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『フリー・ガイ』と、コメディ映画のちょうどいいセッティング

マッサージ師の施術を受けているような心地よさ

ライアン・レイノルズが主演とプロデュースをつとめるとあり、過激なギャグで笑わせてくるのかと思っていた『フリー・ガイ』ですが、コメディ映画として非常に手がたい、多くの観客に伝わる一般性のある笑いになっていて、そのセッティングのちょうどよさに感動しました。決して過度に尖りすぎず、しかし一定のエッジは効いている、そして明るく元気の出るストーリーテリング。まるで上手なマッサージ師の施術を受けているような心地よさがある映画です。当然ながらレーティングありきの構成だと思うのですが、R15の『デッドプール』(2016)と比較しても、本作は全年齢が制限なく鑑賞できるGであり、Gならこう作る、というアイデアが込められているのが見どころではないでしょうか。監督に『ストレンジャー・シングス』(2016~)のプロデューサー等で知られるショーン・レヴィ。

主人公ガイ(ライアン・レイノルズ)は、ゲーム内の背景キャラとして日々をすごしています。彼はコンピュータープログラムとして、日々をゲーム世界の中で生きていました。ゲーム内での職業は銀行員ですが、ゲーム内の銀行は毎日強盗にあうため、彼はそのたびに床へ伏せてその場をやりすごすのがルーティンです。同じ毎日の繰り返しに何の疑問を抱くこともなかったガイは、ゲーム世界の生活に満足しながら暮らしています。ところがある日、ミステリアスな女性モロトフ・ガール(ジョディ・カマー)とすれ違い、彼女が運命の女性であると直感します。彼はその瞬間から背景キャラとしての生活を捨て、運命の女性に近づくために動き始めます。ゲーム世界におけるバグ現象となってしまった主人公。彼を取り除くため、オンラインゲーム運営会社の管理者が動き出しました。

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すべてが「ちょうどいい」

なにしろすべてが「ちょうどいい」のです。主人公は柔和な性格で、敵と戦う状況でもつねに遠慮ぎみで、相手は悪役なのにもかかわらず、攻撃が強く当たりすぎた後に「あっ、ごめんなさい」と謝るような性格の持ち主です。このコメディ映画向きの気弱な性格設定をはじめ、誰にでもとっつきやすいソフトなバランス調整が効いています。主人公のリアクション、会話、表情や動き。コメディの手練れであるライアン・レイノルズの演技は本当に楽しく、それだけで十分に間が持ってしまうのですが、ストーリーじたいのおおらかさ、明るさもまたよくできていて、そのバランスのよさに感心するほかありません。主人公の親友役バディ(リル・レル・ハウリー)とのやりとりの軽妙さも、見ていて感心してしまうほど。

バーチャルとリアルといったテーマが中心かと思いきや、ストーリー的にはむしろ『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』(2010)に近い「普通の人びと」にまつわる物語である点も実にいい。またゲームを通じて、そのプログラマーであった現実世界の男女ふたりが心を重ね合っていく、という構造もポジティブで美しく、誰もが納得するラストへ向かってストーリーを盛り上げます。『フリー・ガイ』のような映画は、本当に映画表現を愛し、できるだけ敷居が低く親しみやすい作品を撮ろうという意思がなければ完成しないものだと思うのですが、より映画というジャンルが好きになればなるほど、この「ちょうどよさ」、すなわち映画愛の詰まったフィルムに胸が打たれるのではないかと思うのです。

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