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挑戦の意味

映画やドキュメンタリーの「挑戦」は、結果が半ば約束されている。しかし、現実は厳しい。ただ、あるワインを飲んでいるうちに、「その挑戦に向けた準備を整える」ことに価値があると思うようになった。

EnfieldはFaillaやLittoraiで経験を積んだJohn Lockwood氏のプラベート・ブランドだ。Tempranillo、Syrah、Chardonnay、Grenache、Chenin blancといった品種を手掛けており、エレガントでバランスの取れたワインを穏当な価格でリリースしている。現地のファンの間でも人気が高い。

そんなEnfieldが二つのCabernet Sauvignonをリリースすると知った時は、正直に言ってびっくりした。無謀な挑戦だと思ったからだ。

二つのワインのうち一つはHennessey ridgeというワインで、Pritchard Hillの非常に狭い畑の果実から作られる。事実上のモノポールだという。そして、販売価格は100ドルを切るという。

Napaの高級ワインをこれほど廉価にリリースすることは、大胆な挑戦と言って良い。NapaではCabernet sauvignonの果実価格が高騰しており、穏当な価格のワインをリリースすることが年々困難になっている。それを押して低価格のワインを作れば、必然的に質を妥協せざるを得ないが、それは生産者の本意ではないだろう。

もう一つのWaterhorse ridgeというワインは、なんとFort Ross-Seaview AVAの畑の果実から作られるという。Fort Ross-Seaview AVAはWest Sonoma Coastに位置する非常に冷涼な産地だ。Cabernet sauvignonの生育が期待できる限界の立地だろう。こうした畑からワインを作ること自体、生産上のリスクが高い。

かつて、EnfieldはMerlotをリリースしていたことがある。Cabernet sauvignonに固執しなくとも、優れたCabernet francやMerlotの畑からワインをリリースする方が、ビジネス上のリスクは少ないだろう。

そんな生産者の挑戦の現在地を知りたくて、Waterhorse ridgeのワインを入手してみた。

赤スグリ、ブラックベリー、プラム、皮革、バジル、浅煎りのコーヒー、オリーブ。強い酸と骨格を感じるボディ。やや水っぽいところもあり、果実味は若干不足している。まだタニックではあるものの、アフターは綺麗にまとまっている。美しいワインだが、充実したワインとは言えない。

率直に言って、2021が冷涼な年であったことを踏まえても、この畑からCabernet Sauvignonを作ることは挑戦的すぎたのではないかと思う。実際、セールスは芳しくないようで、しばしば小売店で値下げされている様子も見かける。

それでも、John氏はこの挑戦を楽しんでいるようだ。発売以降、この二つのCabernet Sauvginonは途切れることなくリリースされている。他にも多くの素晴らしいワインを作っていることが、こうした挑戦を可能にしているのだろう。

ワイン作りは苦闘の連続だとしても、このCabernet Sauvignonの味わいは軽やかだった。それは、今できる範囲で、大胆な挑戦を楽しんでいるからだと考えるのは、想像力が豊かすぎるだろうか。

本日のワイン:
Enfield Waterhorse ridge Cabernet Sauvignon 2021
91+pts
https://www.enfieldwine.com

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