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真夏のカレー、真冬のキャンプ。

 肌寒さを感じながら目を覚ます日が増えてきた。ついこの間まで秋の訪れを喜び味覚の話題で盛り上がっていたのだけど、11月に入ると感覚的には冬だ。我が家では衣替えという古の文化が潰えて久しいが、布団だけは冬用に変える。

 冬といえば、こたつでぬくぬくと暖まりながら鍋をつつくのがたまらない。鼻を真っ赤にしながら室内に逃げ込んだときのホッとするぬくもり。この世に生まれ落ちてから30回以上経験しているのに、いまだに至福を味わうことができる。
 ところが人間というのは不思議なもので、寒さと暖かさの対比だけが至高ではないのだ。冬に食べるアイスはしこたまうまいし、真夏に汗をかきながら食べる激辛カレーや熱々のおでんも最高。寒さから暖かさへ、暑さから涼しさへの退避に幸福を感じると同時に、寒さや暑さをそのまま享受して楽しむ価値観も持ち合わせているのだ。

 寒くなると、僕らソロキャンパーは「シーズンの到来」を予感する。レジャーイベントとして楽しむ人にとっては、真冬に野外で過ごすなんて信じられない思いだろう。しかし、寒さから暖かさへ退避する時の幸福感、そして真冬に食べるアイスクリームの美味しさを知っている人なら、少しだけ「その気持ちわかるかも」と思っていただけるかもしれない。

 冬キャンプの醍醐味は焚き火にある。炎を目の前にすると心が落ち着き癒されるだけでなく、シンプルにあたたかい。年末年始、昔はよく、神社で大きな炎を焚いていた。お焚き上げというものだ。子供の頃、公式に夜更かしできるイベントとしてとても楽しみだった記憶がある。大きな炎の前にいると、たちまち温かくなり、頬に触れる冷気が心地よく感じる。

 その幸福感を、焚き火で味わうことができる。もちろん炎の大きさは限られるから、厚着は必須。それでも、近づきすぎると熱気で暑くなるほど幸福なエネルギーが肌に伝わってくるのだ。
 キャンプ場に着くと、寝床を準備する。一人でせっせとテントを組み立て、寝袋を広げ、ようやく一息つけるかなというころには火を起こす準備だ。一人だとやることが多い。それがいい。忙しないというほどではないが、程よい有酸素運動といったところか。ジトッとにじむ汗が、都会の喧騒というものが日常の運動から遠ざける利便性の塊だったと気づかせる。

 夕方にさしかかるころには焚き火も育ち、ディナータイムの準備だ。特に凝った料理をしなければ、スーパーで購入した焼肉で十分。米が欲しければレトルトでもいいだろう。

 十分に腹を充しながら、暖かい炎を前にアルコールを流し込む。体の芯からじわっと熱が上がる。炎と体の隙間を冷たい空気が横切る。一瞬で冷めた肌を、ジュッと内側のアルコールと目の前の炎が温めてくれる。この心地よさを、もっと多くの人に知ってほしいと思う。

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