訃報。
土曜日、母が息をひきとった。
住み慣れた家ではなく、介護施設の部屋で。
姉からの連絡で取るものも取らず新幹線に飛び乗り、乗り継いで長野駅に着いたのは夜だった。そこから私鉄で実家のある駅へと向かう。
高校時代乗り慣れた電車。をう何十年も乗っていない。母が亡くなって帰省するなんて最低な親不孝息子だと心の中で自分を責めた。
まだ大丈夫だと思っていた。
覚悟はしていたけどどこかで母は永遠だと心の底で思っていたのかもしれない。緊急事態宣言が解除されたからやっと会えると思っていた矢先の事だった。
生まれた育った町の写真集を作って見せる予定だった。
昔の話をもっとしたかった。
旅行に連れて行こうと思っていた。
父とのなれそめを聴くつもりだった。
でも、これでやっと母は父と再会できる。
そんなことを思いながら車内を見回したら、学生時代の若い僕がいた。ギターケースを抱え、車窓の向こうに流れてゆく家々の灯りをぼんやり眺めている。
「おい、母さん大切にしろよ」
僕は思わずつぶやいた。
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