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【ONE PIECEバウンティラッシュ】「敵を無視してお宝を奪取できる」特性とゲームバランスの崩壊

 ONE PIECEバウンティラッシュというスマホゲームはご存知でしょうか?大人気漫画ONE PIECEに登場するキャラクターを使い、4人vs4人のチーム戦でステージに散らばる最大5つの陣地「お宝エリア」を奪い合うアクションゲームです。

 制限時間3分以内に、より多くのお宝エリアを確保できたチームが勝利します。単純なバトルゲームのように、ただ敵を力まかせに倒しまくれば勝てるわけではなく、いかに4人で連携しながら敵から効率よく陣地を奪い、守り切れるかを考える、高度な状況判断と立ち回り能力が勝利には不可欠なゲームです。この「戦略を立てながら陣地を奪い合う」点がバウンティラッシュの最大の魅力といって差し支えないでしょう。

 お宝エリアを敵から奪うには、原則として陣地にいる敵をエリアの外に追い出す必要があります。必殺技で場外へ吹き飛ばすのもよし、タイマンで正面から倒すのもよし、あるいは最初から敵のいないエリアへ隠密行動して奪い去る(ゲーム用語で裏取りと呼びます)のもよし。お宝エリアを奪い合うために攻守双方が知略を尽くして立ち回り工夫をこらすのが醍醐味です。

 ところが、最近新たに登場した「敵を無視してお宝を奪取できる」(以下、敵無視奪取)特性は、このゲームの魅力を大きく損なう結果に繋がりました。文字通りお宝エリアに敵がいてもお宝を奪い取れる特性なのですが、これの何が問題なのか。

 まず、前提知識として踏まえたいのは、お宝の争奪という点においてこのゲームは基本的に奪う側が有利であるということです。敵無視奪取はこの優位性に拍車をかけて、試合中にお宝エリアを守る意味を著しく低くしました。

 敵からお宝エリアを奪うには、エリアに設定された「お宝ゲージ」(エリアのヒットポイント)を減らして0にしなければなりません。なので、お宝を守る側はあらかじめ奪われる前にゲージをより多く回復させるわけですが、この回復スピードと、ゲージを減らす奪取スピードは後者の方が速く設定されています。
 
 そもそもキャラクターには3つの役職があり、敵を倒すことに特化したアタッカー、お宝を守ることに特化したディフェンダー、お宝を奪うことに特化したゲッターがあります。お宝を回復するのは基本ディフェンダーが、奪取するのは基本ゲッターがやりますのでこの2つの役職に着目してお互いの回復、奪取のスピードを見ると、ディフェンダーはお宝ゲージを100%回復するのに約12秒、対してゲッターはお宝ゲージを100%減らして奪取するのに約10秒かかります。この2秒の差は思いの外大きいです。参考までに2つの検証動画を添付します。

 実際の試合では100%のお宝を1から奪い出すとか、奪いたてのお宝を最初から回復する場面はあまりなく、たいていは敵と戦いながら、敵をエリアから追い出したすきに少しずつ回復と奪取をやり合います。具体的には各キャラの性能や試合状況によって攻守どちらが有利になるかは変わりますが、一番根本的なゲーム設定として、このゲームはお宝を奪う側が有利である点は強調しておきます。

 では、この状態で、敵無視奪取できるキャラクター(ゲッター)が出ると、どうなるか?元々奪取速度は回復速度より速いにもかかわらず、敵をエリアから出さずとも奪取を続行できてしまうのです。これでは「せっかくお宝ゲージを回復しても、どうせ奪われてしまうだけだ」となり、戦略の立てようがありません。いっそのこと奪取されるのを前提として立ち回りを考える必要さえあるため、それは「自分のお宝エリア内」なら有利に立ち回れる特性が多いディフェンダーという一つの役職自体の価値を大きく損なうことになります。

 敵無視奪取は最初、ディフェンダーのビッグマムが必殺技使用時に一時的にゲッターへとスタイルチェンジできる際の特性として設けられました。しかしビッグマムはお宝を奪取する最中に攻撃されるとひるんで行為が中断するため、ゲームバランスを崩壊させる程の脅威とはなりませんでした。ビッグマムはディフェンダーの時に敵を無視してお宝ゲージを回復できるため、多くのゲッターは不利を強いられ、彼女がゲーム環境を支配した時期もありました。しかし根本的に回復速度より奪取速度は速いゲームなので、ゲッターが更にアイテムを活用して奪取速度をUPしたり、また、強力なアタッカーでディフェンダーをKOしてしまう戦法もある程度は通用しました。

 しかし、ビッグマムの次に出た「キッド&ロー」(キドロ)は最初から奪取に優れたゲッターとして敵無視奪取を有していました。ゲッターのレアキャラは奪取中にひるまない特性を多く持ちますがキドロも例外ではなく、敵無視回復できるビッグマムを相手に難なく奪取できてしまう、ましてやビッグマム以外のディフェンダーなど相手にならないという有様でした。このキドロを少しでも抑え込むために強力なアタッカーやディフェンダーのキャラが何人か出てきましたが、やはりこのゲームは根幹がゲッター有利であるため、キドロが廃れることはありません。

 この状況でありながら、運営は何を考えたのか、もう一人、敵無視奪取できるゲッターを出してしまいます。それがロジャーです。ロジャーは奪取中に攻撃されると3回だけ敵に行動不能の状態異常(気絶)を付与します。こうなると敵はロジャーの奪取を中断させる手段がほぼなくなり(できるとしても限られるため)ロジャーに取られるのを待つクソゲーと化してしまいました。

 幸いにもロジャーは奪取後は比較的倒しやすいため、奪い返すこと自体は困難ではありません。が、更に奪われることが必定なので「ロジャーにとってもロジャーの相手にとっても、一度奪ったお宝を守る戦略」がとても立てづらく、ロジャーに取られる→奪い返す→また取られるの単調な作業の繰り返しになりがちなわけです。YouTubeのコメント欄などで昨今のバウンティが「おもんない」(面白くない)と酷評されるのは、この敵無視奪取によるゲームバランス崩壊が原因です。

 ゲームバランスを再建するには、キドロとロジャーを「条件付きでしか敵無視奪取できない」ように下方修正するのが最短の道です。実際、最近になって過去キャラが上方修正された際、キドロやロジャーと同じレアリティのキャラにも敵無視奪取は付与されましたが、体力が一定以上ないと可能ではない条件があります。しかし商業的な理由から、キャラの下方修正は極めて困難でしょう。キャラ獲得や育成のために何万円も課金した多数のユーザー感情を逆撫でることに繋がりかねませんし、バウンティでキャラの下方修正は一度もなかったはずです。

 とすれば、キドロやロジャーを封じ込めるだけの更に強力な新キャラを出すしかありません。最もわかりやすいのは、敵無視奪取を不可能にする特性を出すことです。例えば「自分がお宝エリア内にいるとき、敵が持つ「敵を無視してお宝を奪取できる」特性を無効化する」という風に。しかしこのような特定キャラを狙い撃ちするような特性は、その対抗キャラをはびこらせることに繋がりますから、実質キドロとロジャーに下方修正を実施するようなものです。私としてはそれくらいすべきとは思いますが、既に時間と資金と労力をかけて楽しんでいる保有ユーザーにとっては納得できないでしょう。となるともう少し間接的に「敵無視に限らず奪取行為全般を一時的に不可とする」状態異常を付与できるキャラを出すか、あるいはゲッターは他の役職よりも体力回復特性に優れているので、体力の最大値を減らす(既存キャラならシャンクスやロビン)か、体力回復不可能の状態異常を付与する(カイドウ)対抗馬を出す手もあります。ただいずれにせよ無条件で敵無視奪取できるゲッターは非常に強力であり、これを凌駕する性能を出すことは際限ないインフレーションを引き起こす危うさがあります。

 バウンティラッシュの運営は、ゲームバランスの環境に配慮しているのかが不透明です。口では競技性が云々と語りますが、もっと赤裸々に、ザクトレ環境(純粋に奪取の回数を競うゲーム内の特殊ルールによるバトル「ザクザクトレジャー」が、ゲーム全体で常態化した、ロジャーがひたすらお宝を取るだけの環境を揶揄したスラング)の問題点を指摘し、真剣に苦言を呈するユーザーが少しずつ増えることが、運営の姿勢を改めるきっかけになるかもしれません。そう期待しつつ私も記事を書きました。


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