余談ですがティムラズ大使の祝い花を見てジョージアが懐かしくなりましたし、また行きたくなりました。
私がジョージアに行ったとき、ラーシャ・キンツラシヴィリ(Lasha Kintsurashvili)さんと言うジョージアの有名なイコン画家の方とお話しさせていただいたのですが、信仰や芸術に対する造詣がとても深かったことが印象的でした。ちなみにラーシャさんはジョージアのトビリシにある至聖三者大聖堂(Holy Trinity Cathedral)のイコノスタシスも描かれているかなり高名なイコン画家です。
トビリシにはいくつか劇場があるみたいで、散策している時に私がバレエが好きでニーナ・アナニアシヴィリが大好きと言う話をしたら、ラーシャさん達から「ニーナはオペラ(劇場?)だ」と教えてもらった記憶があります。私たち日本人にとってはバレエや芸術は近寄りがたく感じることもありますが、ティムラズ大使の祝い花やラーシャさんのイコンを思い出し、ジョージアの方はかなり芸術を愛する方々なのかなと思いました。

ラーシャさんだけでなく、メロンパン作りの修行で日本のテレビに出演したギオルギさんにもお会いすることが出来ましたが、ジョージアは街が綺麗で食べ物が美味しいだけでなく、みんな優しいです。
トビリシに行ったとき、あるディナーの後「アイスクリームを食べないか」と言われたのですが、お腹いっぱいすぎたので断ったところ「では2時間後に食べましょう」と日本では考えられないような優しい提案をしてくださって嬉しかったことを覚えています😊
また私はトビリシからアゼルバイジャンに戻る飛行機の時間を1 a.m.と1 p.m.を間違えて帰りの飛行機を逃してしまったのですが、何も言わずに家で待たせてくれ、夜中に再び見送ってくれた懐の深さを思い出しました。ジョージアは街も人も食べ物も全てが素敵だったなと、ティムラズ大使の祝い花を見て思い出しました。

トビリシの至聖三者大聖堂(Holy Trinity Cathedral)
ラーシャさんが描いた至聖三者大聖堂のイコノスタシス
左下にジョージア文字でラーシャさんのお名前が書かれています。
復活祭明けのジョージアでのご飯はとても豪華で美味しかったです。そしてこれだけたくさん食べた後にアイスクリームを食べる余裕がないのは理解いただきたいです😂
栃ノ心の出身地ムツヘタの大聖堂にて。
右側の男性はメロンパン作りのテレビ番組で有名になったギオルギさんです😊

公演コーディネートを担当したボリス・ジュリーロフについて

今回のツアーについてはハンガリー国立バレエ団で活躍するボリス・ジュリーロフの人脈を使ってメンバーを集められたのですが、ヨーロッパの錚々たるバレエ団で活躍するプリンシパル達だけでなく、コールドも10名以上集めて、雇用を創出している点が素晴らしいと思いました。光藍社も本来であればヨーロッパに支部をつくり、ヨーロッパやロシアに造詣の深いスタッフを雇ってもっと良い公演を主催したいと思っているでしょう。しかしそれは簡単なことではなく、時勢的にも厳しいと思います。しかし今回ボリスがその役割をこなしてくれたことにより、欧米できちんとした人材を集められるコーディネーターを発掘できたことは光藍社にとっても得るものは大きいと思います。
ボリスはおそらくセカンドキャリアも見据えてコーディネート業も始めたのかと思いますが、円安かつ光藍社も無限に予算を出すわけではないこの状況でこれだけ実力あるダンサーを集め、見応えある舞台を提供したと考えるとコーディネーターとしては100点だと思いました。

夏休みシーズンは世界中からダンサー達が日本にやってきます。色々なガラがありますが大体どのガラもダンサー達は夏休み気分で若干気が抜けていることが多く、ハズレがいるのは普通です。しかし今回のメンバーはハズレに該当する下手なメンバーがおらず、この円安下でこれだけのメンバーを集めてくれたことに感動しました。編成も観客が退屈しないようよく考えられており「お客様に楽しんでいただきたい」というボリス達の誠実さを感じました。

また彼はダンサーとしても能力が高いと感じました。ボリスはカロリーナ・バストス、直塚美穂さんのダンサーとそれぞれパドドゥを踊ったのですが、ボリスは一緒に踊るバレリーナを美しく見せるように考えて踊っており、女性陣が安心して踊っているように見えたのが印象的でした。

公式パンフレットにはボリスのインタビューが掲載されていますが、ロシアとヨーロッパのバレエダンサーの考え方の違いなども述べられており、非常に読み応えがあります。彼は30歳を超えているはずなのでダンサーのセカンドキャリアについても考えた上で今回の運営を行なったと思いますが、もし可能であれば現在は指導をかなり熱心に行なっている石井久美子さんと対談して、ダンサーの第2のキャリアについて考えを教えてほしいと思いました。
深い思考力を持つだけでなく広い人脈も持っており、今回もロシア人中心にメンバーが決められたのかと思いましたが、蓋を開けてみるとクロアチアやエジプトなど、ロシア語圏じゃない人もたくさん出演していました。これだけのメンバーを集めてまとめ上げる手腕は素晴らしいです。余談ですがスロバキアでプリンシパルを務めていたり、ハンガリーでソリストだった上手なダンサーが日本の新国立劇場に2人おりまして、ロシア語の縛りがないならその方もぜひ見たいので次はぜひ呼んで欲しいと思いました。

そういえば、私が直塚美穂さんを知った公演は2021年のロシアバレエガラであり、その時も直塚さんはボリスとパートナーを組んでいました。そう考えると私が直塚さんファンになったきっかけはボリスのおかげなのかな…。私の人生はボリスと直塚さんのおかげでかなり豊かになっています😊

おわりに

最後に、光藍社は今冬にジョージア国立バレエ団を招聘し、来年はウクライナ国立バレエ団を招聘します。今回の公演にはウクライナ国立バレエ団の寺田宜弘さんも鑑賞されていました。
ジゼルのチケットの先行販売があるかもしれないと期待してチケット売り場に走りましたが「ウクライナの東京公演は8月中旬発売開始予定です」とのことです。なんとアリーナ・コジョカルとアレクサンドル・トルーシュがゲストにやってきますので絶対に観に行きたいです!
光藍社さま、素敵な公演をいつもありがとうございます。これからも通います😍


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