病院で内診台に乗ったことがあるすべての人に一杯奢りたい

（婦人科の内診の話をするので、苦手な人はページを閉じてこれを読む代わりにおいしい飴などを摂取してくださいね）

はじめに

体調、ひさしぶりに崩しました。

「いやお前しょっちゅう寝込んでるやん」と思うかもしれませんが、社会人になってからは専らそういう機会が減っていただけに、ひさびさに自分の身体の脱げなさに直面して、ちょっと落ち込んでいます。

浜辺の泥みたいな重たい睡眠の中で夢を見ました。
内診台の夢です。

内診台というのは、婦人科などに置いてある診察用の椅子のこと。
最近ちょっとSNS上であんまりよくない意味で話題に上っていることもあり、こういう夢を見たんだと思います。

コートを着てリュックを背負った自分。
カーテンの中に案内されると、そこにあるのが内診台。
言われるがままリュックを置き、コートを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、一呼吸おいてえいやと下着を脱ぎ、内診台に座ります。
自分の目の前のカーテンは、ちょうど脚のところだけ丈が短くなっていて、下半身だけ外に出る状態。この時点で私の瞳からはハイライトが消えていると思います。

ウィーンと椅子が上昇して、落ち方ミスったらギリ捻挫するかなという高さまで来ると背もたれがウイーンと倒れ、最後に脚のところが真ん中からウイーーーーンと左右に開く。

このあたりで「夢だ」と気付き、逃げろ！ウワア逃げろ！！！！！！と意識の手綱を手繰り寄せてギリギリ目が覚めました。体調は良くなっていませんでした。

ピルを飲み始めてほどなく行った子宮頸がん検診で初めてそれに乗った時、さっきよりもよっぽど「夢を見てるのか？」と思ったのを覚えています。

まず銭湯でもない場所で下着を脱ぐ時点で、そんなはずはないのに何かしらの法を犯しているのでは？という抵抗感があり、さらにそのむき出しの下半身だけが他人に見える状態になって、機械で強制的に脚が開くという展開に、私はとっさに感情のブレーカーを落としました。

もちろん「内診台」の名の通り、あくまでこの椅子の目的は内診をしやすくすることが目的で、業務として内診にあたってくれる医療従事者の方には頭が上がりません。

ただ感情のブレーカーを落とした先にある内診でも、カーテンで隔てられてるせいでタイミングもよく分からないままやってくる鈍い痛みに、何度やっても慣れることが出来ません。
この感覚、内診を経験したことのない人に説明するなら、カーテン越しで注射を受けるような感じでしょうか。きっと下半身丸出しで医者と目が合っても気まずいだろうという配慮だと思うのですが、痛いことがあることが分かっていて、さらにその部分を見ようと思っても見られない状況って、本能的な恐怖があります。

しかも内診の後ほぼ確で不正出血(生理じゃない出血)があるので、いつも子宮頸がん検診の後は重くなった下半身を引きずりながら一人で飲んでいます。そうしないとやってられないから。

決して晴れやかなお酒ではないんですが、「私の身体は私のもの、私の身体は私のもの」と唱えるような気持ちで強いお酒を飲むと、自分が口に運んだ盃から熱が食道を落ちていき、どんどん脳の緻密な部分がほぐれていくことの因果関係があまりにもはっきりとしていて、すごく安心する自分がいます。そしてそのまま寝ちゃって全部忘れようとする。検診の日の最悪ルーティーンです。こうして書いてみると限りなく自傷行為に近い気がしてきたので、今度からアルコール度数落とそうかな。

だからこの前Twitterで展示用の内診台に乗ってはしゃいでいる人の投稿を目にしたとき、「ああこの人は病院で内診台に乗らなくて済む人生だったのか」と咄嗟に思った自分が、普段から自分の内診の記憶を遠くに置こうとしているんだということに気付きました。何かと外の刺激をきっかけに内面に潜る自分が、あの時ばかりは受け身のように「内診台」という言葉を外へ着き飛ばそうとしていました。内診台がアダルトコンテンツとして消費されることがあるのも、作品に触れる人たちがほとんど病院で内診台に乗ったことがないからなんじゃないかと思います。乗ったことある上で消費できる方がいるなら、良し悪しを別にして、私とは何かが根本的に違う人です。

聞きかじり程度の知識ですが、海外では内診台周りのカーテンがないところや、脚を開く部分を自分で操作するタイプの内診台があるところもあると聞いたことがあります。
内診って、内診台ってそういうものだから仕方ないよねと諦めてもいいんですが、そんな世界が実際にあるならこういう違和感をたまには口にしてもいいのかなと思って、夢を皮切りに珍しくこういうことを書いてみました。

いつか信頼のおける人と生でこういう話をしてもいいかもしれない。
昨日までとまるで調子の違う身体を引きずるという経験は、当たり前の中にある違和感に対して自分を敏感にしてくれると思うと、結構有難い面もあるかもなと思いました。