悪魔(小説)

初めて会った時に、ひと目で好きになった。ボクがいつも自分を不完全な存在だと感じていたのは、ボクの人生にキミが欠落していたからだ。キミを得て、ボクは再び本当の生を受けた。ボクの散々な人生には苦笑しかなく、心から笑うことなどあり得なかった。しかし今は違う。キミが笑えば、ボクも笑う。心から楽しく、心から笑う。キミが笑い、空が笑い、太陽が笑い、街が笑う。愛しているのだ。愛しているに一票、ボクは入れた。ごめんなさいに一票、キミは入れた。わかっている。何の魅力もないボクさ。悪いことには金もないのさ。キミがいつもそばに居て笑ってくれるのならば、ボクは何でもしよう。例え悪魔に魂を売っても構わないさ。「ほう、そうかい。お前が魂をくれるのなら、女がお前を好きになるようにしてやるぞ」突然、悪魔が出てきてそう言った。本当に突然だったので、ボクはとりあえず「始めまして」と言った。悪魔はしばし沈黙した。沈思黙考。ちんすこうは沖縄のお菓子。「私はこういうものです」と悪魔は名刺を出した。確かに「悪魔」と書かれていた。「あいにく名刺を切らしておりまして」と端から名刺など持ち合わせていないがボクは言った。「そんなものはどうでも良いが」悪魔はそこで一呼吸置いて言った。「お前が魂をくれるのなら、女がお前を好きになるようにしてやるぞ」「それはさっき聞きました」悪魔はしばし沈黙した。沈思黙考。ちんすこうは沖縄のお菓子。「それで、どうするね?」「お願いします」とボクは言った。だってだって、好きでたまらないんだ。ああ、彼女がボクを好きだと言ってくれたなら。あの少し厚い唇で、そう言ってくれたなら。「それなら契約成立だな。あとはどうやってもお前の思い通りになるから、好きにしてくれ」ああ、本当に。西の空に真っ赤な夕日。ボクの心の色だよ。燃えているのさ。ボクはキミをデートに誘った。キミは来た。ボクは告白した。「あなたのことがとてもとても好きです」舌噛んで死んじゃいたいくらいに恥ずかしい。「必ず幸せにするからボクと結婚してください」いきなり結婚かよ、と軽いツッコミが自分自身から入った。「私もあなたが好き。でも結婚は大事なことだから、返事は少し考えさせてね」おお、必ず成功するとは言え、なんという嬉しさ。そうさ、必ず好きになるのだからあせることはないさ。今宵はゆっくり恋人同士の会話を楽しもう。(2時間後)「私酔ってしまったわ。送って行ってくださる?」「もちのロン!」ボクはキミをタクシーに乗せた。行き先は、ホ・テ・ル。あせることはないが、善は急げって言うからね。ホテルに着いた。キミはボクの肩に顔を寄せる。OKの合図だね。会津磐梯山。部屋に入るとキミから熱いキス。ボクからも熱い想いをLOVE注入。二人でお風呂に入って、洗いっこ、ふざけっこ、さわりっこ。さあ、キレイになったところでベッドへ誘う。そう、この瞬間をボクは待ち望んでいたんだ。ボクは、ボクは。想いが高まったときにボクはベッドに横たわるキミに誰かが覆いかぶさるのを見た。それはボク自信の姿だった。ボクがキミに口づけ、胸を愛撫している。しかしボクはここにいる。ボクではないボクがボクに振り向き、こう言った。「ここで交代だよ」ボクに姿を変えた悪魔が彼女のからだをなでまわし、なめまわした。「やめてくれ」魂を奪われた抜け殻のボクの声はキミに届かない。悪魔は彼女のからだで快楽を貪った。「悪魔が来たりて腰を振る」か・・・。ボクは泣きながらそうつぶやいた。

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