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MuseScore4を触ってみた(1)

【第1章】さあ新しいこと始めるぞ

この夏はMuseScore4にどっぷりハマっていました。
新しく追加されたMuseSoundによる再生機能が、そこそこ優秀だというので試しに使ってみることにしたのです。
MuseScore本体はフリーの譜面作成ソフトで、年数をかけて進化してきたソフトなので、僕自身も自分の譜面を作るときに重宝していました。前のバージョンでも再生機能はあったのですが、それは打ち込んだ音が正しいかどうかの確認をする程度のもので、本格的なDAW(*1)の代替にはならないものでした。
しかし4.0で提示されているいくつかのサンプルを聴いてみると、これまでとは一味も二味も違うのではないか、との印象を受けました。

さて、何ができるのか、どこまで出来るのか・・・

結論を先に言ってしまうと、MuseScoreはやはり譜面作成ソフトであり、DAWの代替には(今のところは)ならない、ということでした。
ただこのオープンソースに関わる多くの優秀なプログラマたちが、近い将来画期的なバージョンアップを果たすかもしれない。その期待は、コミュニティのフォーラムを読んでみると、現在ある致命的な欠落やバグについてもちゃんと議論されている様子が見て取れ、的外れではないと思っています。

<最初はピアノ曲>

新しい再生機能については、詳細なドキュメントを見つけることができなくて手探りで始めるしかなかったのですが、いきなりフルオケというのは無謀だろうと思って、ピアノ曲から始めることにしました。単一楽器だから簡単だろうと舐めてたわけではありませんよ。ピアノ曲には、後々フルオケでも必要とされる様々な技法が暗示されているわけで、それらを確認することが目的でした。
無料の楽譜が入手できるという縛りで、ドビュッシーの「月の光」に取り掛かりました。

難点は、「僕はピアノが弾けない」という点です。頼りになるのは自分の耳だけ。試されるのは自分の音楽性。結構厳しいです。

付属のMuseSoundからGrandPianoをセットアップして、まずは譜面の打ち込みからスタートしたのですが、最初の和音で躓きます。
なにせ相手はコンピュータ様なので、二つの音が完璧に均質な音量で、1ミリ秒の誤差もなく発音されるわけです。人間がやる音楽ではありえないことです。
人間の演奏では、卓越した演奏家は和音の一音一音の強弱にも気を遣うといわれています。発音のタイミングもあえてずらす、それも聴き取れないほどのの誤差で。これはDAWでは擬人化(Humanize(*2))と言われる機能なのですが、それが見当たらない。そもそもMIDI(*3)標準のVelosity(*4)とかExpression(*5)とかが明示されていない。単音のプロパティ(*6)に「音量」を増減させる機能があるのですが、その「音量」がなんなのか分からないのです。普通に「音量」といえばVolumeのことだと思うのですが、それはミキサー機能に含まれています。
後々、その「音量」はVelocityだと分かるのですが(これは日本語訳が悪い)、その時は触り始めてから二日目でしたので、単音のプロパティの「音量」とミキサーの「音量」がどう機能するのかさえ分かりませんでした。しかもプロパティの方の値をゼロにしても音は鳴るのです。そりゃ、混乱しますって。

でも始めたからには何とか形にしないといけない、という思いで強硬策に打って出ることにしました。
同じ楽器を二台にしたのです。大譜表(*7)が二段ですから、声部を最大4つのパートに分けることができます。同じ音源を使っているので音質のバラツキはなく、一台の楽器として聞こえます。あとはパートごとに強弱記号を乱打して色を付けて行くことにしました。
和音に色がつくと、発音のタイミングの完璧さが少し緩和されるようですが、これは耳の錯覚によるもので、いわゆるズレ(SingerSongWriterでいうところのDeviation(*8))を含むものではありません。
この解決法も後で分かるのですが、全ての和音にアルペジオ記号(*9)を付けて、その記号のプロパティで拡散の度合いを調整することで解決できるのですが、その当時は知識が追いついていなくて、色付けでやり過ごそうと考えてました。
ここまでくると、すでにして譜面としての機能は全く無視で、如何にそれらしく聴こえるようになるかだけに腐心していました。もうひとつ、クラシック音楽特有のテンポの揺れについても、譜面上でrit.やaccel.(*10)を付与すると、再生機能があらかじめ決められた度合いで実行するのですが、その度合いを調整する機能はないので、やはりテンポ記号を乱打して凌ぎました。ついでに本譜にはない不規則な拍子も入れ込みました。ここまでくると譜面としてはズタボロ状態です。
そうやってなんとか一曲仕上げてYoutubeに公開したのですが、とても「自分の作品」とは言えないので「習作」としました。
身内や仲間に聴いてもらって、かろうじて合格点を頂いたのですが、自分としては課題が残るものでした。

<参考リンク>
ドビュッシー「月の光」

<用語注釈>
(*1)DAW
Digital Audio Workstation」の略。パソコンなどをスタジオ化し、音楽制作に必要な作業を可能にするソフトの総称。有料無料含めて様々なDAWソフトが公開されている。 読み方は「ディーエーダブリュー」や「ダウ」など人によって異る。
(*2) Humanize
MIDI(後述)シーケンサーの機能のひとつ。演奏情報のタイミングを合わせるクオンタイズの付加機能であり、機械的になりすぎないようにランダム性を持たせる事を言う。
(*3)MIDI
Musical Instrument Digital Interfaceの略。電子楽器の演奏データを機器間で転送・共有するための共通規格。
(*4)Velosity
速度という意味の言葉であるが、MIDIの用語では鍵盤を叩く強さをあらわす。 ベロシティの変化によって音がどう変わるかはこのMIDI信号を受け取るシンセサイザーの設定次第であるが、普通は音量や音色に反映される事になる。
(*5)Expression
MIDIのコントロールチェンジのひとつ。0~127の値を使用することができ、0が音量0%(音量無し)、127が音量100%(最大)となる。また、メイン・ヴォリュームも同様のはたらきであるが、エクスプレッションは、アーティキュレーション(音=旋律に表情を付けること)を実現するために使用されることが多い。
(*6)プロパティ
ITの分野で、ソフトウェアが取り扱う対象(オブジェクト)の持つ設定や状態、属性などの情報をプロパティということが多い。
(*7) 大譜表
2段組の五線譜からなる譜表である。音部記号には「ト音記号」と「ヘ音記号」の2つの組み合わせが用いられる。
(*8)Deviation
MIDI用語。Humanizeに関係している楽器発音のズレをミリ秒単位で設定できる。一般的ではないが私が使っていたDAWソフト「SingerSongWriter」のステップエディタにあった機能。
(*9)アルペジオ記号
音楽用語。和音をアルペジオまたは分散(つまり和音を構成する音符を 1 つ 1 つ非常に素早く演奏)することを示す波型の垂直の線。
(*10)rit.,accel.
クラシック音楽などで使われるritardando、accelerandoの略表記。速度記号の中の一つ。 イタリア語でだんだん遅く、だんだん速く、という意味

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