見出し画像

全テ嘘ダラケ #2 「天然はちみつ100%」

そのお店があったことに、今日初めて気がついた。
展示されている巣箱の中で、みつばちが穴を出たり入ったり慌ただしくしている。
試食でいただいた一口のはちみつは、甘さの中に少ししょっぱさもあるようだった。
みつばちさん、せっかく一生懸命ためた美味しい蜜、人間がもらっちゃってごめんね。せめて残さず食べるからね。
わたし、右のはちみつを奪われたら、左のはちみつを差し出すみたいな、余裕のある、
そんな人間になりたいなぁ。
わたしははちみつの瓶をふたつ握りしめ、上りのエレベーターに乗り込んだ。



other side
ランチの帰り道、新しくオープンした店の看板につまづいた。
よく言ったものだ。「天然は緻密100%」とな。その通り。天然ちゃんなんてものは、緻密100%の人工物だ。
「天然って言われるんですぅ〜」だから何だというのだ。その緻密に作られた天然の皮をほんのちょっとだけずらして一番恥ずかしい状態にしてやろうか。
せめて「天然って言われるんです、けどこれは作り物を被っているので天然ではないんですぅ〜」って言ってくれ。そういうヤツの緻密15%なところ、むしろ天然ちゃんよりずっと天然で好感持てるわ。
看板を元の位置に戻し、仕切り直して駆け足でエレベーターに向かったが、目の前で扉が閉まってしまった。
わたしは舌打ちした。誰か、誰かわたしに甘いものを持ってきてくれ。




おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?