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『ザ・ロストシティ』『ベイビー・ブローカー』

『ザ・ロストシティ』

サンドラ・ブロックとチャニング・テイタムのふたりが主演のコメディ。見る前から「とにかくリラックスして楽しんでくださいね」というタイプの作品だと推測できるアメリカン・コメディである。机に座って文章を作る以外にこれといった特技のない小説家の女性と、ルックスはいいがやたら気の弱いモデル男性が、南の島でひたすらドタバタするという、言ってみればたわいもない映画なのだが、たわいもない映画であることに徹し、ただひたすら観客を楽しませようとした結果、娯楽作品としての強い説得力に到達したところに本作の妙味がある。

この映画を見て人生が変わる人はいないだろうし、製作者も「ポップコーンでもかじりながら、ただ2時間笑ってもらえればいい」という気持ちで作っていることは確かである。それでも、この作品には図らずも、人びとが映画という娯楽に何を求めているのかについての本質を突いてしまっているような部分があるのだ。たとえば、チャニング・テイタムが「田舎町で美青年ともてはやされ、都会に出てはみたけれど、モデルの世界は甘くなかった」という話をする場面など、観客の心をぐっと掴む魅力を持っている。名作を撮ろうなどと大それた考えのないフィルムだからこそできる、不意の一撃があると感じた。

『ベイビー・ブローカー』

是枝監督の新作。赤ちゃんポストに捨てられた子どもを横流しするブローカーと、子どもを捨てた母親を描いている。韓国で撮られており、キャストもみな韓国の俳優だ。テーマはとてもいいし、登場人物のキャラクターもユニークだ。それぞれの人物が抱えた背景がていねいに説明され、そのどれもが感情移入できるものである。何より、子を捨てた母親を演じるイ・ジウンの気の強い顔つきが印象的だし、ブローカーで、自分も母親に捨てられた孤児の青年を演じるカン・ドンウォンとの関係性もいい。途中から参加する子役のイム・スンスも、いかにも是枝映画という感じの自由な演技を見せる。

このように個々の要素はかなりいいのだが、全体として映画のケミストリーにうまくつながっていない、というのが私の印象だった。さまざまな人が集まって擬似家族を作る、というテーマも好きだし、そこで提示される関係性も寛容なだけに、作品としてのよさにうまくつながればもっと好きになれた気がした。特に、刑事役のペ・ドゥナがその擬似家族の一員になる、という展開は、もちろんそうなれば最高だろうけど、現実はなかなかうまく行かないものではないか、と思ってしまった。一方で、いま大きな理想を掲げることの重要性は確実にあり、監督の意志もとてもよく理解できるだけに、そのあたりのバランスの難しさについても考えてしまった作品だった。

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