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運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その3)

2. 協応構造創出の過程

 身体の中に利用可能な身体スキルを探し、なんとか試行錯誤を重ねるうちに、課題達成のやり方である運動スキルが姿を見せ始めます。始めは創出の段階でまだ一定の構造をしていないバラバラのやり方が見られるのが普通です。

 分回しの歩行スキルの場合、初期には健側への重心移動だけが見られたり、重心移動をしないで体幹を反らせて患側下肢を前に振り出そうとしたりして上手く行かないなどの状態が見られます。

 しかしそれを繰り返すうちに、「健側下肢へ重心移動しながら荷重からフリーになった患側下肢を体幹の伸展などで前に振り出す」という一定の構造が見られるようになります。それまでバラバラだった各動きが課題達成に向けてより効率的に一つの塊になって動くようになるのです。これが「協応構造の創出」の過程です。

 僕の経験では、探索の過程からこの協応構造創出の過程までは割と短い時間で起こってしまいます。そしてすぐに次の「繰り返しと熟練の過程」へと移っていきます。だからうっかりしていると簡単に見逃してしまいます。

 前回書いたように、健常だった頃の運動スキル(股関節屈筋で下肢を振り出す)にこだわっている方では、探索の過程がなかなか進みません。それでセラピストが「どうやってでも良いので、全身の色々なところを使ってなんとか悪い脚を出してみて」などの課題を出して運動スキル学習を進めるようにします。


3. 繰り返しと修正の過程

 基本となる協応構造は上記の通り比較的早く創出されますが、まだ効率的とは言えません。繰り返しながら修正していく必要があります。

 たとえば分回し歩行でよく見られる修正点は、麻痺側下肢が前方に振り出された後に内転して、非麻痺足の前に接地してしまいます。両足が一直線に並ぶことで、横断面での基底面幅が狭くなり、左右へのバランスがとれずに倒れそうになります。

 できれば振り出した麻痺脚は前方へ出ると同時に股関節外転で外側に向かって接地し、基底面を広くして重心が基底面内に安定してはいるように振り出したいですね。

 時間をかけて歩行練習をすれば自然に患者さんが修正して、幅広い基底面を確保しながら歩かれるようになります。

 ただ先のことを考えて基本となる歩行スキルを早くから安定させて、パフォーマンスを上げると生活全体の質を上げることに繋がります。だからリハビリで早くから改善を図りたいですね。

 また中には自ずから基底面を広げることが「できない」方もいます。体を硬くする問題解決(外骨格系問題解決)の偽解決状態(硬くなりすぎて可動域が減少している)になっていることがあるからです。(偽解決はノートの「自律的問題解決とは?」のしリースを参照ください)

 これを行うにはCAMRの治療原則に従って、まずは運動リソースの豊富化を行います。

 身体リソースである体幹や股関節の柔軟性を改善して重心の移動範囲や運動範囲を拡大します。脳性運動障害に見られる硬さの偽解決状態に有効なのは上田法という徒手的療法です。上田法の体幹法と骨盤帯法を行うと体幹と股関節の柔軟性が改善し、歩行時の基底面が必要なだけ広がり、下肢の運動がスムースになって歩行パフォーマンスも改善することが多いです。

 このように柔軟性という身体リソースを改善するだけで、基底面が広がって安定した歩行をされる方もいます。この方達はそのままその他の必要な生活課題達成の運動スキル学習に進みます。

 一方で柔軟性が改善しても、歩行時の十分な基底面確保が難しい方もおられます。この方達には更に基底面を十分に広げて歩行するための運動課題を提示して運動スキル学習へ進みます。詳しくは次回に。(その4に続く)

※※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「運動課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その5)」
以下のURLから
 https://www.facebook.com/Contextualapproach

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