児童養護施設職員のつらさ
児童養護施設職員のつらさ
児童養護施設職員を目指す人に、ぜひ知っていてもらいたいことがあります。
児童養護施設職員は大変な仕事です。
よく誤解されるのが、「家政婦となにが違うの?」とか「子どもと遊んでればいいんでしょ?」ということですが、まったく違います。
子どもたちは虐待を受けて児童養護施設に入所してくるので、基本的に大人のことを信用していません。
不適切な養育環境で生き延びるために、子どもたちは色んな“生きる技術“を身につけています。
例えばこんなことです。。。
・殴られる前に殴る
・注意されないように嘘をつく
・相手より少しでも優位に立つために威圧する
・大人の顔色をうかがう
・感情のコントロールの仕方を知らない。
そういう子どもたちを相手にするので、一般的なコミュニケーションが通用しません。
朝、「おはよう」と声をかけても無視する子もいます。
お風呂に入る時間になってもまったく動かない子もいます。
学校に行くことができずにずっと部屋から出てこない子もいます。
気に入らないことがあると、殴りかかってくる子もいます。
一般家庭で親に大事にされて育てられ、普通に大学に行って普通に就職する人たちがとる普通のコミュニケーションが、虐待を受けて育った子には通用しません。
子どもたちがなぜそうなってしまったのか、それを考えることができるかどうかが、職員になる第一歩です。
子どもたちは、学習によって行動しています。殴られて育てられれば、気に入らないことがあると殴る子になります。
そう育てられた子どもたちを、別の方法で育てなければならないのです。
それは簡単なことではありません。
殴ってはいけないと伝えても、殴ってしまう衝動は抑えられません。
殴られて育てられた3倍の時間を、殴らずに育てなければなりません。
こちらが殴らないように育てようと思っても、子どもは大人は殴るものだと思っていますので、殴らせようとしてきます。
その方が、「やっぱりね。」と思って安心できるからです。
私も経験がありますが、こちらが本気で叱っているのに、笑って聞く子がいます。「なに怒ってんのこいつ。ウケる。」と言われたこともあります。
こちらが逆上するようなセリフは、湯水のように出てきます。「あ、これ以上関わったら殴ってしまうな。」と思ってその場を去ったこともあります。そうやって自分のことも、子どものことも守るのです。
子どもにいくら煽られても拳を振り下ろさないでいられるか、そこが大切です。
「この子は、こうやって育てられてきたんだから仕方ない。」と思わなければならないのです。
長く一緒に生活している職員であればあるほど、そうしたことが我慢できなくなってくるので要注意です。
特殊な勤務形態
児童養護施設の職員は、宿直があります。
具体的には、例えば10時に出勤してそのまま施設で宿直し、翌10時から次の宿直者に引継をして11時に退勤するという具合です。
通常、宿直業務は21時から翌6時で、4回程度の軽作業のみとなっていますが、児童養護施設ではそうはいきません。
中高生は21時に寝てくれませんし、無断外泊などの問題行動があれば、深夜でも警察署に迎えに行くこともあります。
そうした宿直が、月8回程度あります。
また、施設によっては残業が多くなる場合もあります。
子どもが学校でトラブルを起こした、お店で万引きをした、近所で友達を殴った、親権者が施設に乗り込んできた・・・
そうなると、おちおち退勤していられません。
私も、深夜0時頃に友人と焼肉を食べていた時、施設から電話がかかってきて、施設にとんで行ったことがあります。到着した後、子どもの対応に朝まで時間がかかり、その日も宿直だったので結局家に帰りませんでした。
不測の事態は起きます。その対応は勤務時間内に終わるとは限りません。
そして、残業代が支給されない施設もあります。
児童養護施設は、措置費と呼ばれる運営費を国や自治体から得て運営しているのですが、人件費という項目はあっても、残業代という項目はないのです。
残業代を支給している施設は、もともとの人件費から残業代を余らせて給与を支給しているのです。どちらがいいのか、私にもわかりません。
熱意と体力がある人は、まさに馬車馬のように働くことになるのです。
児童養護施設で働くこと
私は、児童養護施設職員は、覚悟の仕事だと思っています。
子どもたちがどのような人生を歩むのか、決して私たちが決めることはできません。
虐待を受けて児童養護施設に入所してきた子どもたちが、施設にいる間にその傷を癒やし、社会性を身につけ、社会人として立派に世に出ていく。そういう未来を得られる子は、私の肌感では全体の3割程度です。
それ以外の子は、3割は連絡が途絶え、3割は仕事を辞めて路頭に迷います。自分の愛した子がそうなることを、私たちは見守らなければなりません。
私が児童養護施設の仕事を続けられているのは、第一は自分の家族のためですが、それだけではありません。
子どもたちとの生活を通じて、子どもが考えていることがわかった瞬間や、こちらが伝えたいことを子どもが理解したとわかった瞬間、信頼関係が生まれた実感、そういうものが楽しいので、この仕事をやってて良かったと思います。
そういう瞬間はたまにしか訪れませんが、それが続ける理由になるぐらい嬉しいのです。
毎日の勤務は、大変しんどいです。同じように、むしろそれ以上に、子どもたちもしんどいのだと思います。
最後に大切なのは、何気ない日常会話や遅々たる子どもの成長を、本当の意味で楽しめるかどうかだと思います。
私は、自分の子どもがこの仕事をすると言ったら、「やめなさい。」と言います。実際に言ったことがあります。
しかし、自分がこの仕事をやっていて良かったかと聞かれたら、「よかった。」と言います。
今もそれは思っています。
だからこそ、そういう人が増えたらいいなぁと思って、記事を書いています。
ひとりでも多くの方が、児童養護施設に興味を持ってくれたら嬉しいです。
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