修理メモ20210207

ウクライナ製の中判カメラレンズ
フォーカスの無限遠まで回らなくなったという。

ウチで販売して、ユーザーが気に入ってハードに使い込んでいたから、ロシア製のウイークポイントである構造の緩さが出たか、何らかの原因でヘリコイドが変形したのかと想像。

現物を確認すると、最短撮影距離はストッパーに当たっている硬さを感じる。無限遠は3mほどで止まるがやはり何かストッパーに当たっているような感触。ヘリコイドの変形ではなさそうだ。

マウントアダプターを介してデジタル一眼で使用しているためマウントアダプターを外そうとするが外れない。キヤノンFDとは逆のカメラ側に回す部分があるスピゴットタイプのレンズマウントだから回して解除するのだがどんなに回そうとしてもガッチリ固定されてロック解除できない。
マウントの円周部分の隙間が均一でないように見えたのでショックが加わったなどの外的な要因で緩まなくなったようにも見える。

旧ロシア製のレンズや安価な中国製のレンズの中にはレンズ本体のレンズマウントブロックとヘリコイドブロックの連結の設計が柔いものが多い。
日本製などではヘリコイド操作のトルクによって反力で緩まないようにフランジ固定ネジは4本以上それなりの太さとタップ深さに強度設計されていることが殆どだが、ロシア製のこのレンズはM1.7程のネジ3本、それもマウント部品の厚みのために長い。タップ深さもそれほどでないので緩みやすい。あまり力を加えると変形してしまう。代わりのネジ部品を探すのも当時の加工精度と合わないこともありうるし面倒だからそこは傷めたくない。
バイスなどで加えて力業で回してレンズを壊すのも困るのでユーザーに了承を取ってマウントアダプターを壊して外すことにした。マウントアダプターを外さないとレンズ自体の不具合を修理できない。

マウントアダプターは中国製で割と有名なメーカー製だが比較的安価な製品なのでハードな使用を検証しているとも思えない。そのへんは安い分ユーザーは覚悟して丁寧に使用すべきだ。
レンズマウントのフランジを傷つけないようにマウントアダプターのリングをアルミ切断用の刃を付けてた金鋸で円周上にカットしていく。
90度くらいカットすればマウント圧着が緩んで外れるかと思っていたが一向に外れない。180度カットしてもやっと1mmくらい剥がれ始めた感じでまだ無理。結局、全周カットしてやっと外すことができた。マウントアダプターは思いのほか堅牢で2時間以上掛かってマウントアダプターとレンズを分離。

レンズマウント側を分解しれ検証。
ヘリコイドはスムーズだがグリスが劣化し始めている。
やはり最短撮影距離でストッパーに当たる感じで無限遠手前でストッパーのような硬いものに当たっている感じ。距離指標自体のずれなども疑ったが、もちろん違う。そもそもストッパーはどこに付いているのかと想像すれば、フォーカスリング内側かヘリコイド外側のどこかだろう。マウント側から確認することができない。

絞り開閉バネが伸びている。このバネもやたら巻き数が多く線径が細い反力の弱いもので、部品的には巻き数が多ければ部材に捩じり応力がかからない分長持ちするが流石に長すぎる。反力も足りていないので、経年でちょっと絞り羽根周りの機構摩擦が増えると動作が不完全になる。
この個体もそのせいで絞り羽根が全閉設定で自動開放動作が不安定。バネを切って架け替えたがいくらかよくなったものの完全には戻らない。
ユーザーはデジタル一眼ニーズのみの利用なので撮影に支障がないのでこのままにする。

レンズ前玉側から分解。
プラスチックの銘板を外し、ねじ止めのフードを外す。
マウント側のネジも緩んでいたがフード取り付けネジも緩んでいる。
ヘリコイドを回しながら観察していると無限遠手前で止まる位置に何かある。小ネジが填り込んでいる。ならばこのネジはどこから外れたものだろう?と観察すると、フォーカスリングをアウターヘリコイドに固定するネジの一本だった。ハマったネジを細い工具などを使って取り出し、元の位置に閉めこむ。他のネジ1本以外は緩んでいたので締める。フランジなのでもちろん対角上に均一に締めこむ。
新しいヘリコイドグリスをちょっと足してヘリコイドを潤滑させる。はみ出た余計なグリスはトラブル防止のために拭きとる。部品のクリーニングをして組み直す。

同一のマウントアダプターを装着して無限遠までスムーズにフォーカスできることを確認。
修理完了。

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