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「聖なる証」を読んで

「聖なる証」
エマ・ドナヒュー   吉田育未 訳

1859年、アイルランドの田舎町で絶食しながら生き続けているという奇跡の少女。その真実を明らかにするため、少女を「観察」するよう派遣された看護師の奮闘物語。
「星のせいにして」に続くエマ・ドナヒュー著、吉田育未訳作品で、再び闘う看護師の物語だ。

「星のせいにして」感想↓

科学的見地からペテンを暴く気満々で赴任する主人公リブ。しかしそれは簡単なことではなかった。
貧しさ、非科学的因習、人々を支配している信仰心、それらは頑なで余所者のリブを弾き返す。
観察中、着実に弱っていくアナをめぐり、両親、宗教者、奇跡を崇める村民たち、それぞれが勝手な思惑を主張してアナの命は蔑ろにされる。
奇跡の少女本人であるアナの本心とは?

公正な立場であろうとするリブだったが、いつしか看護師にあるまじき「希望的観測」に囚われていたことに気づく。
この「希望的観測」というやつは本当に厄介だと思う。最近は「バイアス」という言葉をよく聞くが、人の目はなかなかあるがままの真実を見ようとしない。
家族やコミュニティから逃れられない子どもが愚かな大人たちの犠牲になる。
リブがアナの真実を追う新聞記者に対し、反発しながら次第に信頼を深めていくくだりに、辛い物語の中で僅かな人間味を感じられてホッとした。

著者あとがきによれば、断食少女は6世紀から12世紀に渡り、グレートブリテン島、西ヨーロッパ、北アメリカで実在していた記録があるらしい。
自分を他者から何者かに仕立て上げられてしまった少女たちが痛ましい。

リブは師であるナイチンゲール氏から「やり切れる」人物と見込まれて使命を受けた経験を誇りに思っている。
強く賢く、やり切れるリブの活躍が、陰鬱な村に風穴を穿つ。
ラストは「星のせいにして」を彷彿とさせた。

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