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なんで総理大臣になったの

現首相についてもっとも疑問なのは、「なんで総理大臣になったの」という根本の動機である。まったく楽しそうではないのだ。なりたくてなったのだから、少しは「やったぜ、俺はいま念願の総理大臣だ」という高揚感、邁進している様子、ギラついた野心、キテル感があってもいいではないか。ところが現首相、とにかく何をするのもイヤそうだし、いかにも面倒くさそうで、遊びに行きたいのに親から庭の草むしりを命じられた子どもみたいな態度を隠しもしない。総理大臣なんてなかなかなれるものじゃないし、せっかく目標の地位に就いたのだから、ここはひとつ、はしゃいでみてはどうか。こんなにイヤそうにしている現首相を見ていると、しだいにこっちの元気が吸い取られそうな気がしてくるのだ。

氏の、人としての活力がみなぎる瞬間がどうにも見えないのである。これが前首相であれば、国会の審議中にヤジを飛ばすくせがあり、野党議員に対して「意味のない質問だよ!」「日教組、日教組!」などと叫んでは注意されていたが、そうした場面で見せる妙にイキイキとした様子からは、なるほどこの人はヤジを飛ばすのが好きなんだな、彼は審議で他人の発言を遮っているときにだけ「ああ、俺はいま生きている」「政治家になってよかった」と実感できているのだろうな、と推察できた。エネルギーを注ぐ方向性は間違っているにしても、前首相に「活力がみなぎる瞬間」があったことだけは確かだ。

しかし現首相は、とにかく国会を開きたくない、会見をしたくない、人前に出たくないとあらゆる場所から逃げつづけ、所信表明演説すら就任から40日以上先延ばしにした。人前に出たくない総理大臣ってのもわけがわからないし、目立ちたくないのならなぜそんな職務を選んだのかと訊きたくもなる。まったくエモーションのこもっていない棒読みの答弁は、「本当はこんなことやりたくない」「答弁ダルい」という本音を露呈させているし、言い間違いの多さは自分が話している内容に興味がないことの証左だ。彼はいったい、総理大臣になって何をしたかったか、どの瞬間にキメたかったのか。

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一方、トランプ元大統領は2017年の就任に際し、ホワイトハウスの大統領執務室に「ダイエットコークボタン」をつけさせたという*1。彼がボタンを押すと、誰かがすぐにダイエットコークを持ってかけつけるのである。きっとトランプは大統領になって嬉しかったのだろう。「いまの俺はすごく偉いぞ、何でも思うがままだ!」という興奮が「ダイエットコークボタン」なる小学生じみたアイデアに結実したわけだが、少なくともここには大統領になれたよろこびがあるし、選挙に勝って調子に乗った男の姿がある。彼が米国で人気なのも、案外こうした単純さにあるのかもしれない。ならば現首相も、総理執務室に「パンケーキボタン」をつけて、押したらすぐに係員がパンケーキを持ってくるみたいなやつをやってみてはどうか。あるいは支持率も多少持ち直す可能性がある。ない。

こうなればもう何でもいいから、総理大臣になったらこれがやりたかった、総理大臣になれてうれしい、という感情を見せないと、すぐに支持率が下がり、政治家としてダメになってしまうのではないか。例の「ガースーです」発言など、あるいは自分なりに活力不足を自覚し、みなぎってる感じをどうにか出そうとして失敗したかにも思える。政治家にだって「この瞬間が味わいたくて総理大臣になったんだよ」という躍動のタイミングがあるはずだ。そのあたりをちょっと見せてもらっていいですか。

*1 「大統領執務室の赤いボタン撤去 押すとダイエットコーク」(朝日新聞)


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