選手向けの企業説明会で「データ活用に興味を持つことは大切な人を助けることに繋がる」と話した 〜四国アイランドリーグplusデータレポート(6月第3週号)
この記事の要約
リーグ主催の「選手向け企業説明会」が行われた
6/14(火)に四国アイランドリーグplus所属選手を対象にした企業説明会が開催されました。会の最後に、自分も選手に向けてデータ活用のお話をする場を頂いたので、今日はその様子を書いておきます。
記事執筆前提となるリーグでの自分の役割は、下の記事をご覧ください。
当日のプログラムは下記の通りです。詳細はこちらのプレスリリースからご確認ください。
選手向け企業説明会の意図の詳細は、セカンドキャリアプロジェクトのページもご覧いただければと思います。
年にもよりますが、四国アイランドリーグplusの選手の平均年齢は22~3歳程度、在籍年数は1~2年程度であり、他の独立リーグより若い特徴があります。
今回参加した選手の多くは独立リーグに所属して1年目の半分を終えたタイミング、もしくは勝負の2年目の半分を終えたところです。
その中でNPBの各球団にドラフト会議で指名される選手は5%程度であり、全体の1/4ほどの選手はシーズン終了後に企業等に就職するのが現状です。
同じ選手を抱え続けて興行力を高めることはリーグとしての主目的ではなく、人が育つ機会を作り、NPB各球団や一般社会に良い人材を輩出するという活動の一環に興行があり、活動全体を通して地域社会や一般企業から共感を集め、スポンサーをしていただいているというモデルなので、人材育成の機会のひとつとして企業説明会が行われています。
また、NPBだけでなく一般企業でも活躍するOBが増えることは、リーグが社会的に価値の高い存在として捉えられるわけで、中長期的に持続可能なリーグ経営にも繋がると考えられます。
将来への不安を減らし、意欲・動機形成のきっかけを作るプログラム
下記は「主体性に繋がる良い経験や学習を促進するために、大学に上がったタイミングから必要な教育コンテンツの特徴」に関する研究の一部です。
リーグは高等教育機関ではないものの、前述のように20代前半の若者を社会に輩出するという機能を持っているので、主体的、自律的にものごとに取り組むスタンスの人材を増やすために、経験や学習の機会を作る課題があります。スタンスを身につける上で必要なのは「方法を教える」ことよりも「意欲や動機形成のきかっけとなるもの」が重要だと言われています。
日本で野球に取り組んできている時点でそのスタンスが身についているという状況が理想的なのですが、実態としては必ずしもそうではありません。
そのため、今回の自分の主ミッションは「データ活用の方法やスキルを話すという趣旨ではなく、まだ興味を持っていない人に向けて『そういえば前に話していた人がいたかも』と興味が出たときに思い出してもらえるようにする」というものでした。
なぜデータ活用に興味を持って欲しいか?
講義時に使ったスライドの1枚目なのですが、これだけ覚えてくれたらそれでいいです。と話しました。具体的な語りは次の通りです。
この部分がどの程度記憶に残ったか、もし来年同じタイミングで選手に聞くことがあれば確認してみたいです。
・「自分があなたたちに伝えたいのだ」という話し手の意思を明確にする
・覚えるべきことを最初にして、できる限りわかりやすい言葉を選ぶ
・若い野球選手が自分ごとになりそうなエピソード(結婚とお金)を入れる
・自分のためだけでなく、自分の大切な人たちのためであるという文脈を入れる
・「コスパ、タイパが良いことなのだ」と提示する。
個人的に気をつけた点は上の5点で、1枚目のスライドと自己紹介のスライドの2枚で導入を2分くらい話しました。
ダマされないため
具体的に話した内容についても少し触れておきます。
まず「ダマされないための訓練」という話に関してですが、四国アイランドリーグplusで今年から取っている1球ごとのデータを使って「元データを見ることが大切」という話をしました。
このチャート、左は見逃しやボール(スイングしていない球)、右はスイングしている球がホームベースの前面で通った場所を表しています。どちらも1球が1つの点を表していて、約1万球ずつあります。
このチャートには不自然なところがあります。どこでしょうか?
明らかに不自然なのは高めの見逃しとボールの間に不自然な空間があることです。つまりストライクゾーンのデータが全体的に低くつけがちな可能性があります。
入力ツールの仕様上、見逃しはストライクゾーンで入力する必要があり、ボールはボールゾーンに入力する必要があります。スイングのときはどこのゾーンに入力するかは入力者の判断に委ねられるので、右のチャートように不自然に投球のないゾーンができるということはありません。
上の図は四国アイランドリーグでの左右打者別ゾーン別長打率ですが、データが正しくないと、集計したこの図も鵜呑みにしてはいけないことになります。もちろんある程度正しい部分もあるので、前提を理解した上で活用するという姿勢が重要です。
NPBのプロ野球選手が見るデータは元データではなく、上記のような集計後のデータをさらにアナリストが解釈してレポートとしたものが一般的です。
このときに、独立リーグ出身の選手は元データがどうなっているかを疑う思考があって欲しいと考えています。
正解への近道
「正解への近道」については、前期のリーグ交流戦のデータを元にソフトバンクの三軍の右腕にはストレート平均140キロ以下の投手がいないという話をしました。
その上で、KPIツリーの話をKPIという言葉を使わずにしています。
「目標を立ててKPIツリーを作って各指標を達成する取り組みは社会で行われていることであり、意識の高い選手はそれを無意識のうちにやっている。本当に成し遂げたいものがあるなら、それを達成するために客観的な視点や情報は便利だ」という内容です。
データ活用能力にペーパーテストの点数は関係ない
まとめとして出したスライドがこちらです。
アマチュアやNPB各球団のファームなどでもそうですが、チーム関係者に聞くと「野球選手にデータ活用の話をしたって、興味ある人10%くらいなんだよなぁ」という話になります。ついていけないよ。と。
ただ、本来データ活用は目標に近づくための手段なので、NPBでドラフト指名されたいと少なからずは思って独立リーグに所属している選手はデータを使うための問いを持っていると感じています。
やりたいことや目標が明確にありさえすれば、ChatGPTに聞くことでヒントが返ってくる時代であり、今後その傾向はさらに強まることが予想されます。
この時代に必要な人間の機能は、解決策を考える頭脳以上に、目標に邁進している身体だと考えています。アスリートはそれを自覚さえできれば社会のリーダーになる存在だと私は考えています。
アスリートに近い立場の人にデータ活用の意義を語ってもらえる動きをしたい
以上、先週自分が選手に向けて話した内容をメモしておきました。
大勢の若い野球選手向けにキャリア形成の文脈とパフォーマンス向上の両面でデータ活用の話をするという場は初めてでしたが、現時点で自分が伝えたいことは表現できたかと思います。
ただやはり、講演後に個人的に質問をもらったのは選手よりもトレーナーやマネージャーでした。選手のそばにいるスタッフからの相談の方が多かったです。
実際に、パフォーマンスを高めるための課題は多岐にわたります。詳細は下記で整理していますが、例えば食やコンディションの領域もそのひとつです。
今後、自分のような第三者視点の立場よりも選手により近い人達が日常的なコミュニケーションの中でデータ活用の意義を選手と会話している形が理想的だと感じています。
リーグの話だけでなく、他の場面でも感じていたことではあったのですが、今回、スタッフからの需要が大きいことは改めて感じられたので、スタッフ向けのデータ活用能力を高める場作りを考えています。
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