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味蕾diary第12回【牛丼】

大学時代、世田谷区で一人暮らしをしていた。

4年生になりたてくらいの頃、
僕は完全に太り始めていた。

それはもう完全に。

高校生まで運動部だった人間あるあるだ。

運動部時代は今では考えられない
圧倒的消費カロリーだったので、
それはもう食べて食べて食べまくっていた。

というか、いっぱい食べれるのがかっこいい
という価値観がこべりついていた。

部活終わりに友達とご飯に行くと
常に、誰が1番食べれるのか
暗黙の戦いがあった。

そのくらい、女性からしたら本当に不毛な
争いの空気感が運動部にはある。

運動部の男は全員分かると思う。

その歪んだ価値観の膨れた胃袋で
大学生になり、運動を多少するくらいの生活を
過ごしていると食べる量も流石に減ってくる。

なんてことにはならない。

歪んだ価値観と膨れた胃袋は
大学の入学式で矯正してもらえたりなどしない。
あの頃と等しい量を食べる。

食べる量は等しくさらにそこに、、、
お酒が参入してくる。

太らないわけがない。

流石に、そろそろ痩せるか…と思い、
食を減らす方向で計画を立てた。

まずは、夕飯を抜こう!と決意するも
結局、欲求に勝てず夜中に街に繰り出し
牛丼屋に吸い込まれる。

この流れを恥ずかしながら
週に2、3回やっていた。

もう常連客だ。

牛丼屋に入店し、
Uの字型のカウンター席の端に座る。
そこが僕の特等席になっていた。

夜中なので、ほとんどお客はいない。

いるのは、
じじいと僕と時々、女性。

リリーフランキーのような客層だ。

Uの字型のカウンター席の場合、
混んでいない時は基本的に
隣に座ってくる人もいないし、
正面に座ってくる人もいない。

当たり前だ。
なんか気まずい。

一度、スカスカの店内で他の客が
僕の真向かいに座ってきた。

は? 

と思った。

顔を上げると必ず目が合う。

相手はおじさんなのに
目のやり場に困る。

おじさんがどんな感じで食事をしてるのかが
見えちゃうのもなんか嫌だし、
僕の食べ方も見られている気がしてしまう。

いや、おじさんは気にならないのかな?
まぁ気にならないから
真向かいに座ってきたんだろうけど。

そういうまぁある意味で、
無駄なことが気にならないのは
本当に羨ましい。

僕はそういうどうでもいいことが
気になるあまり影響を受けて
牛丼を楽しめなかったりするようなことの
連続の日々だから。

太るとか太らないとか
あんまり気にしなくていいかと少し思った。

今はもう、実家に住んでいるので
そもそも周りに牛丼屋など無いから
そういう習慣は無くなった。

都内に住む同期が多いので、
夜中に食べる牛丼の罪悪感を味わう権利を
持っている彼らが羨ましい。

実家はそもそもいるだけで罪悪感がある。
常に、ジトッとした罪悪感で
ご飯を食べられる。

夜中の牛丼のような偽物ではなく、
本物の罪悪感だ。

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