ブノワ・リショーさんが高橋大輔選手、坂本花織選手について語ったインタビューより(2018年)

2018年のものになりますが、TSLさんのインタビューの中で高橋大輔選手、坂本花織選手について語った部分を訳してみました。
動画はこちらです。

B→ブノワ・リショーさん

D→TSLのデイブ・リースさん

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【ブノワ・リショーさんが高橋大輔選手、坂本花織選手について語る】

(前略)
B︰僕のスケーティングのやり方は、つまりクラシックの手だけではなく、モダンな動きを入れます。それは僕から出てきたものです。大輔のプログラムでそれが良く見えるでしょう。大輔のプログラムで僕はミックスして…

D︰「モスクワの鐘」と「ビートのあるもの」のミックスですよね、あれはどんなものですか?何と言おうとしました?

B︰大輔のプログラムでは、ミックスしたいと本当に思いました。僕が大輔の事を考える時、大輔の事を夢見ていた時、僕にはアイデアがありました。どのように彼を想像していたかというアイデアです。もし僕が目を閉じたら…僕は覚えているんです。彼の腕や、審判へのアイ・コンタクト。僕達は繋げたいと思いました。僕と彼を、ボン!とね。僕達はプログラムについて議論しました。それでこのアイデアとなったんです。
その、すごく感じる事と思います。もし人が注意を払っていたら…殆どの人は何も見ないんですがね、僕にはそう言えます。でもプログラムの始まりを見れば、モダンな動きがあります。それからクラシックへと移ります。そしてまたモダンな動きへと行きます。そして本当にクラシックな曲が流れています。それからモダンな曲へ変わります。それは…とても興味深いものです。

D︰興味深いですね。貴方は(この会話の前に)最も才能あるスケーターは抱えていないと言っていました。でも僕は、彼こそ最も才能あるスケーターの1人だと思います。

B︰はい。僕には高橋大輔がいます。その例ですね。多くのスケーターを抱えていますが…才能が無いという話ではないんです。つまり、人が何を見ているか、によります。あるスケーターにはスケーティングがあり、スピンがあり、コンポーネントがあり、ステップ・シークエンス、ジャンプ。何人かはステップが得意で、何人かはスピンが得意です。多分、全てを持つ人もいます。でも多くはありません。全てのホール・パッケージの人というのは…完璧な演技を、完璧な技術と共に行う。完璧なスピン、完璧なステップ・シークエンス、コンポーネント…。
いやその、つまり僕は坂本花織の事を話そうとしたんです。花織が大好きなんです!僕達は良い関係を築いて、とても近づきました。ただ僕は覚えているんですが彼女が初めて僕の所へ来た時、僕は「これは大変だ」と思いました。曲を探し出さないといけませんでしたから。誰かがやって来る時はというのは、今シーズンをどうやって成功させるかを考える必要があります。

そして、これも言いました。「この作業の後にも貴方が僕と仕事を続けたいのかを、僕は考える必要がある」と。仕事を始めたら、理解する必要があります。僕達は良い関係性を持てるのかどうか。毎年、挑戦をするという事です。何かを選手にもたらす事を。多分、その選手の個性を足したりだとかが出来ます。最善を尽くさないといけません。一年間の仕事ですからね。
去年、僕が花織と仕事をしていた時には、「なんて事だ。何も無い。振付への興味も、詳細な部分も無い。」と。だから僕はとにかくベストを尽くしましたよ、8日間ね。ショートとフリーの振付をやりました。フリーは5日間で取り組んで、とても早かったです。それから僕は日本へ行って、3日間ですよ。彼らは僕に「新しいショートプログラムを作って欲しい」と言いました。何故なら連盟がショートを気に入りませんでしたから。彼女は一緒に振付をして覚えていましたが。それで僕に電話をかけてきたんです。ショートをやって欲しいのだ、と。1日もらいました。僕達のムーンライトソナタのためにね。そしてその後は、全く彼女とは仕事をしなかったんです。

D︰本当に?1日も? その、花織について知りたいのは、彼女と一緒に映画を見ましたか?何故かと言うと、僕からしたら「アメリ」が上映された時は、本当に"外国映画"という感じでした。米国人は自分たちのスケーターが好きですよ。もしかしたら、(アメリは)つまらなかったかも。つまり、物凄く違ったんです。彼女をどのように開拓していったのでしょうか。あれは、違ったプログラムでした。彼女はこういう動き(顔を隠す仕草)があったでしょう。

B︰そうです。彼女は何と言うか…僕がただやりたかった事は…その、僕が彼女といた時に、彼女はハッピー・ガールだと気づきました。彼女はいつも笑顔で、他の全てのスケーターとは違います。彼女が転倒して、僕が彼女を見ると、彼女は笑ってるんですよ。そうでしょ?殆どの子供は泣き出すけれど。ジャパンオープンは見ましたか。彼女はコレオシークエンスで殆ど転びそうでした。彼女は審判を見て、そして笑顔でした。誰もプログラムの最中にそんな事をしません。でも彼女はそういう子です。
それで、僕は出来るだけ彼女の性格に近いものをやろうとしました。彼女には多くのエネルギーがあり、楽しい女性です。楽しい女の子ですね。まだ女性ではない。彼女は若いから。若い女性ですね。それと、僕が彼女を見た時に、僕は思ったんです。この少女は本当に特別だと。彼女を好きでも、好きではなくても、そのアイデアというのは、僕は人々に彼女の事を覚えて欲しかったのです。ですから本当に課程を経ました。僕は「アメリ」を良く知っています。多分、米国人はそんなに知らないでしょうが。ベルビン、アゴスト組がやっていたと思いますけれど。

D︰そうですね。彼らがやっていた。

B︰つまり、僕はあの音楽はただ彼女に完璧に合っていたと思いました。何故なら音楽がとても特別だからです。特別なビートがあって、特別な繊細さがあります。それで、僕は幾つかの特別な瞬間を振付でマッチさせようとしました。プログラムに合わせて…プログラムのアイデアに合わせてです。僕は彼女に映画を見させました。その後に、僕はスケーター達に、彼らの感覚をストーリーへ加えさせようとします。
何故なら、人々は僕達を「振付師」と呼びます。それはすごくクールだと思わないんです。僕達はプログラム・メイカーです。つまり振付師とは彼らがやりたい事をやります。もし僕が振付師ならば、僕がやりたいようにやりますよ。たとえ出来上がらなくても、やらないといけません。人はプロの振付師を取ります。ダンサーも。彼らは「もし出来なくても、練習しないといけない。完璧に出来るようにしなくては。」と言います。それをフィギュアスケーターにやるべきでしょうか。絶対に貴方(振付師)の力を見る事は無いでしょう。これを僕は言いますよ。多分何人かは、出来るでしょうが…殆どの人々にとっては、彼らを特別にさせる方法を見つける必要があります。それで僕はこの音楽の中にそういったコンセプトの全てを見出しました。僕達が仕事を始めてから、色々な音楽を試しました。これはどうか、あれはどうかと。僕は彼女のエネルギーは特別だと感じる事ができたのです。それと僕はあのプログラムはかなり成功したと思います。

僕がコーチとプログラムの事を話していたら、僕は実は三週間前にコーチと話したんですが、僕が花織の試合を見る時はいつもこう(顔を覆う)ですよ。見たくないんです。人々はまるで「音楽性が全く無い。そういうものが無い。」と言いました。でも彼女がやろうとした事は、彼女のエネルギーは見えるのです。彼女が演技をしている時に、たとえプログラムにトランジションが多くなくても、そして恐らくはそんなに細かい部分もありませんでしたが、何かが特別でした。生で見ると。僕は生で見ました。常にユーチューブ等で見るのとは大きな違いがありますから。感じ取れないのです。花織は、動く事から多くのエネルギーを持つのです。

D︰彼女にはパワーとスピードがありますね。

B︰あれはまるで…何と言ったらいいか…彼女のスケーティングを生で見た事は?

D︰思い出そうとしているんですが、ないと思います。見た事は無いです。

B︰まるで…巨大なんです。

D︰ジャパンオープンでの彼女を見たと言いましたね。僕はこう言えますよ。彼女はクロスオーバーで動いて行くんですが、氷上を横切って行きます。強さがあります。彼女の脚は強い。

B︰だからこそ彼女は…彼女には殆どクロスオーバーがありません。彼女に言ったんです。「君にはクロスオーバーは要らない」と。氷を押して、チョクトゥだとか何かをやって、そうしたらもっとスピンの時間が取れる、と。その、僕は短い期間で花織のポジティブな部分を全て関係させたかった。何故ならロサンゼルスでの5日間しか仕事をする期間がありませんでしたから。ラファエルのリンクです。それから日本で3日か、4日です。それと僕はショートプログラムを振り付けなければいけませんでした。フリーには1日だけです。それで終わりです。

D︰今年は彼女ともっと取り組む時間を持てましたか?

B︰今年は…今は全く同じです。それでも僕はもっと彼女と時間が持てました。彼女がイタリアに来た時に、言ったんです。「僕達はもっと真剣に仕事に取り組む必要がある」と。「僕は彼女との時間がもっと必要です。このやり方では出来ない。可能ではない。」と。それで、僕は彼女と多くの時間を過ごしました。コーチも一緒にね。そして言いました。もし彼女がもっと上を目指すのなら、彼女は動きをコントロールする必要がある。100パーセント意味を理解しなければ。ただ単に「はい、いいえ」と言うのではなく。そしてその後には、どんな事にも注意を払わないといけません。もしそれが完璧では無くとも…つまり人間の作業ですから。僕は人間と仕事をしています。絵を描いたりだとか、本を相手にしているのではありません。何かセンテンスを読んで覚えたら、ずっと残るでしょう。でもスケーター達はもっと変わっていきます。僕が教えている子供達も、多分上手さには欠けています。多分、怪我もあります。ただ今年は、彼女は細かい部分にもっと注意を払っていると思います。ショートプログラムは分かりません。ディヴィッドが振り付けたものです。ただ僕のプログラムにおいては、彼女は小さな事にも注意しています。彼女は、小さな事がより重要だと理解している。彼女がそれを本当に得た時には、フィギュアスケートのトップへ行くと思います。何故なら、彼女はジャンプには何の問題もありません。スピンも、ステップシークエンスもです。ただ小さな詳細を理解する事です。それは、人生と同じ事です。

D︰僕は大輔のステップシークエンスに関して質問したいです。何故ならば、何か音楽と共にあって…分かりません。ビートのような。彼は拍子の4拍目や、8拍目でもいいですが、彼は違う音楽やビートでも刻みます。違ったポーズやターンと共にです。どのように創り上げたのですか。そしてどうやって私達は見ていくべきですか?

B︰それは…その、僕達はステップシークエンスを変更しました。人々は見る事でしょう。実際ステップシークエンスは今の方が良くなりました。何故なら以前の彼は…つまり、彼はすごく怪我をした事を知っていますね。

D︰何があったんですか?僕達は彼がとても良くやっていると聞いていたのに、怪我をした、と。

B︰はい。実際の所、彼は非常に良く練習が出来ていました。僕が彼を見た時に、僕は彼が4回転を跳ぶ事を知りませんでした。以前の彼は…僕はショックを受けましたよ。彼は更に良いジャンプを跳ぶじゃないかと。そして彼は言いました。「はい、ほぼ4年が経ちましたが、僕は技術にずっと取り組んでいました。」と。その、貴方は覚えているでしょうか。以前の大輔というのは、跳び上がって、そして回転していました。

D︰ディレイですね。

B︰そうです。その後に、彼は回転を始める所をもっと早くするように変えました。つまり以前は本当に跳び上がってから明らかに回転をかけて、そして降りて来ていた。ですから、僕はただその事を(4回転をやっている事を)見た事がショックでした。それからまた彼は僕に、ある感覚をもたらしました。「この男はまだ終わっていない」というものです。まだ、まだ終わってない。願わくばね。もし彼が技術を成長させたなら、彼は伸びる。それとスケーティングも進化する事が出来ます。それからスピンも。彼のスピンはずっと良くなりました。僕が投稿したビデオで見られますよ。僕はショーのビデオをインターネットに投稿したんです。スピンが見られます。良い感覚を持つでしょう。彼はそれが出来るのだと。彼はとても早く回転します。以前には出来なかった事です。
それで…ええ、僕達はステップシークエンスを変更しました。上手くいきませんでしたから。クラスターが上手くいかなくて。僕達はこの方法でやろうとしたんですが、彼は「いえ、僕は自分自身に挑戦したいのです」と。それで僕達はもう少し難しいものをやってみました。でも実際に今は彼にとってはもう少し易しいものになっています。ですが彼は20倍は良くなっているように見えます。繰り返しますが、同じアイデアです。僕達がこのステップシークエンスをやってみる時、僕は人々にある感覚を持って欲しいのです。「次に何が起こるのか分からない」というような。何に関してもです。例えば、音楽を裂くような、音楽のやり方について、彼はまるで反対方向へ行きます。別の方向から外側へ、それが人々に与えたい感覚なのです。それがこのステップシークエンスが人を本当に驚かせるのです。彼の動きから、音楽性から、方向から、動きから、そしてまた氷上でのステップでも。それがこのステップに関しては素晴らしいのです。

D︰そうですね。彼の音楽は何ですか?ビートもありますが。

B︰ジョン・グラントという作曲家のものです。彼はポップ、ロック音楽を作曲します。僕には良い友人がいるのですが、彼は靴のデザイナーなんです。その彼がある日、とても良い曲を聞いた、と言いました。これは100パーセント、君のためのものだ、と。それで僕はOK、聞いてみよう、となり、その曲を聞いてみました。3年ほど前です。それで僕は「なんて事だ。この音楽だ。」と。そして作曲家ジョン・グラントは、何と言うか最大の、彼は全ての物事から影響を受けたのです。彼の生活にはクラシックがありました。彼のクラシック音楽から影響された曲はとても人気があります。ロンドン・フィルハーモニーでライブコンサートも行いました。彼はまるで人生をかけたような音楽を創り上げます。

D︰それで「モスクワの鐘」が入っているんですね。序曲で、掴みのような。なるほど。

B︰そして彼は自分独自のバージョンを創ろうとしたのでしょう。それで、僕がこの曲を聞いた時に思ったのは、ワォ、これはフィギュアスケートにピッタリだと。全て、証拠もありますよ。何か特別なものがその音楽にはありました。確実に僕はその音楽の大ファンになったんです。モダンなテイストもあります。僕が大輔と仕事を始めた時、僕達は違う音楽でやり始めました。僕は常に幾つかの曲を持つようにしていているのですが、大輔が「これが気に入りました。これでスケートがしたい。これ以外は無い」と。

D︰その音楽は彼の「白鳥の湖」を思い起こさせます。クラシック音楽とモダンな視点があります。10年前ですが。
それで、彼は今は健康ですか?どうでしょう?

B︰彼は良くなってきています。でも簡単ではありません。良くなっています。僕には…分かりません。彼にとって今シーズンがどのように終わるのか、分かりません。今言ったように、痛みを抱えています。日本のテレビで彼がそう言っていました。彼の痛みが無くなる事を、僕はただ願います。何でも起きます。この男は…心の中に敗北を抱えています。何故ならフィギュアスケートに復帰して、そして怪我をしてしまったのですから。いや、まだ君ならやれる。そうでしょう。小さな競技会に3000人のファンがやって来たんですよ、彼を見るためだけに。君の中では出来なくても、でもやり切れるんだ。つまり、多くのスケーターがこう言う事がありました。「いや、僕はスケートはしない」と。「僕は競技会には出ない」と。でも彼は出場したんですよ。僕は本当に、ワォ…!って。
僕達が一緒に出かけた時に、彼は僕に言いました。「ごめんなさい。酷かったですね。」と。僕は「そんな事はない」と答えました。技術的には、多分。でもそうじゃない。でも彼は「酷かった」と言っていましたね。

D︰彼は来月にまた試合に出ますね。

B︰はい。彼が4回転をやるのかは分かりません。やりたくても、怖い事です。彼は馬鹿ではない。最低でも1つが競技できるものでしょう。でも彼の考えは今、クリーンなプログラムをやる事です。全てがあるもので。良いショート、良いフリーです。その次に何が起きるか分かるでしょう。ただ僕は彼に膝の怪我だとかはして欲しくありません。痛みがあるのは辛いことです。ステップを踏むたびに膝やくるぶしなどの痛みが起きるのが怖いのです。そうしたらスケートをしている時に、もう自由さはありません。彼にとってはかなり厳しいと思います。でも彼には知識があり、経験もある。そして、彼の喜ぶのためにやる事は、やはり大切な事です。彼はテレビに出たいとか、表彰台に乗りたいとか、そういう事のためにやっているのではありません。彼の心の内側の成功のためにスケートをします。ですから、この先の将来に何が起きるのか、我々は見る事になるでしょう。

(後略)
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高橋大輔さんのフリーの振り付け、ブノワ・リショーさんが語る、大輔選手と坂本花織選手とのストーリーでした。
とても素敵なお話が多く、いつか自分の記録用にも書きたいなと思っていたのですが、なんと高橋大輔さんが今年の全日本でシングルを引退してアイスダンスに転向すると発表されました。今シーズンも怪我があり、全日本が唯一の試合となり、結果としては12位でした。それでも、高橋大輔というスケーターは何かが特別で、何かが常にあります。芸術性とかスター性とか、言葉はありますが、そういうものでは表せないものです。羽生選手とはまた違って、だからこそフィギュアスケートって面白いなと思います。

アイスダンスではどんなスケートを見せてくれるんでしょうか。楽しみです!

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