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「脳卒中片麻痺の運動システムにダイブせよ!~CAMR誕生の秘密」の紹介

 思えば昔、僕が脳卒中患者さんを見始めたときには、「どうしたら良いものか」と悩んだものです。
 たとえば患者さんが立った時に、麻痺側の下肢が全体に屈曲して持ち上がり、患者さんは良い方の手脚だけで立たれます。これは「屈曲協働運動という現象でありであり、抑制されなければならない」と講習会などで説明されます。そこで自分の手を使って、患者さんの脚を抑えてまっすぐにし、床につけようとするのですが、一向に改善した感じがないのです。「手を使って、脚をまっすぐにして体重を支えるようにする」ことが正しいのかどうかさえ、分からないまま実施していました。
 これはそもそも「屈曲共同運動」が何者で、どんな性質や意味があるか分からないので、形だけ真似て脚をまっすぐにしようとするからです。
 一方、システム論を基にしたCAMR(カムルと呼びます。Contextual Approach for Medical Rehabilitation: 医療的リハビリテーションのための状況的アプローチの短縮形です)では、この現象を次のように説明していきます。
 麻痺側下肢を発症後初期に使おうとすると、麻痺のため支持性がなくてこけそうになります。つまり麻痺側下肢を使おうとすると立つという課題達成に失敗するのです。そこで患者さんの運動システムは立位課題に失敗しないように患側下肢を使わずに、健側上下肢と手すりを使って立とうとします。つまりこれは運動システムが選んだ患側下肢の「不使用」という問題解決方法なのです。
 しかし障害後に運動システムが選んだ問題解決方法は、たくさんの筋力などのリソース(資源)が失われて、仕方なく応急的に使われる解決方法です。「使うと失敗するので使わない」という問題解決方法は、その時は良くても、「使っていれば将来的には使えるようになるはずの麻痺側下肢」の可能性を失わせてしまいます。
 このように理解すると、単に脚の形をまっすぐにしようというのではなく、形はどうあれ、まずはできるだけ使ってもらうことが大事であることがわかってきます。
 そして運動システムが障害後に立つために選んだ問題解決なのです。「屈曲共同運動」というと、中枢神経システムの中の正体不明のメカニズムが相手でどうしたら良いのか分からなくなりますが、運動システムが選んだ問題解決なら、もう一度運動システムに「使う」ように選び直してもらえば良いのです。
 単に脚の形を矯正するのではなく、患側下肢に重心を移動してもらい、ちゃんと荷重・支持する経験を繰り返し、運動システムに「この脚は繰り返し使っていると、支持性が増して使えるようになるよ」という知覚学習をしてもらえば良いのです。
 このようにシステム論のような従来と異なった解釈の立場に立って理解すると、リハビリテーションのアプローチを自分で考え出したりすることもできるようになります。そうすると自分が何をするべきかがよく分かって、リハビリという仕事もとても面白くなります。
 この本ではシステム論を基にしたCAMRの考え方を紹介しています。このCAMRは、「運動システムの視点に立つ」という独自の方法論を持っています。つまり運動システムにダイブ(飛び込む)して、運動システムの立場から人の運動システムの振る舞いを理解しようという視点です。難しそうに思われるかもしれませんが、実際にやってみるととても簡単です。
 今の仕事の内容ややり方、結果に満足していないなら、この本を通じてきっと新たな可能性を見つけられると確信しています。
(本書の「はじめに」より抜粋)

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