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キングス・オブ・コンビニエンス、12年ぶりのアルバムが本当に出るらしい

ついにリリースされるんです

ノルウェーのアコースティック・デュオ、キングス・オブ・コンビニエンス4枚目のアルバムが間もなく(2021年6月18日)リリースされる。2009年の『Declaration of Dependence』以来、12年ぶりのアルバムとなる『Peace or Love』。この12年、これまでに出した3枚のアルバムを交互に聴きながら待ち続けてきた私である*1。それにしても長かった。とはいえ、内容への不安はいっさいない。ニューアルバムから先行で聴ける2曲の楽曲、わけても「Rocky Trail」は、彼らの音楽がみずみずしさを失っていないと感じさせるすばらしいクオリティだ。安心してアルバムのリリースを待つことができる。この新譜が駄作であるわけがないし、彼らは一度たりとも失望する作品をリリースしたことなどないのだから。

2009年以降、ふたりのメンバー(アイリック・ボー、アーランド・オイエ)は決して音楽活動を止めていたわけではなく、ソロ活動や別名義でのリリースを行っており、来日もしていた。とはいえKOCのサウンドはやはり特別で、ふたりが揃ったときにしか出せないケミストリーに満ちているのだ。12年のあいだずっと、新しいアルバムが聴きたいと渇望し、思い出したようにグループ名で検索し、ときおりYouTubeにアップロードされるライブ映像を探しては何度も繰りかえして見直し、サブスクリプションに新しい曲が加わっていないかを確認しつつ待っていたが、どこかで「もうKOCは活動しないのでは」というあきらめもあった。

声が小さいのがいちばんラウドなんだ

思えば、2001年にリリースされたファースト・アルバムのタイトル「Quiet is the New Loud」ほど、彼らの姿勢をよく示すフレーズはないだろう。アコースティック・ギター2本で奏でられるミニマムで静かな音楽こそが、新しいラウド・ミュージックなのだといわんばかりのアルバムタイトルである。声の小さな者が音楽を演奏してもいい、だって声が小さいのがいちばんラウドなんだから、と彼らは宣言する。ささやくように歌う彼らの姿は、何とも痛快ではないか。いままでの人生で「もっと声を張って」「ハキハキと話して」と叱られたことのあるすべての人に捧げられたような、小さな声の者のための音楽がKOCである。マッチョさや強引さとは無縁の、繊細なメロディと豊かなリズムに満ちたKOCのディスコグラフィがここから始まった。

彼らはその演奏形態から「フォーク・デュオ」と呼ばれることもあるが、個人的にはあまり的確な表現ではないと思う。たしかに彼らはギター2本のみで演奏することがほとんどだが、KOCの楽曲構造や跳ねるようなリズム感は、ヒップホップやハウス、ネオソウルを通過していなければ作れないグルーヴを持つサウンドであり、聴き手は彼らの曲を聴きながら、(実際には鳴っていない)心地よいリズムセクション、ブレイクビーツの余韻を感じ取っている。ここがKOCの決定的な新しさではないか。ドラムやベースを使用しないダンスミュージックとして聴けるからこそ、彼らの楽曲はすばらしいのである。ここから、KOCのアルバム3枚を、1アルバムにつき2曲ずつの楽曲を挙げながら解説したい。サブスクリプションでも聴くことができるので、ぜひ試してみてほしい。

『Quiet is the New Loud』(2001)

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すでに完成されたスタイルを持って登場したファースト・アルバム。アコースティックギター2本が絡み合いながら、はっとするほど美しいメロディが流れ出すという構造が、この時点でできあがっている。「The girl from back then」のサビ前で「トントントン」と小さく鳴る足踏みのような音、ラストに出てくる単音のピアノ。この音の小ささ、やわらかさがすばらしく、聴いているだけでうっとりしてしまう。「Summer on the Westhill」の静かなメロディ、曲の中盤から入ってくる弦楽器も本当に美しい。

『Riot on an Empty Street』(2004)

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美しい水彩画のようだったファーストと比較して、セカンドアルバムは色とりどりの油絵のようなエネルギーを持った作品である。いきいきとした曲が続くが、わけてもゲストボーカルの Feist をフィーチャーした「Know How」は本当にすばらしい。ライブ映像があるので見てほしい。弾むようなグルーヴがあり、観客がこの曲のリズムに身を任せている会場の雰囲気が見て取れると思う。途中から Feist が登場する場面もユーモラスで楽しい。「I’d rather dance with you」はドラム、ベース、ピアノ、弦楽器と音数が多く、メロディのよさとリズムの心地よさがポップに表現された楽曲。ボーカルの、力が抜けた感覚も好きだ。『リトル・ダンサー』(2000)風の設定で撮られたビデオも実に効果的である。

『Declaration of Dependence』(2009)

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個人的にはいちばん好きで、もっともよく聴いたアルバム。シンプルなギター2本の演奏が多く、ファーストアルバムの方向性に戻りながら、聴いているとうっとりしてしまうほどの極上メロディが連続する。12年聴き続けているがまったく飽きることなく、何度聴いてもフレッシュに響く。なぜこのような途方もないアルバムが作れるのか、そしてどうして、こんな傑作を世に放っておきながら12年も沈黙してしまうのか。ヒット曲「Boat Behind」の切なくもロマンチックな雰囲気はすばらしく、サビで優しく鳴るバイオリンの音色にもときめいてしまう。そして本アルバムでもっとも驚くべき楽曲は「Freedom and It’s Owner」であり、何度聴いても圧倒されてしまう。私はKOCの全楽曲でこの曲がいちばん好きなのだが、ここまで美しいメロディ、ギターのアルペジオ、多彩なハーモニーがどうして構築できるのかと驚いてしまった。

私ほど4枚目のアルバムのリリースを待ち望んでいたファンはいないだろうと、勝手に自負しながら6月18日を待っている。何が嬉しいといって、いままで3枚しかなかったアルバムが4枚になり、4枚でローテーションを組んで聴くことができることであって、この新しいアルバムさえあれば次の10年は乗り切れてしまうような気がしているのだ。

*1  なおデビュー前に、米インディーレーベル kindercore からリリースした作品が1枚あるが、この記事では割愛した。同音源は、探せば比較的容易に見つけることができる。

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