「片想い」「ゴミ箱」「恋人」
2023/01/22
僕は、ある学校の教室にポツンと置かれたゴミ箱だ。
いつもいつも邪険に扱われてきた。時には、汚いもの、時には臭いもの。なんでも僕の中に放り投げる人間。誰も僕の存在を大切になんてしてくれていない。
無機物な僕には、涙が出ない。どれだけ泣きじゃくりたくても嫌がっていても、誰も気付いてくれない。見向きもしてくれない。何年耐えただろう。もう、それすら分からなくなった……
この教室には他にも無機物で、人間たちに使われるだけの物もあった。黒板、机、椅子。みんな孤独だった。そんな僕らとは違う無機物がいる。
それは、紙と消しゴムだ。2人はいつも一緒にいた。事ある毎に2人は仲良くなり、紙と消しゴムという恋人たちで教室は溢れるようになっていった。
僕はどれだけ羨んだだろう。片想いすることも、恋人になることもない。だって、相手が居ないのだから……
そして、また月日は流れた。
僕は、気付いた。ここ最近、ティッシュという物が僕の中に入れられてくることに。そうだ、この前クラス替えがあった。春の訪れだ。それと共に花粉症の生徒たちがティッシュをどんどんと僕の中に入れてくるのだ。
ティッシュは鼻水で汚れていた。それでも、いつも少しも嫌な顔はしていなかった。
「少しでも、誰かの為になれるって嬉しいことなの」
そういってティッシュは僕に語りかけていた。僕には、そんな発想が1ミリもなく憎み、諦め、羨み。そんな自分が惨めに思えた。
ティッシュは、とても優しい奴だった。そんな僕にすら優しく接してくれたからだ。それからというもの、僕はティッシュとの会話を楽しむようになった。
なんて素晴らしい時間だろう。この時間が永遠に続けばいいのに……そう願うことが多くなった。
そして、僕は気付いた。これは、俗に言う『片想い』というやつではないのか?まさか、自分がそんな感情を抱くなんて思っていなかったので、最初は驚いた。誰より僕自身が驚いた。
僕は……ティッシュが好きだ。この気持ちは留まることを知らず、空っぽの僕の心を潤していった。
捨てられるだけのティッシュに、それを受け止めるゴミ箱の僕。なんて最高な組み合わせじゃないか。
そうだ。こんな素晴らしい恋人はいるはずがない!告白なんて考えた事がなかったが、僕はティッシュに告白をすることにした。勿論、結果は見えている。ティッシュも僕を邪険に扱ってなどいない。寧ろ、好意を寄せていてもおかしくない。
そして、遂に僕――ゴミ箱はティッシュに告白をした。
「いつまでも一緒にいたい」と……
ティッシュは、僕の抱いていた感情に気付いていたようだ。いつか、こんな日が来るかもしれないと。
「答えは決まっているの」
ティッシュへの告白の後、ティッシュは少しクチャっと小さく動いて言った。
「私……実は、鼻水くんと付き合っているの」
え……鼻水だって!?あんな奴とティッシュが?嘘だろ、おい。
ティッシュ曰く、毎年、自分のことを必要としてくれる。花粉の時期だけでない。人間が風邪の時もずっとティッシュは鼻水を受け止めてきたのだと。
そうしているうちに、お互いを認め合うようになった、そうティッシュは語った。
僕はゴミ箱。やはり、誰にも必要とされない無機物な『物』でしかなかったのだ。
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