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『ツイスターズ』と、竜巻と共に舞い上がる恋の行方

竜巻を追いかけます(28年ぶり2度目)

『ツイスターズ』は、ヤン・デ・ボン監督『ツイスター』(1996)の続編として製作されたディザスター映画です。「竜巻の出てくる映画である」という以外、前作を引き継いでいるわけではありませんので、予習は特に必要ないかと思われます。豪勢な竜巻の描写がスペクタクルを感じさせ、展開も心地よい快作と呼べるのではないでしょうか。竜巻が発生するには、平らで広く障害物のない土地が条件だそうで、アメリカのように広大な場所でないと起こらないらしく、そのアメリカ映画らしいスケールの大きさにも魅了されました。

主人公は、気象予報の仕事をしているケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。彼女は竜巻の頻発している故郷のオクラホマへ戻り、仲間と調査を開始しますが、そこで出会ったのは、迷惑系ユーチューバーのような派手なふるまいでひときわ目立つタイラー(グレン・パウエル)と、そのクルーでした。タイラーは竜巻を追う様子をライブ配信して人気となり、100万人のYouTube登録者数を持つインフルエンサー。ケイトはタイラーに反発しつつも、同じ竜巻を追うなかで嫌でも顔を合わせることになるのですが……。

この車で竜巻をひたすら追っかけます

スクリューボールコメディとしての竜巻

私がもっとも感心したのは、この映画がスクリューボールコメディの構図を持っていたことです。スクリューボールコメディとは、恋愛ドラマの一種なのですが、男女の恋を成立させないために、ありとあらゆる手段で物語が邪魔をしてくる、という特徴があります。ふたりの距離が縮まりそうになると、トラブルや騒動が持ち上がるのです。ふたりは揃って、襲いかかってくる面倒ごとを片付けなくてはならない。このようにして、絶えず持ち上がる厄介な問題によって、恋の成就がどこまでも遅延されていくのがスクリューボールコメディの語り口です。第一印象は最悪だった男女が、しだいに接近していきますが、この映画ではもちろん竜巻が、ふたりが結ばれることを阻みます。お互いが惹かれ合うほどに、竜巻も強力になっていく。恋はそうかんたんに成就してはならないのです。

大学で気象学を学び、豊富な知識で竜巻に立ち向かう知性派の女性ケイト。これまでの旧来的な映画であれば、そこに対比される男性は「論理はからっきしだが、現場経験と野生の勘だけは人一倍ある、腕っぷしの強い乱暴者」という造形になるはずです。しかし本作に登場する男性タイラーは、相手との距離感を調節したり、周囲に思いやりを持って接したりと紳士的であり、気象学の知識も充分に持ち合わせた(つまりは反知性主義でない)、非常に現代的な男性として描かれるのが印象的でした。もはや、粗野で強引なだけの男性は登場する幕がないのです。そこがよかった。かかる登場人物の造形にも「いまの映画」だという納得感がありました。

こうして、竜巻の脅威と、惹かれ合う男女の恋心が共鳴しながら、強大な竜巻との最終決戦へとなだれ込んでいきます。うなりをあげる竜巻に向かって疾走する車、というのはスリリングな画ですが、怖いものを見ると思わず突進したくなるという矛盾が表現されていて、こんな風に竜巻に向かっていきたくなる心情はよくわかるという気がしました。あらゆるものが上空へ巻き上げられていく様子も、どこか非現実的な恐怖を感じさせるのがみごとです。当初の予想を大きく越えて満足した作品でした。

【私の本も竜巻みたいにパワフルです】

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