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『DUNE/デューン 砂の惑星』と、フィルムの質感がいかに重要であるか

ストーリーや結末については言及していません。未見の方が読んでも、鑑賞の楽しみを妨げない内容です。

画面のすばらしい質感

かつてデイヴィッド・リンチが監督した『デューン/砂の惑星』(1984)から37年、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によってふたたび映画化された本作。スケールの大きな原作をいかに折りたたんで適切な尺にまとめるかという難題に挑みつつ、作品の持つ世界観を圧巻のビジュアルで提示した快作です。贅沢な映画を見たと、しばらく余韻に浸ってしまいました。映画全体のムードには、同じドゥニ・ヴィルヌーヴの作品『メッセージ』(2016)に感じた壮大さ、驚きを連想させる部分もありました。155分とやや長めの作品ではありますが、美しい画面構成に見とれているうちに時間が経ってしまったという印象です。

やはり映画にとって重要なのは、画面の質感、肌理きめなのだとあらためて感じています。私にとっての『DUNE/デューン 砂の惑星』は、画面の肌理を楽しむ作品でした。やや薄暗い映像、すべての色がくすんでいるようなトーン。砂ぼこりが舞い、どこかぼんやりと沈むような印象を与えるスクリーン上のテクスチャ。映画が「どのようなフィルムの質感を提示するか」について明確なビジョンを持っており、そうした肌理が全編を通して作品のムードに貢献しているのがすばらしい。スクリーンを眺めること、それじたいが快楽なのです。映画の持つ世界観を画面のテクスチャが裏づけており、その美しさが圧倒的に心地よい。何百メートルもある巨大な虫が存在する砂漠といった、特殊なSF世界の設定に没入するために必要なビジュアルの統一感、観客に「このような世界があり得るのだ」と納得させるための周到な準備が、本作成功の要因ではないでしょうか。

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造形の美しさ

劇中に登場するさまざまなアイテム、乗り物のデザインもまた素晴らしいものです。わけても、宇宙船のかたちには魅了されてしまいました。ありきたりでなく、意外性のあるデザインの宇宙船が動くようすを見ているだけで、「いま自分は、細部までアイデアの行き届いた上質のSF作品に触れているのだ」という興奮に胸が高鳴ります。くわえて、砂漠に住む巨大生物サンドワーム、あるいは大型の宇宙船など、画面に大きな物体が現れる場面、その対象物の巨大さを表現するショットはドゥニ・ヴィルヌーヴが得意とするところで、『メッセージ』で地球に到着した宇宙船をヘリコプターからとらえる視点で感じた驚きを想起させました。巨大な動く物体がスクリーン上を占拠することで生じる、めまいのするような感覚、否応のない興奮が本作には満ちています。

小説『DUNE』の映画化に挑んだ映画作家は、リンチのほかにもアレハンドロ・ホドロフスキーがおり、結局は完成しなかった幻の作品については『ホドロフスキーのDUNE』(2013)に詳しいのですが、リンチ、ホドロフスキーは共に、原作の要素をコンパクトに圧縮する作業に苦慮したようです。ドゥニ・ヴィルヌーヴ版は、2部作にすることでその問題の解決を図ったようですが、あらすじを細かく説明するのではなく、象徴的なビジュアルイメージに託して、観客に連想させる手法へ切り替えたことも功を奏しているのではないでしょうか。登場人物どうしの人間ドラマも、少ないせりふの中で十全に表現されていると感じました。非常にハードルの高い『DUNE』の映像化をみごとにクリアしてみせたドゥニ・ヴィルヌーヴには驚きますが、ここまで質の高い作品ができたとなると、後編が物語をどのように展開させていくのか、気になるばかりです。

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