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隣の芝生は青く見えて、実際に青かった話

現在、ケンブリッジ大学では、原則として所属カレッジ*以外への出入りが許されていない。

*カレッジとは、学生に生活や勉強の場を与える機関で、ケンブリッジ大学における学生生活の基盤を成す。学生は、全31個のカレッジのどれかに所属する。

こうした規制がカレッジの閉鎖性を高めており、学生の疎外感を強めている。

例えば、ケンブリッジ観光の定番であるKings College Chapelを訪れたり、ニュートンが卒業したTrinity Collegeを見学したり、といったことができない。

ケンブリッジ大学の学生でありながらも、大学内を自由に散策することができないのだ。

こうした規制のため、日々の外出といえば、所属のダーウィン・カレッジと近所のスーパーの往復と決まっている。目にする光景はだいたいこんなものだ。

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(画像:ダーウィン・カレッジ内の芝生エリア)

ダーウィンはこじんまりとしていて雰囲気は好きなのだが(記事参照)、この冬枯れした芝生はなんとも残念だ。

一方で、少し街中の方へ歩いて行くと、なんと美しい芝生が目に入ることだろうか。

グラデーションの異なる刈り込みを入れた芝生は、ローソンの制服ばりにストライプが映える。

しかも、これがゲートの向こう側にあるので、禁じられた聖域のように見えてくる。

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こうした圧倒的カレッジ間格差を見せつけられて、私はかねてより不満を抱いていた。

学費、住居費や食費がさして変わらないにもかかわらず、テニスコートやラグビー場を持つカレッジもあれば、かたや冬枯れした芝生のカレッジもある。

この歴然とした差に誰も文句を言わないのは、イギリスで階級社会が当たり前だからだろうか。

とりあえず、これから入学される学生はカレッジ選びを慎重に考えることをおすすめする(記事参照)。

いろいろと愚痴ってみたが、要はうらやましいのである。あのローソン・ストライプの芝生に頬ずりできたらどれほど幸せだろうかと考えない日はない。。。


こうして妄想が膨らむ中、ついに4月12日の規制緩和で、Kings Collegeの裏庭が限定公開されるようになったのだ!

待ちに待ったKings Collegeの敷地内はやはり想像していたように美しかった。

広大な緑の芝生と青い空に縁取られて、チャペルがより一層輝いて見える。

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(画像:Kings Collegeの庭の一部)

左奥に見える建物が白洲次郎がかつて通っていたClare Collegeなのだが、彼もこの景色を日々みていたのかと思うと、さらに胸が高鳴る。

今まで、「隣の芝生は青く見えるだけだ」と自分に言い聞かせていたが、いざ行ってみると実際に隣の芝は青かったのだ!

感情の高揚を察知したのか、警備の人がこちらを睨んできたので頬ずりしたい衝動は抑えることにした(この芝生は立ち入り禁止なのである)。


だが、次第にほとぼりが冷めると、従来からの問題意識が湧き出てきた。

「なぜ学生の私が、大学の一部に入れたことに、これほど感激しなければならないのか。というか、この美しい芝生はなんなんだ。冬枯れの惨めさを思い知れ!」


これは私の悪い癖である。どうしようもないことに当たるのではなく、こうして無事留学をできていることに感謝をしなくては。

そうだ、考えを改めよう。

きっと、隣の芝生が青くみえるように、他の人からすればダーウィンの芝生も青く見えているはずだ。

ダーウィン・カレッジの誇るものといえば・・・

・・・

そうだ!ウォレミ・パインがあるじゃないか!

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(画像:ダーウィン・カレッジ内にある、「生きた化石」)

このウォレミ・パインは2億年前に絶滅したと思われていたが、20世紀後半に現存していることが確認された、珍しい木なのである。今でも野生の成木は世界に百本程度しかないと言われている。

これぞ、植物学にも詳しかったダーウィンの名に与えする資産じゃないか!

こう自分に言い聞かせて、私はKings Collegeの庭を後にした。


カレッジに戻ると、早速われらがウォレミ・パインを拝みに行った。

すると、ところどころ葉っぱが茶色く枯れていることに気づいた。

芝生に限らず、何かと枯れているダーウィン・カレッジなのであった。

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