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『グランツーリスモ』と、ゲーマーの逆襲

ゲーマーは本当の運転も上手いのか?

本作を、プレイステーションの人気ゲームシリーズ「グランツーリスモ」の映画化と呼んでいいのでしょうか。これは実際に起こったできごとなのだそうですが、レーシングゲーム「グランツーリスモ」をオンラインでプレイする人たちから、特に好成績をあげた参加者に声をかけ、実際のレーシングカーに乗せて運転させたらどうなるか? を企画し、日産が協賛してゲーマーをレーサーにするという試みがありました。映画『グランツーリスモ』は、こうしたきっかけでゲーマーからレーサーへと転身したイギリス人青年を主人公にすえたスポーツフィルムです。さて、ゲームオタクはホンモノの自動車を運転できるのでしょうか。

監督は、傑作『第9地区』(2009)を手がけたニール・ブロムカンプ。本作のメインストーリーである「大学をドロップアウトし、自宅にこもって何千時間もゲームをプレイするしかなかった青年が、ついに本当のレーシングカーに乗って試合に出る」という展開に、とても向いている人選だと思いました。まさにオタクの逆襲。「虐げられた側の反撃」というテーマはいかにもニール・ブロムカンプ的です。プレイステーションは今後、自社ゲームのプロモーションの一環として映画化を進めていく考えがあり、すでに『アンチャーテッド』(2022)も劇場公開されています。こうした事情から本作は、冒頭に描かれるゲーム制作会社の作業シーン(「本当の車からエンジン音を録音してます」的な場面)含め、「プレイステーションのゲームはすごいぞ」という宣伝の要素が大きく、ニール・ブロムカンプにとっては「お仕事監督業」としての側面が強いのですが、熱いスポ根映画としてきっちりと仕上げてきた手腕に感心しました。

熱い師弟の絆

ゲーマーとしての自分を保持する

なにより「オタクは部屋でゲームしてろ」「現実はリセットできないんだぞ」などともっともらしいことを言ってくる外野と、あくまでゲーマーである自分を貫いて成長していく主人公、という対比が痛快なのです。実際の車でレース場を走っているとき、主人公にはそれが「ゲームの画面」のように見えてきて、「このコースを辿れば勝てる」という勝ち筋が浮かび上がってきます。主人公はゲーマーであることを捨ててレーサーになるのではなく、ゲーマーとしての自分を保持しつつ、レースに勝っていく。ここが重要なのです。インドア人間、マニア、オタク族が、それまでに培った知識と鍛錬で現実のレースを勝利していく様子は、見ているだけで気分がすっきりとします。これは個人的な印象ですが、本作の主人公は実際のレーサーになったとしても、「グランツーリスモ」の新シリーズが発売されたら、買ってプレイしているのではないかと感じました。

自宅でゲームをする青年が、想像のなかでレース場を走っている様子が描かれたかと思えば、レース場で走る青年が、かつて自宅でコントローラーを握っていたゲーム画面を思い出している。本物のレースを夢見るゲーマーでありつつ、実際のレースのさなかに「ゲームをしていた自分」に戻っていく。この対比を、CGをうまく使った表現で見せていく場面にしびれました。普段レーシングを見たことのない私でも理解できるような、2台の車の駆け引きをわかりやすく提示していくシーンや、大きな劇場ならではのエンジン音の迫力なども印象的でした。「デジタルとアナログ」のモチーフも、コーチ役の男性が使っているカセットテープのウォークマンが、MP3プレイヤーに取って代わるといった見せ方でスマートに提示されていました。eスポーツも盛り上がってきている昨今、現代的なテーマで作られた映画だと感じた1本でした。

【運転免許は持っていませんが、スキンケアの免許皆伝を目指してます】

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