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怖くて聴けなかったアルバム 10選

怖そうな音楽

私は小中学校の頃から海外の音楽に興味を持ち始め、いろいろと聴いてきたのだが、聴くのが後回しになってしまったアルバム、なかなか手の出しにくいタイプのミュージシャンがいた。「ロック名盤100」のようなディスクガイド本を読み、そこに載っているアルバムを聴いていく場合、優先されるのはどうしても、ジャケットの雰囲気や紹介文などから「きっと自分好みだろう」と思われる作品だ。一方、「いつか聴かなくては」と思いつつ、なかなかトライできなかったミュージシャン、アルバムも多数ある。「あれはどんな音楽なんだろう」と気になりつつ、結局聴かずじまいだった作品も多い。

私が特に苦手なのは「怖そうなやつ」である。すごく暴力的なことを歌っているのではないか。曲を聴いていると、叱られてるような気になるのではないか。延々とノイズや絶叫音、お経の読み上げ等が収録された難解アルバムなのではないか。黒ずくめの服を着たメンバーが、暗くて元気がなくなるような曲ばかり作るのではないか。昔からポップでわかりやすい曲が好きだった私は、「過度に変わったサウンド」「アヴァンギャルドな音楽を作る過激集団」みたいなイメージに不安を感じてしまうのだった。アングラも苦手な表現だ。また「伝説のライブ」をやるようなバンドにも恐怖がある。ライブハウスを破壊したり、豚の内臓をステージから投げたりなど、おっかないことをする人たちの音楽にはなるべく触れないように注意してきた。結局のところ私は、おしゃれなレコードジャケットが好きで、自転車に乗りながら鼻歌でうたえるようなポップな曲を聴きたい凡人なのであった。

とはいえ、偏見から出会えなかった音楽も多かっただろう。昔はこうした怖そうなミュージシャンのCDを買うのにも、1枚2000円くらいは出さなければならなかったため、なかなか食指が伸びなかったが、いまはサブスクを使って好きなだけ聴くことができる。かつて怖くて聴けなかったあのミュージシャン、あの未聴アルバムはどんな曲が入ってたのか、いまこそ確認してみようという気になり、ここ最近あれこれと聴いてみたのだった。思えばかつては「怖そうな音楽をやってる人たち」が一定数いたような気がするが、最近のミュージシャンをチェックしていて「怖そうだな」と感じることは少なくなった。がんばって尖った音楽をやっていたバンドにも関心を持っておけばよかったと反省しつつ、かつて敬遠してしまっていた音楽をあらためて聴いた私である。本日は、私が聴けなかった音楽を紹介していきたい。この記事でぜひ共に体験していただきたい。

エイドリアン・ブリュー

なかなかアルバムを買う気になれなかったギタリスト、エイドリアン・ブリュー。象の「パオーン」という鳴き声をギターで再現する、で知られていたが、それ以上の情報はなかった。エイドリアン・ブリュー=パオーンの人。すごく変わった音楽をやっているっぽい人。それでイメージが固定されてしまっていた。パオーンに2000円は出しにくいなあと思い、アルバムを聴いたことはなかったが、実際はポップな作曲もお手のもの、ギターの上手いミュージシャンであった。ギターで動物の声を真似るという曲芸キャラの押し出しが逆効果だった可能性もある。ビートルズみたいなメロディラインもあるし、ギターの聴かせどころが多い魅力的な曲ばかりだ。アルバムジャケットのデザインもいい。特に "Inner Revolution"(1992)は、XTCのようなポップセンスが感じられるステキなアルバムであった。メロディがよい。

UKロックファンにオススメ度★★★☆☆

アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン

怖い度No.1といってもいいこのバンド。私のような軟弱者はとても聴けなかった音楽である。電気ドリルをウィーンと鳴らして楽器にしている、という情報だけで恐怖がこみ上げてきたし、「メタルパーカッション」「ノイズミュージック」といった言葉を耳にすると「どんなに怖い音楽をやっているのだろう」と逃げたい気持ちになったものだった。まずバンド名が難解だし、「ノイバウテン」と略したとしても、響き的にちょっと怖い(ちなみに私の考えるいちばん怖くないグループ名は「ママス&パパス」)。バンドのマークがちょっとカワイイのはよかったが、サブスクで聴くにも勇気が要った。彼らのデビューアルバム "Kollaps"(1981)は、たぶん鉄の板みたいなのを叩いているのだろう、カンカンカンという鉄のリズムを聴くことができ、おおっこれがメタルパーカッションかと嬉しくなった。「キョエーッ!」という激しい叫び声や、建築用ドリルが「ドドドド」とうねりを上げるサウンドも収録され、怖い気持ちは変わらなかったが、曲に込められたエネルギー、「何か新しい表現をするのだ」という気概が感じられたのが収穫である。何より「どんな音楽をやっている集団か」が確認できてよかった。

鉄がカンカン鳴ってる度★★★★☆

エマーソン・レイク&パーマー

私はプログレにうまくハマれなかった。なぜかキング・クリムゾンだけは聴けたし、積極的に好きだったが、それ以外のプログレバンドにはどうもノレないまま現在に至っている。理由として「1曲が長い」「構成が複雑」等が挙げられるが、何よりジャケットのデザインが怖かったのである。そして、プログレのジャケット(アートワーク)の怖さを象徴していたのが、エマーソン・レイク&パーマーの "Tarkus"(1971)であった。何ですか、このよくわからないアルマジロ戦車みたいな絵は。怖い。

謎のアルマジロ戦車ジャケ

これで「わ-、かわいい絵だ、聴きたい~」ってならないでしょう。EL&Pといえば、大槻ケンヂのラジオ(オールナイトニッポン)の最後にかかる「ラッキーマン」(1970)だけは知っていたが、これも「怖い曲を演るバンドが気まぐれで作ったキャッチーソング」という偏見を持っていた。どうせアルバムは全部怖いんだろうと思っていたのである。そしてついに "Tarkus" を聴いたのだが、ジャケットのイメージとは違って、カッコよくアレンジされた曲が多く、普通に好きな種類の音楽だった。聴かず嫌い申し訳ない。特にアルバム1曲目 "Tarkus" は20分以上ある曲なのだが、よく練られていて気持ちのいい楽曲だった。プログレの苦手は克服していきたいが、EL&Pに関しては問題なく行けそうな気がしている。

聴かず嫌い度★★★☆☆

カン

ドイツの前衛音楽集団、カン。どんな音楽をやっているのか想像もつかなかった。そして聴いたことないけど、雑誌などで読んで名前だけ知ってる日本人メンバー、ダモ鈴木。「中島らも」にも似た響きを持つ男。ドイツを放浪する日本人ヒッピー。やけに記憶に残る強いインパクトの名前を持つ「ダモ鈴木」とはいったいどんな人物なのか、まるで想像がつかず、腑抜けの私はまたしても「怖そう……」というイメージを持った。そもそも私はジャーマンロックに対して間違ったイメージを抱いている可能性がある。ネーナ「ロックバルーンは99」(1983)以外のドイツ音楽にも触れていくべきではないかと考え、ようやくカンを聴いてみることにした。これは今回聴いてみた10組のミュージシャンの中でもいちばんの驚きであった。私はカンの音楽が好きになった。カッコいい。特にドラムの音が非常によく録れていて、聴いていて気持ちがいいのだ。ブレイクビーツ的なリズムを繰り出すのも嬉しいし、ギター、ベースがそのリズムに絡んでくる感じも心地よい。G・ラブ&スペシャル・ソースみたい。アルバム "Ege Bamyasi"(1972)は、彼らのグルーヴ感が楽曲に反映されたアルバムだ。オススメなので、試しに聴いてみてほしい。

ダモさん度★★★★☆

ジャパン

音楽好きといいつつ、君はジャパン聴いたことないのかねと叱られてしまうかもしれない。勉強不足申し訳ないです。かなり有名なバンドなのだが、なぜか手が出なかった。理由としてはジャケットに描かれた毛沢東。私はマオが出てくると怖いのである。文革されそう~って思っちゃう。またメイクや髪の色が派手なのもやや苦手で、普段着っぽいバンドの方が好みだったという点も大きい。当時ニューロマンティックなどのムーブメントもあり、派手なルックスのバンドは数多くいたのですが、デイヴィッド・シルビアンのしゅっとしてる感じがうまくなじめなかったのであった。ディスクガイドに挙がるのは "Tin Drum"(1981)である。いま聴くと実にポップ。聴きやすくて楽しい。81年リリースだと、時期的に70年代のサウンドを引きずっていてもおかしくないが、しっかり80年代のサウンドが構築できているのもみごと。シンセの使い方がおしゃれで、ポワンとした印象があるのも好きだし、ハンドクラップの入れ方なども80年代のセンスを持っている。

デヴィシルのイケメン度★★★★★

ザ・スターリン

あー怖いっ。ザ・スターリンのボーカルである遠藤ミチロウは「怖い人」の代表であった。ライブで客を殴った、ステージから放尿したと、めちゃくちゃなエピソードが雑誌に載っていた。いちばんニガテな音楽。伝説のライブやる系の人だ。そんな暴れん坊の曲を楽しめる気がしない。また彼は福島県二本松市の出身だというではないか。同じ福島出身として親近感が湧きかけたが、舞台上でおしっこする人の音楽を聴くのは怖すぎるのでやめておこうという判断に至り、聴かずにいたのである。"Stop Jap"(1982)はスターリンのメジャーデビューアルバム。客席に豚の内臓を投げてもメジャーで音楽がやれた80年代はステキだなと思うのだが、曲はストレートなパンクサウンドで聴きやすかった。そもそもパンクには、どんなにハードに演奏しても明るさや元気が宿ってしまう部分があり、スターリンの楽曲も例外ではない。その後遠藤氏は、地震で被災した故郷福島の支援をしたりと積極的に活動したが、2019年に亡くなってしまった。追悼。そして2022年、遅ればせながら初めてスターリンを聴いている私である。

福島度★★★★☆

シン・リジィ

アイルランドのハードロックグループ。ハードロック、メタル系にはたいてい恐怖感を覚えてしまう私であった。好きなグループもあるが、シン・リジィは怖そうだった。なぜかはわからない。いま考えればそこまで怖い要素はないのだが、音楽を聴く前に身を守ろうとする姿勢が出てしまっていた。それとこのバンドは、使っていたバンド名のロゴがなんか尖ってて痛そうに見えたのである。

尖ってて痛そうなバンドロゴ

そんな理由で聴かないとなると実に失礼ではあるのだが、なんだか手が出ないバンドであった。実際に聴いてみると、ハードロックな楽曲だけではなく、「よくギターが鳴っているポップソング」的なサウンドも多く、サビでハモってみたりと親しみやすいサウンドであることに気がついた。怖そうな不良の先輩かと思ったら、実は毎日欠かさず牛乳を飲んでいたみたいな、意外な一面を見たのである。"Jailbreak"(1976)は、そんなシン・リジィの親しみやすさが楽しめる好盤。誤解しててすいませんでした。

実はポップ度★★★★☆

デッド・カン・ダンス

「ゴスの要素に、民族音楽や宗教音楽をミックスした」という触れ込みだけで、さっそく怖いと思ってしまうグループ。私の中でのゴスは完全に「怖い音楽」であり、またバンド名に「デッド」がついてる時点でより怖さが増した。グレイトフル・デッド、デッド・ケネディーズなど、デッド系のバンドはだいたい怖いと思っている私。4ADというレーベルから出ているのだが、このレーベルのバンド、たとえばペイル・セインツなんかは当時聴いてたんだけど、やっぱりちょっと怖くてそこまでハマらなかった気がする。彼らのデビューアルバム "Dead Can Dance"(1984)は、曲によっては初期ニューオーダー風のサウンドが聴けたりもする作品なのだが、アルバムジャケットが示すように民族音楽への傾倒が見て取れる。アルバムごとによりディープな民族音楽、宗教音楽世界へ入っていくが、ファーストにはポップミュージック的アプローチが残っていて聴きやすい。でもまだちょっと怖いかな~。

ゴス度★★★★★

シャム69

セックス・ピストルズやクラッシュは大好きなのだが、どうにも聴くのが怖かったシャム69。理由を考えていたのだが、かつてたくさんあったパンクショップのイメージが怖かったことと、頭の中で混同してしまっていると思った。モヘアのセーターや革のズボン、ガーゼっぽい生地のTシャツなどを売っているパンクショップは、店の前を通るだけで「怖い」と感じる独特の威圧があった。パンクショップ、怖かったなあ。レコードを買いに西新宿へ行ったり、バンドTシャツを探しに原宿へ行ったりすると、パンクショップが目に入り、中へ入ろうかと迷うのだが怖くてやめる、みたいな経験があった私は、そうした恐怖をシャム69に投影してしまっていたのだった。初めて聴いたシャム69は、若者の鬱屈を楽曲に投影して元気にアジテートする、まっとうなパンクバンドであった。"Adventures of Hersham Boys"(1979)は、当時これを聴いた若者は燃えてしまうだろうなという高揚感があるアルバムで好感を持った。元気いいって大事ですね。

鬱屈晴らす度★★★☆☆

メタリカ

私はメタリカを聴いたことがないまま現在に至っている。だって怖いから! メタル全般を怖いと思い込んでいたのであり、メタリカっていう名前のバンドが出てきたとしても、怖いバンドの親玉と思うのは当然である。音楽好きにとっては基礎教養ともいえるメタリカだが、超有名な "Enter Sandman"(1991)や、空耳アワーで好きだった「バケツリレー 水よこせ」の元ネタ "Blackend"(1988)ぐらいしか知らないままであった。なんでこんなに人気あるのかと、食わず嫌いのまま不思議に思っていたが、黒いジャケットの "Metallica"(1991)はとても聴きやすくカッコいいアルバムだった。アルバム通してカッコいいし、どの曲もタイトで気持ちがいい。おそらく当時流行だったグランジのサウンドに寄せてきている分、私にとってなじみのある楽曲に仕上がっているのだと思う。メタリカ、いい曲多いですね(※2022年の発言ですがご容赦ください)。なんでメタリカを怖いと思っていたのか、いまとなっては自分の不勉強と偏見を恥じるばかりである。何しろメタリカをちゃんと聴けてよかったと思っている私だ。

重低音度★★★★☆

まとめ

私が敬遠してきたミュージシャン、アルバム10選を紹介してみた。いかがだっただろうか。なにしろ偏見はよくない。いまはサブスクで試し聴きしやすくなっているので、曇りなきまなこ(unclouded eyes)で確かめやすいのではないかと思っている。誤解していたミュージシャンの方すいませんでした。そしてジャーマンロックへのいわれなき恐怖もなくなったことをここに報告し、この記事を終わりたいと思う。ありがとうございました。

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