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気骨と気質

Napaは世界で最も成功したワイン産地の一つだろう。Opus Oneの成功以来、Sonomaの半分の広さしかない土地の中に、一本数百ドルものワインを生産する大小様々なワイナリーがひしめき合うように立地している。かつては評論家にすり寄ったワインを作ると批判されたこともあったが、近年は様々な評価誌が幅広いワインに高得点をつけている。

Napaはオープンマインドで先進的な産地でもある。国内外の資本、多様な人材、新しい品種や技術を受け入れる懐の広さを持ち、栽培や醸造だけでなく経営面においても挑戦が行われている。Corison、Gallica、Spottswoode、Philip Togni等、女性のオーナーやワインメーカーが多く見られるのも一つの証左だろう。

そんなNapaのワイン産業の発展を支えてきたのは米国の消費者達だ。カリフォルニアの可能性に魅せられて、新進生産者のワインを買い、その味や将来性について自由闊達に議論する消費者無しに、今日のNapaの成功はない。

近年、そんな米国の好事家達がアメリカン・ドリームとまで呼ぶ、あるNapaの生産者が注目を集めている。

BETA/Jasud winesのオーナーであるKetan Mody氏は、San Francisco Chronicle誌の"2016 Winemakers to Watch"に選ばれた。カリフォルニアでピノ・ノワールが全盛の時代に、カベルネ・ソーヴィニヨン専業を宣言し、Diamond mountainの林を自ら切り開いて自社畑を開墾した。しかも、2020年の山火事でその畑の40%を消失したにも関わらず、再び植樹を行い、現在もワインを生産しているという。

Ketan氏のワインは、買い付けた葡萄で作るBETA、自社畑の果実で作るJasudに大別される。味わいは1970年代頃のNapaの味わいを再現していると言われ、ニュアンスに富んだワインを作っている。JasudがThe Wine Independent誌で97-100点の評価を受けて以降、メーリングリストの登録待ちは数千人に上る。

Jasudは極小生産の上に好事家達が争って購買しており入手が困難だが、BETAはNapaのVare vineyard、Oakville Ranch、SonomaのLupina vineyard、Montecillo vineyard、Maus vineyardとラインナップが充実しており、比較的入手しやすい。

中でも、MausはVinous誌で評価が高い畑だ。

カシス、プラム、ブラックチェリー、甘草、オリーブ、コーヒーの香り。強い酸があり、引き締まったボディと骨格を感じさせる。果実味は強いが前面には出てこない。抜栓後はタンニンが目立ったが、数時間のデキャンタの後に落ち着いた。洗練されておりアフターも充実。クラシックなカベルネの魅力を楽しむことができる。

Ketan氏はNapaのワインの高騰が不満らしく、BETAを同カテゴリーのワインに比して極めて穏当な価格でリリースしている。こうした消費者への姿勢と独立独歩のあり方が熱狂的なファンを惹きつけているせいか、二次市場では倍のプレミアムが付いている。当分の間、BETA/Jasudを巡る狂騒は収まらないだろう。

我が道を行く人は、しばしば、安易に周囲に流されない気骨を感じさせる。だが、それはその歩みを支える人達の気質あってこそだ。

今日のワイン:
BETA Maus Vineyard Moon Mountain District 2019
94pts
https://www.beta-wines.com

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