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自律的問題解決とは?(その6)

 前回は、全国の脳性麻痺学会で「硬さという陽性徴候が正常運動の出現を妨げている。だから硬さを改善することで正常運動が出現するのだ」という結果同士に因果関係を想定するという矛盾のアイデアを多くのセラピストが当然といった風に主張していたと述べた。
 そんな中で一人のおじさんセラピストが「そのアイデアはおかしい」と言っていたのが印象的だった。
 もっともそのアイデアがなぜおかしいと明確に説明できるようになったのはほんの15年前くらいからなので僕も大きなことは言えない(^^;)おまけに僕もいつのまにか前期高齢者である。おじさんセラピストなどというのも失礼である(^^;)が、ここではわかりやすいのでそのまま使わせてもらう。
 さて、陰性徴候と陽性徴候のアイデアにはもう一つ大きな矛盾がある。それは上田法という徒手的療法と出会ってから気がつくようになった。
 まず上田法は脳性運動障害後の過緊張状態を大きく改善する。ストレッチの比ではない。そうすると柔軟性が改善し、それまで見られた運動はより大きく滑らかな運動となり、それまで見られなかった運動が出現する。もちろんこれは軽度~中等度麻痺の場合である。
 観察される変化はそれだけに終わらない。中等度麻痺では歩いていた方が急に下肢がフニャフニャになって歩けなくなったりされる。重度麻痺では硬さが改善すると弛緩性麻痺が露わになる。例のおじさんセラピストが言った通りである。硬さが取れると弛緩状態が露わになる。根本的に弛緩状態が改善しないのに正常運動が発現するというのはおかしい。
 更に驚いたのは、関節の可動域が広がるとクローヌスが顕著に出現する。関節の柔軟性が改善することで、却って伸張反射の亢進が明らかになる。 つまり硬さは改善しても伸張反射の亢進は抑制されていない。どういうことかと考えると、弛緩状態もあるいは伸張反射の亢進も神経要素によって引き起こされたものである。しかし上田法で改善している硬さは、筋あるいは筋膜の粘弾性要素を変化させているらしいということだ。神経要素にはほとんど影響を与えていないと考えられる。
 つまり脳性麻痺学会で言われていた「硬さが取れると正常運動が出現する」は、臨床での観察によるものだが、出現する運動とは、筋の粘弾性要素の硬さによって制限されていた元々持っている運動が、その改善で再び現れたものであると考えられる。決して正常運動が出現していたわけではない。弛緩性麻痺はちっとも変化していないのだから。
 またそれまで脳性運動障害後の硬さは、伸張反射の亢進による痙性とされていたが、どうも筋の硬さStiffnessは伸張反射や原始反射の亢進による神経要素によるものと、筋や筋膜などの粘弾性要素の変化の複合体であると考えられる。
 そうすると以下のような想像が生まれる。まず脳の細胞が壊れたことが原因で、弛緩状態が広範囲に現れる。そうすると動くことができない。人は動物なのでなんとか動こうとする。それで自律的問題解決として弛緩状態の部分を何とか硬くしようとするだろう。
 そこで身体の内部に筋を硬くするリソースを探して利用する。神経要素では傷害されていない下位の伸張反射の閾値を下げて筋の収縮状態を生み出そうとする。さらに軟部組織の粘弾性要素をキャッチ収縮のようなメカニズムで硬く変化させるわけだ。
 もうお分かりだと思うが、CAMRで提案している「外骨格系問題解決」はこれらの一連の考察から生まれたものだ。
 ジャクソンは脳性運動障害後の症状を陰性徴候と陽性徴候の二つに分類した。しかし実際には陰性徴候だけが症状ではないか。その後に現れる伸張反射の亢進や原始反射の優位な出現といった神経要素の活動は弛緩した部分を硬くするために運動システムが選択した問題解決である。更にキャッチ収縮や筋膜の変形などは軟部組織内の硬さを変化させるメカニズムによって弛緩部分を硬くしたのだろうと予想されるわけだ。
 筋の硬さStiffnessは、障害後に運動システムが選択した問題解決である。だから様々な症状の中でこの硬さだけは上田法などで変化させられると考えると大まかに現象が一通り上手く説明できるようだ。元の症状は変化しなくても硬さだけは変化するわけだ。
 もちろんこれは想像されるアイデアである。そしてジャクソンの階層型理論も同様に想像されるアイデアである。驚くべきは、この想像のアイデアが150年近く正しさを検討されることなく生き残ってきたことだろう。いくらでも疑問を感じる現象があったはずだ。これは明らかに科学の停滞である。
 CAMRの新しい仮説でもなんでもともかく現在の疑問に基づいて、科学研究に取り組まれる若い研究者の出現を祈りたい。
 たとえば歩行する片麻痺患者さんの四頭筋や下腿三頭筋に、筋力に見合っただけの筋電図活動が見られるだろうか?キャッチ収縮はどんな風に作動しているのか、どんな条件で解けるのか?
 新しいリハビリの方向性は、これらの研究によって決定されるのではないかと思っている。(終わり)
※申し訳ない。自律的問題解決はまだ4種類残っています。今回は書いているうちに自然に筆が進んで外骨格系問題解決に深く偏ってしまいました。今さら他の問題解決に繋げていくのは気持ちの上で難しいのでまたいつか別にシリーズを起こして詳細に説明して行く予定です(^^;)
※毎週火曜日にはCAMRのフェースブックページに別のエッセイを投稿しています。
 最新作は「運動課題を達成するのは、筋力ではない!-運動スキルの重要性(その1)」
以下のURLから
 https://www.facebook.com/Contextualapproach

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