滅日の女神

これは、人類文明が滅びてちょっと過ぎた頃のお話です。
文明が滅びてエネルギーは枯渇して医療もインフラも全てが壊れたので人類の多くは病気や飢餓で死んでしまいました。
その中で生き残った人々は小さなコミューンを築いて文明の後に成長していく植物と野生生物を少しずつ受け入れて生きています。
殆ど裸族の彼らの皮膚は、文明に守られていた頃と比べ(文明的な価値では)「汚く」「薄汚れて」薄黒い肌に苔が生えたような出立ちになっていました。文明に守られていた頃より何か身体は重く調子がよくない気がしました。
実際、出生率も低く、平均寿命も30代後半くらいでした。

そんなコミューン生活の中どこからともなく、ひとりの「綺麗な女性」が現れました。
それは文明時代ではグラビアモデルとも思える白い輝く肌を持ち、薄汚れた時代では眩しく輝いていました。
そしてその女性は見た目は20代半ばに見えますが40年以上も生きていると言います。
コミューンの男たちは、いや男だけでなく女たちもその女性を求め次世代にその美しさを取り戻そうと近づきました。
しかし、現在の人々がその女性に触れた途端に体調を崩して殆ど皆死んでしまいます。
理由は、文明が滅びて生き残った人の身体は、小さな森のような多数の生命体が集まった生態系で築かれていて、そのバランスで命を繋いでいたのです。しかし、その輝く女性に触れた途端にそれが崩れて命の危機に瀕してしまうのでした。
それでも文明の記憶とそれに今でも憧れ、毒された人々の生存戦略と欲望は次々と輝く女性に近づき、散って行きました。

果たしてこの女性の正体はなんなのでしょう?
近づくものを拒まず優しく微笑み受け入れて、やがてそれが冷たい骸に変わったとしても静かな祈りで見送るのでした。
そして子孫を宿すことないようです。
恐れを抱けば悪魔に、憧れを抱けば女神に見える美しい存在は、いったいどこからなんのために来たのでしょう。

文明の残像に憧れた人たちはやがて静かに滅亡していきました。
誰も気づかないことですが、人間はそれまでの人とは違う存在に変わっていました。
そして地球という生命球は完璧な形を取り戻したのです。

石井飛鳥写真集『花と絶嶺』の設定をお聞きして追想したプロット
2024.1.2校了

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