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『落下の解剖学』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

『落下の解剖学』

物語の中心となるのは、人里離れた山奥で暮らす夫婦とその小さな息子。ある日、夫が高所から転落して死亡するのですが、その死には不審な部分があり、妻が犯人として疑われるというあらすじの裁判映画です。内容が本当に重苦しく、人間関係の複雑さが静かなタッチで描写されていきます。そのヘヴィーな展開に思わず、映画を見ながら「なぜ私は、お金を払ってこんな苦しさや不安を感じなくてはならないのか」と悶絶してしまいました。私は歳を取るごとに、人が言い争う場面を見るのが本当にしんどくなってきています。映画のレビューを書くお仕事もしていますが、向いていないのではと不安になってきます。

それにしたって、人と人が関わり合うことには、よろこびや充実と同じくらいに、お互いを破壊してしまうほどのみじめさや怒り、理不尽さが存在するのだなと感じました。劇中に登場する夫はどうにも身勝手な言動が多くて、なんだか情けなくなってきますし、結婚生活って難しいナアと、子どもみたいな感想が出てきてしまいます。とはいえ結婚したことないんですけどね、私。こういう成熟した映画を見ると、いかに私自身が幼稚な人間かがわかって自戒になるので、がまんしてでも見ておくべきだと感じました。また、舞台となる家にいる飼い犬の演技が驚くべき精緻さで、この犬はななんだろうと印象に残りました。アカデミー賞に「ベスト動物賞」があったら、この犬にあげたいです。

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

タイカ・ワイティティ監督のコメディ。実話ですが、細かい展開についてはあきらかに脚色されており、いかにも監督らしい陽気なコメディに仕上がっています。いいですね。あらすじとしては、気の短い性格からアメリカでのサッカーコーチの職を失った主人公トーマス(マイケル・ファスベンダー)が、米領サモアの弱小チーム監督となり、異文化交流を繰り広げるという内容。白人監督が米領サモアへやってくる映画ですが、冒頭から「おい、白人の救世主(White Savior)が俺たちにサッカーを教えるってか?」とツッコミを入れるなど、視点の公平さが魅力です。映画はむしろ主人公の反省と成長がフォーカスされる構成になっていました。

全編くだらないギャグの連続で、なすすべなく腰くだけにさせられるのがワイティティ風味で実にいいですね。わけても、トンガチームが相手を威嚇する「シャーッ!」というかけ声や、それに対抗する米領サモアチームの「チュッチュッ」という奇声など、幼稚園児のけんかという感じであまりにもくだらなく、こんな悪ふざけを本気で撮っているワイティティってやつは何者だと感動してしまいました。また、各所でなぜかムダに引用される『ベスト・キッド』(1984)ネタなど、あらすじとも別に関係ないし、ただやりたいだけじゃんという感じがたまりません。それでも最終的には、米領サモアの人びとから多くの学びを得た主人公が、少しだけまともな人間になって終わるという展開に、嬉しい気持ちにさせられるのでした。

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