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『ゴーストバスターズ アフターライフ』と、継承の物語

親から子へ引き継がれた作品

アイヴァン・ライトマン監督の『ゴーストバスターズ』(1984)から、続編やリブートを重ねて4作目となる『ゴーストバスターズ アフターライフ』。ニューヨークでお化け退治に成功した1984年から37年後となる2021年を舞台に、当時の登場人物の孫となる少女を中心に据えた物語は、1作目の『ゴーストバスターズ』を参照しつつも、単独の作品として成立するみごとなフィルムとなりました。監督は、アイヴァン・ライトマンの息子ジェイソン・ライトマン。『マイレージ・マイライフ』(2009)や『ヤング≒アダルト』(2011)『タリーと私の秘密の時間』(2018)といった秀逸なフィルモグラフィで知られる映画作家です。

本作を見ていて何より感動的だったのは、映画全体から伝わる志の高さ、プライドのようなものです。続編ではありますが、オリジナルに寄りかかるのではなく、何も知らない観客が見ても心に響く作品にしようという気概が、あらゆる場面から伝わってくるようでした。まずは何より撮影が美しい。たとえば冒頭、都会のアパートを追い出された一家が車で田舎道を移動するシーンでは、自然風景をロングショットでとらえたカメラが、住む家を失って移動させられる主人公家族の心細さを描きます。これが何とも美しい。このショットの説得力だけで、監督は真剣に映画を撮っているのだと感じられて胸が高鳴るのです。作品は、コメディ映画的なわかりやすい画づくりだけにこだわらず、物語の中心となる小さな田舎町をていねいに撮っていきます。

ポール・ラッド演じる学校の先生もGOODです

すべての物語が小さな町で完結する

主人公フィービー(マッケナ・グレイス)と、彼女の級友である少年、通称ポッドキャスト(ローガン・キム)。フィービーの兄であるトレバー(フィン・ウルフハード)は、同じアルバイト先で働くラッキー(セレステ・オコナー)に恋心をいだき、彼女もまたお化け退治の冒険に加わります。こうして登場人物の座組みが固まってくると、どこか『グーニーズ』(1985)を思わせるようなメンバー構成になっていくのも楽しいですし、「すべての物語がひとつの小さな町で完結する」という舞台設定もまた、いかにも80年らしい、スピルバーグ/リチャード・ドナー的なイメージを連想させます。たとえば『E.T.』(1982)がそうであるように、子どもにとっては自分の住む町が全世界なのであり、物語はすべてがその町で完結すべきなのです。少女が、家の地下室で祖父の遺したレガシーに触れ、そこから家族の関係性を再構築していく、というモチーフについても、それを撮っているのがジェイソン・ライトマンであることで強い説得力をもたらしています。

劇中、1作目へのオマージュも随所にありますが、決してやりすぎず、知識のない観客へ意味が伝わらないということはありません。それでも、留置所に入れられた少女が「電話をかけたい」と訴え、受話器を持ってきた警察官から「誰に電話するんだ?」(Who you gonna call?)と声をかけられる場面では、やはり感動してしまいました(説明するのも野暮ですが、これはかつてレイ・パーカー・Jrが歌っていたテーマソングの歌詞です)。そこで彼女が電話するのが、ゴーストバスターズの電話番号だったというのも、それだけで感無量といった気持ちにさせられます。主役となるのはあくまで若き少年少女たちであり、過去作へのオマージュを、家族とのつながりや、自分自身とは何者であるかといったより高次のテーマへ引き上げるような脚本の豊かさに、私はただただ感動してしまうのです。

1作目の『ゴーストバスターズ』にはさまざまな幸運が詰まっていました。通行禁止マークに代表されるポップなアートセンス。80年代の勢いのよいアメリカ文化との相性。キャッチーなテーマソングや、コメディタッチで明るくまとめられたプロット。本作はこうした意匠に敬意を払いつつ、少女の成長譚として実に力強いフィルムに昇華している点がすばらしいのです。フレッシュな役者陣によっていきいきと演じられた本作を見ながら、映画全体にみなぎるポジティブさに圧倒されました。こうあってほしい、という希望にしっかりと応えてくれた、本当に嬉しい続編だと感じました。

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