見出し画像

町田康「入門 山頭火」を読んで

入門 山頭火/町田康

山頭火は自由律俳句の人、ということくらいしか知らなくて、なんとなく関心はあるものの今まで一度も句集を読んだことはなく、恥ずかしながら告白すると「咳をしても一人」を山頭火だと思っていた。(正解は尾崎放哉)
著者の町田康についても、その文章をそこかしこで見かけて面白い人、と認識してはいたものの小説を読んだことも音楽を聴いたこともなかった。

そんな「よく知らない✖️よく知らない」の組み合わせにも関わらず、この本の出版告知を見たら発売前に予約でポチっていた。
どこに惹かれたのだろうか。
“分け入っても分け入っても山頭火”
という帯の惹句のせいかも知れない。

読んでみると、よく知らない一人のおっさんの生涯が面白い文体で解説されている、という印象になる。
客観的に見れば人並み外れてエキセントリックな人物なのだが、その生き方のあまりの正直さに、人間が誰でも持っている煩悩や苦しみの普遍的なものを感じられて親しみさえ覚える。

とはいえ、もちろん誰にでもできる生き方ではない。
人が、しなければならないことの第一は「生きること」で、これは全員そうだと思う。
第二以降からは人によって違ってくる。お金を稼ぐとか、子育て中なら子どもを死なせないこととか、重要度は人それぞれだろう。
山頭火の場合、第二が句をつくることだ。
句をつくることが、他のすべてを差し置いて二番目に来ちゃう。
俳句って、そんなに凄いことなの?
なんなら第一にきてるかもしれない。山頭火は度々自殺を図っている。

「句の完成、本当の句=人間の完成」を探求する道を志し、山頭火は行乞流転の旅に出る。
しかしこれがまるで侘び寂びではなく、望んで入った会社がブラックで辛くて辞めたくてたまらないけど辞められない、という感じの苦しさであとは酒漬けなのだ。

普通の人の普通の人生とかけ離れているようでどこか、人間とは、という問いに答えてくれるような、誰でもいくらかは背負ってる「解くすべもない惑ひ」について考えさせてくれる、そんな本だった。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?