『アンビュランス』と、犯罪は割に合わない
一緒に銀行を襲おう
マイケル・ベイ新作は、銀行強盗で一発逆転を狙うふたりの男性を描いたアクション映画。ジェイク・ギレンホールとヤーヤ・アブデュル=マーティン二世(2021年の『キャンディマン』で主演)が銀行強盗を演じています。いかにもマイケル・ベイらしいやりすぎな撮影が特徴的で、ドローンを駆使したカメラワーク、「なぜこの場面をこの角度から撮る?」と訊きたくなるようなド派手ショットの連続。途中からは意外な展開やユニークな発想も詰め込まれ、見どころの多い一本でした。
かつてアフガンで兵役に就いていた元軍人のウィル(ヤーヤ・アブデュル=マーティン二世)は、妻と生まれたばかりの息子を愛する心優しい黒人男性。妻はがんの治療が必要で、そのためには手術費用を捻出しなくてはなりませんでしたが、保険は下りず、ウィルは金策のためにダニー(ジェイク・ギレンホール)に会いに行きます。妻の手術費用を貸してほしいと頼んだウィルに対して、ダニーは銀行強盗を持ちかけます。悩むウィルでしたが、妻の命を救うため、強盗の一味と共にトラックへ乗り込み、銀行へと向かうのでした。さっと強盗をして逃げ去るという当初の計画はあっという間に頓挫し、彼らはさっそく絶体絶命の危機に陥ってしまいます。
新しいアイデア
本作のユニークさは、強盗後に救急車を強奪して逃げるふたりが置かれた状況設定にあります。救急車の車内には、救命士のキャム(エイザ・ゴンザレス)と、瀕死の警官がおり、もし警官が死んでしまえば、銀行強盗にくわえて警官殺しの罪まで重なってしまい、主人公はさらに難しい立場に置かれます。何としても警官には生き残ってもらわないといけない。しかし、銃で撃たれて出血の止まらない警官は生死の境にいます。救急車で人を病院へ運ぶあいだの救急処置以外はしたことのない救命士の女性。困り果てた彼女は、テレビ電話で医者とつなぐと、画面越しに傷口を見せて指示をもらいながら、警官の体内から銃弾を取り除く手術を行うのです。この場面は実にスリリングでした。
まず何より「逃走車の中で銃弾の除去手術をする」というアイデアがすばらしく、また方法を医師に教えてもらいながら進めるという緊迫感もいい。この場面には意外なほど新鮮でした。車のスピードを落とさないと安全に手術ができない、しかし後ろからは警察の車が追ってくる、その間にも警官はどんどん出血していく……といった八方塞がりの状況で、それでも警官の命を救おうとする救命士。電話越しに指示を与える医師の真剣さにもグッときますし、映画館の観客が揃って「うまくいってくれ!」と祈ってしまうような展開でした。それにしても犯罪って割に合わないですね。それでも犯罪に手を染めてしまう、ふたりの主人公それぞれの事情が映画的でした。
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