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『パワー』と、手から電撃を出しちゃう女性の出現

人気小説の映像化

Amazon Prime の配信ドラマ『パワー』シーズン1(全8話)を見ました。これがねえ、いいの。もう、すっかり影響されちゃって、女性の手からビリビリ出る世の中って楽しいかも〜なんて愉快な気持ちになっています。作品未見の方は「手からビリビリ」って何のこと? と思われるかもしれませんが、このドラマは「女性が、手から電気を放つ能力を得た世界」を描いているのです。原作となるのは、英作家ナオミ・オルダーマンが2016年に書いた “The Power” という小説。日本では2018年に翻訳が出まして、私もすっかりハマって大好きな作品となりました。事前情報ではレスリー・マンが主演だと言われていましたが、実際にはトニ・コレットに変わっていましたね。

物語は、少女たちにまつわる不思議なうわさから始まります。どうやら、手から激しい電気を出せる若い女性が世界各国に出現しているらしいのです。ナイジェリアにいる女の子が、その始まりでした。少女のYouTube動画が出回り、「捏造だ」「手から電気が出るわけがない」と話題になります。一方サウジアラビアでは、電撃を出せる女性が集団となって叛乱を起こしているらしい。そしてどうやらアメリカにも、電撃ガールは存在しているようだ……。そんな状況が、ユーモラスかつ不気味に描かれていきます。電撃を使えば、相手を失神させることも、場合によっては命を奪うこともできるほど、電撃は強力らしいのです。まあすごい。未知の存在である「手から強力な電気を発する女性」は、当然ながら社会を大きく変えていくことになりました。

みなさんビリビリ得意です

どす黒い快感

これまで腕力が強いのをいいことに、DVだ、虐待だと好き放題やってきた男たちに、ついに女性が反旗をひるがえすときがやってきました。ビリビリビリ。もう女性には何の手出しもできなくなります。かくして、男性優位の世界は終わりを迎えることとなったのです。それにしたって、エラソーな暴力男が電撃で丸焦げにされるシーンには、どす黒い快感があります。爽快ですね。小説では、こうした様子を群像劇として描いていきましたが、ドラマ版では、より多くのエピソードや映像的なアレンジをくわえつつ、現代社会の風刺画としての様相をさらに強めていきます。特に私が感心したのは、政府や州が女性に対して、電撃能力を持つかどうかを自己申告させようとする、身体検査を強制的に行わせようと画策するといった描写でした。それに反対する、トニ・コレット扮するシアトル市長マーゴットが「自分たちの身体に関する自己決定権」についてスピーチをする場面には胸を打たれました。ここはよかった! 彼女が語る「自分の身体について充分な情報を与えられていない。恥と絶望の連鎖がある」といった女性の身体の歴史。ここには、中絶が違法になってしまうようなアメリカの状況、自分の身体に関する決定が許されない事態が暗喩されていると思います。このマーゴットのスピーチには、作品のテーマが凝縮されていると感じました。

また、そうして女性が電撃により力を持った状況で、男女の立ち位置が逆転していく様子が実に巧みに描かれているのがおもしろいのです。恋人との性行為中に興奮して電撃が出てしまい、男性から「やめて」と言われているのに、そのまま行為を続けてしまうジョス(アウリイ・カルヴァーリョ)。電撃を会得したことで、借金の取り立てができるようになり、ギャングの一家のなかで地位が上昇した少女ロクシー(リア・ズミトロヴィッチ)。それとは対照的に、つねに食事を作り、家族をケアし、シャツにアイロンをかけるマーゴットの夫ロブ(ジョン・レグイザモ)の存在も印象に残ります。こうした変化のなかで、「アーバンドクス」と呼ばれるYouTubeの人気男性配信者が登場し、女性嫌悪を喧伝する悪質な動画を拡散していく、といった展開も現代らしいと感じました。こういう卑劣なやついるんだよ、どこにでもさ。そして、女性の権利を必死に訴えてきたマーゴットの息子が、あろうことかアーバンドクスにハマってしまい、母親を憎みはじめるという悲しい展開も効果的でした。社会の分断も困るけど、家族の分断はもっとたいへんである。

各キャラクター、これからどうなるの? とクリフハンガーな展開を見せて、シーズン1の8話は終了。いやーおもしろかった。気になる方はぜひドラマを見てみてほしいですし、原作小説も魅力的ですので、こちらもどうぞ。原作はつい最近、文庫化したようで、手軽に読めるようになりました。

【『パワー』原作本です】

【私が出した本もぜひ読んでみてください。なお本文中に電撃は出てきません】

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