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路上で泣くなら逃げてしまえ

2018年11月14日の朝、
私は埼玉県の新座駅前で路上に膝をついてべそをかいていました。

その頃は大学に入って半年ほどで、
新しい生活の勝手がわかったような気分になって予定を詰め込んだ結果、
休日まで課題や授業で埋もれ、
慣れないバイトや確定申告まで土足で生活に踏み入ってきて精神が少しずつすり減っていました。

集中力がなくなって睡眠も浅くなり、朝二度寝をして。
気が付けば時間は遅刻すれすれで、
なぜか電子辞書を認めてくれないフランス語の先生に買わされた紙辞書と、冷食をぶち込んでチンしただけの弁当をパンパンのリュックにつめこんで、
家から駅までの道と乗り換え経路を毎日爆走。

その日もギリギリの電車で大学最寄りの新座に降り立ち、
向こうにもうすぐ出発しようとするバスを見つけて改札からダッシュしていました。

「よーし今日もなんとか遅刻回避ですな」
と思ったその瞬間、
パンパンリュックのファスナーがはじけ飛んで
路上に辞書と弁当と教科書プリントが音を立ててぶちまけられました

私と同じように急ぐ人が私のプリントを器用に避けながら走り去っていきます。そりゃそう、むしろごめん。
ほどなくして、バスは出発しました。

19歳、駅前で弁当の土埃をはらいながらべそをかきました。

無性に惨めで情けなくて、泣いているのを悟られないようにこっそり目をぬぐったら、メイク動画の見よう見まねで塗った赤い口紅が手首にべっとりつきました。
ちなみにそれを拭くためのハンカチは家に忘れていました。

いつからこんな駄目な感じになってしまったんだろう?
なんで高校まで一度の遅刻もしたことがなかった自分が、大学に入った途端こうなってしまって…なんで…

…なんで?

驚くほど自分の頭が回らないことに気が付きました。
ぬかるみでアクセルを思い切り踏みながら立ち往生しているような感覚です。

あ、これって、もしかして「疲れてる」んじゃ?

(ここで初めて気づいたのが何よりの証拠)

そうか自分はすごく疲れているのか…

疲れたらどうすればいいんだろう。
休む?いやいや今日も明日も授業あるし…やりたいことがあって、その前にすごくたくさんやらなきゃいけないこともあって…無理に決まってるじゃんね…

堂々巡りをしている中、ふと思い出したのはちょっとしたきっかけで知ったこの文章の「海を見る自由」という概念で

もうちょっとこの先生は深いことを指してると思うけど、
私はこの時、この文章をすごく平易に取って
「大学生なら時間の使い方を自分でぐいぐい決めちゃってええやんけ」
と背中を押してもらったような気持ちになりました。

万バズりするツイートならここで一気に貯金崩して、特急券とか買って、温泉行っちゃったりして、理解のある親には簡単にLINEとかで説明して、「気をつけなさいよ」と一言だけもらって一人旅満喫するんでしょうけど、

私は石橋叩き割り人間なので、

「新座まで来ちゃったしな…」

というぬるい動機でその日は大学行きの市民バスに乗り、田舎道を爆走する車内に仁王立ちしながら

「明日は…サボるぞ…」

と固く心に誓ったのでした。

次の日

朝。

明確な意思で冷食弁当を作らず、
大学へ行くときにいつも使っているリュックから重い紙辞書を抜き、
机の真ん中に置いて

「大学行ってきます」

と家を出ました。

KinKiの名曲「仮病をつかおう」を聴きながら、いつもと反対側のホームにしれっと入場。目指すは都市部。
何も考えずとも手の届く範囲にお金で買える娯楽が溢れている場所に行きたかったからです。海じゃなくてなんかごめん。

サボると決まれば!
まず足がパンパンになるまで服や化粧品を探します。
ずっと探していた顔をつやつやにする粉を見つけてニマニマしました。

お次はいいパン屋に入ります。
中はレストランにもなっていて、ランチメニューを頼むと、メインメニューに加えて望むだけのパンを食べさせてくれます。
チーズのやつ、ホワイトチョコのやつ、トマトのやつ。メインにステーキとか選ぶとパンが霞みそうだったので、豆乳と大根のスープにして正解だった。
パンを食べきる頃、再び店員さんがうまいパンでいっぱいのかごを持って好きなのを取らせてくれます。

生きてて…よかった…
という万感の思いとミチミチの生地を噛みしめ、訝しげにこちらを伺うマダム二人組の視線もよそにパンをほおばりました。

来月が臨月なんです~~と言わんばかりの腹を抱えてエレベーターに乗ったら、プラネタリウムのチケットを購入。
アロマの焚かれた空間で南極の星空を観るという、コンクリートジャングルの人間どもを骨抜きにするためだけにつくられた空間に身を置くためのチケット、なんかいいね。
中に入ったら平日の昼なのにカップルシートが結構埋まってて、お前ら今に見てろよ…と思いました(何が?)。
内容はなんか…ふんわりと素敵でした!!!

そのままアロマの香りを身にまとって、その日は家に帰ったのでした。

所感

ズル休みも意外とやってみたらこんなもんか…と思いましたが、実はこの日の記憶はこの後の大学生活で無理をしそうになった時、何度も自分を助けてくれました。

大丈夫、いざとなったらまた反対の電車に乗って服や化粧品を買ってパンたらふく食って星空を眺めればいいじゃん。

そう思うと、不思議と足は大学へ向きました。

大学が足を運ぶ場所ですらなくなってしまう日が来るなんて1年生の自分は思ってもみなかったけど、だからこそあの時思い切ってズルやってよかったとも思っています。
ズル休みという言葉に抵抗がある人こそ、どうにもならなくなったとき、思い切って思い切り利己的な一日を過ごしてみてほしいです。いつも頑張ってるんだから罰当たらないですよ。

みなさま、ご自愛ください!!!


スキすると鹿の子の無責任占いがついてきます