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『ガンズ・アキンボ』と、手に銃をくくりつけられるとひとりでズボンが履けない

ワンアイデア、98分

あらすじ
インターネットで流行する殺人サイト「スキズム」。ゲームの参加者どうしに殺し合いをさせて視聴者数を稼ぐ闇サイトに、人びとは熱中していた。ある日「スキズム」のコメント欄に挑発的なコメントを書き込んだ主人公マイルズ(ダニエル・ラドクリフ)は、サイト主催者に自宅を襲撃され、ボルトで手に銃をくくりつけられてしまう。両手に銃を固定され、外せなくなったマイルズ。さっそく「スキズム」のあらたなゲームが開始され、ゲームの女性参加者ニックス(サマラ・ウィーヴィング)と戦わされる羽目になったマイルズだったが……。

映画『ガンズ・アキンボ』は、「目が覚めたら、両手にボルトで銃をくくりつけられていた」というシチュエーションを思いついたところから、すべてが出発したように見えます。この奇抜な設定からどう話を転がすかを起点として、シナリオが書かれたのではないか。98分のタイトな尺も、ワンアイデアで突き進む映画という印象を強めています。両手に銃がくくりつけられた不自由な状態(以降これを「アキンボ」と呼びます)で、人はどう戦うことができるか。劇中で語られる「倫理観を失って刺激のみを求める大衆の残酷さ」だとか「インターネットの誹謗中傷」などは、わりと取ってつけた感があるのですが、そうした部分を追求する映画ではないので別にいいと思います。

急に始まるアキンボあるある

アキンボは不便です。アキンボだと指が銃に固定されて動かせないため、ズボンが履けない。靴のひもも結べないので、バスローブと部屋用スリッパで外に出るしかない。ドアノブがつかめなくて不便だし、外出をした際にアキンボを他人に見られても困るので、ずっとバスローブのポケットに手を隠して歩かなくてはなりません。また食事もままならない。こうして、急にディテールが細かくなるのは実に私好みでした。いわば「アキンボあるある」が始まるわけですね。ここはすごくよかった。監督や脚本家がやりたかったのはこれか、と思いました。「誰も経験したことのない状況に関するあるある」という意味では、伊集院光さんのラジオでやっていた「ないないあるある」というコーナー(たとえば「乗ったタクシーの運転手が青鬼だったときのあるある」「背中からワシみたいな羽が生えてきたときのあるある」といったお題で投稿を募集する)を連想しました。

異様に現実離れした事態(手をアキンボにされる)と、日常的におこなっていることとの対比(アキンボだとトイレで用を足すのがむずかしい)に時間を割いていたのは、コメディ的な視点もあっておもしろかった。劇中、主人公はスマホを使って連絡を取る必要があるのですが、やはりこれもアキンボだとうまくいかない。銃口ではスマホ画面が反応しないんですね。そのため口をつかってスマホをタップするのですが、物語の後半になるにつれて、口でスマホを扱うのがちょっとうまくなっているのがよかった。慣れてコツをつかんだのだな、と思いました。これもまた「アキンボあるある」的に笑えるディテールでした。

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一応それなりの展開はつけてあります

登場する闇サイトの主催者は、かなりわかりやすく「悪者」というルックスで現実味が薄い。劇中、なぜあれほどの協力者が集まり、みな命を張ってまで闇サイト運営を進めていこうとするのかの合理的な説明はされていなかったのですが、そもそも非現実的なストーリーが持つリアリティラインに沿った悪役の設定なので、特に気にはなりませんでした。最終的に主人公は反撃に転じますが、そこもワンアイデアの映画らしくタイトに収まっています。シンプルでわかりやすく、好ましいと思いました。「一応それなりの展開をつけて終わらせよう」というサービス精神が感じられます。

とはいえ個人的にグッとくるのは、落ち込んでいる女性を見かけた主人公が「ハァーイ」と間の抜けた声をかけるシーンのばかばかしさだとか、ソーセージを食べようとして何回も地面に落とす場面のもどかしさだったりします。また「部屋の中で銃を撃ったら、メチャクチャ音が大きくて耳が痛くなる」というくだりもよかった。おそらく製作者は、もっと「アキンボあるある」で押したかったのではという気がする。娯楽作品としてのバランスを取るならば「アキンボあるある」はやりすぎない方がいいのですが、私はもう少し見てみたかった気がしますね。「アキンボで実家に帰ったときのあるある」なんか楽しそうだし、「アキンボでウーバーイーツを受け取るときのあるある」「自分以外のアキンボの人と初めて出会ったときのあるある」なども見てみたかった。それはもう娯楽作じゃなくて実験映画になってしまいますが。

What is 'Akimbo' by the way?

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なお余談になりますが、聞き慣れない英単語「Akimbo」とは、この写真に示された「腰に手を当てたポーズ」を指すそうです。辞書には with hands on the hips and elbows turned outwards と書かれていました。知らなかった。

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