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運動スキル学習-運動スキルが創造されるまで(その6 最終回)


 ここまでそれぞれの段階の内容とセラピストがそれぞれの段階でどのように役立つかを説明してきました。
 この過程の中で頭の中に入れておくべきポイントがあります。
一つは運動リソースと運動スキルの関係です。
 脳卒中の様な障害によって身体が大きく変化すると、低緊張の弛緩性麻痺が広範囲に現れます。つまり筋力という運動リソースが広範囲に失われてしまうのです。そうするとそれまで使われていた生活課題達成のための運動スキルが使えなくなります。
 そうなると必要な生活課題達成のために、変化した身体で新たな運動スキルを生み出す必要があります。そのための最初の段階が「1. 探索の段階」でした。
 「探索の段階」は障害で変化した体の状態を知り、課題達成のために利用可能な運動スキルを見つけては、試行錯誤する段階です。
 この場合、もし麻痺が軽かったり麻痺の範囲が狭かったりすると健常な時の運動スキルもある程度の修正で使えますし、新たに生まれる運動スキルも多様で柔軟に実用性の高いものになります。
 運動リソースが豊富であればあるほど運動スキルは柔軟で適応的な運動スキルが多彩に生まれやすいのです。たとえばものを作る場合、材料が豊富で多種多様であれば様々な製品がたくさん作れますが、元になる材料の質と量が少なければ、製品の多様さも数も限られてしまうのに似ています。運動リソースはできるだけ豊富であればあるほど良いわけです。
 従ってリハビリでは運動スキル学習と同時に、常に運動リソースの豊富化を行うことが肝心です。
 時間が許す限り柔軟性を改善し、基本となる運動スキル学習は多様に進めていきます。
 基本となる運動スキル学習はいわゆる基本動作練習で行われる運動課題が多く使われます。立位で行う重心移動しながらの支持や支持しながらの振り出しを行うなども実施条件を変えながら行います。実施条件では「運動や重心移動範囲を大きくする」、「重りを着けて運動強度を上げる」、「できるだけ基底面を小さくする」などの運動達成が可能な範囲で難しさの程度をあげるように工夫します。
 また痛みがあれば徒手的療法などで痛みを軽くします。脳性運動障害後の硬さがあればこれも上田法の様な徒手的療法で改善します。痛みや脳性運動障害後の硬さは負の身体リソースと考えられ、運動パフォーマンスを低下させます。患者さん自身では改善困難なことも多いので、セラピストの直接の改善が必要です。
 また身体リソースだけでなく、環境リソースの工夫も重要です。立位が不安定なときには、手すりなどを利用して上下・水平面での重心移動を大きくすることができます。少しできるようになるとパイプ椅子なども基底面が広く安心して支えに使えます。更にこれが問題なくできるようになると杖にする、あるいは何も持たないで身体リソースを中心に運動スキル練習が行えるようになります。環境リソースもやはり運動課題の実施を少しずつ難しくしていく方向で工夫します。
 「4. 新しい運動スキルへの切り替えと熟練の段階」でも見たように、常に身体リソース、特に筋力と柔軟性を改善していると運動スキルは安全・効率的に変化する可能性が高まります。もし運動リソースの改善がなければ、運動スキルの変化・発達もそこで止まりがちです。
 また身体リソースが増やせそうになくても、環境リソースを工夫したり増やしたりできます。車いすや電動車椅子、装具や杖、補助装置などクライエントの要求にできるだけ近づけるための工夫は常に行います。これらを常に持ち込んで、クライエントが最大限利用するための運動スキル学習も常に工夫します。車椅子などはその利用方法である運動スキル学習が必須です。
 さらに同じ運動課題を繰り返すと運動スキル学習も熟練して停滞状態になります。運動スキル学習でも必要なことは、少しずつ実施条件と課題を少しずつ難しくすることでした。
 従ってリハビリのセラピストの役割は、訓練全過程を通して運動リソースの豊富化と運動スキル学習を並行して行えるように課題を工夫して設定することです。
 少し話は変わりますが、パリのパラリンピック、車椅子バドミントンの「車椅子と体幹の柔軟性」を思いっきり使って強く羽根を打つ里見選手の運動スキルはとても印象的でしたね。
 最後少し大雑把になってしまいました(^^;)言葉にすると難しい感じもしますが、実際のやり方を見ると「ああ、なるほど!これならやれそう」という内容です。講習会などで具体例を紹介していますので、もし機会があればご参加下さい(^^)(終わり)
※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「運動課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その8 最終回)」
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