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《写真の保存修復を考えてみた vol.12》~写真の劣化4~ by タケウチリョウコ


今日4月13日の誕生花は「イチゴ」です。花言葉は「幸福な家庭」「尊情と愛情」だそうです。
コロナ禍で家族といる時間が増えた事によるストレスで不和が生じるとか…。かく言う私も家事の増加で疲れを感じる日々です。イチゴを食べて穏やかな気持ちを取り戻し新年度を迎えたいと思います。
本年度もよろしくお願いいたします。タケウチリョウコです。

今回は前回記事の続き「写真の劣化4」の「生物的劣化」であるカビに注目します。

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カビ(黴)は英語でmoldやfungiと呼ばれています。
写真に限った問題ではなく、様々な資料にとって大きな損害をもたらす劣化です。
高温多湿の日本では、カビの影響を受けずに生活する事は皆無です。

文部科学省では「カビ対策マニュアル 実践編」として博物館や美術館に所蔵されている作品に対するカビ対策方針を示しています。

近年ではカビを含む虫への対策として「IPM((Integrated Pest Management)」総合的病害虫管理への取り組みが盛んに行われています。
IPMについて様々な機関の取り組みが一覧できるこちらの資料をどうぞ!
*「IPMフォーラム『臭化メチル全廃から10年:文化財のIPMの現在』, 東京文化財研究所, 2015」

さて本題に戻り、写真へのカビによる影響についてです。
カビは写真画像そして支持体や台紙など、広い範囲に悪影響を及ぼします。
私が所有している写真の中でも昭和初期の写真に、ほとんど確認できます。
fig.1と2では台紙にカビが繁殖した後がスポット状に茶褐色となって痕が残っている様子が見られます。

画像1

fig.1 private collection (mold)


画像2

fig.2 private collection (mold)


fig.3は写真画像の中央部分に5つスポット状の痕が見られます。本来は白いはずの画像がカビが付着している部分だけ茶色く変化しています。

画像3

fig.3 private collection (mold)


【カビの劣化プロセス】
カビは物理的に写真画像を破壊するだけでなく、その胞子や菌糸などの代謝産物によって写真画像に化学的な変化を起こす。代表的な代謝産物としては、グルコン酸、クエン酸、酢酸などの有機酸類が挙げられ、これらは写真材料の変質や腐食だけでなく、画像に影響を及ぼし、赤い斑点を生じさせることもある*1。
 また、バインダー層を構成するゼラチン乳剤や支持体となる紙はカビにとって栄養源である。カビは相対湿度65%以上で生息するため、写真が高温高湿の環境に長期間おかれた場合、ゼラチン乳剤を栄養源とし活発に活動し、最悪の場合は写真画像が消失してしまう場合もある*2。

*1:「カビと写真」加藤正博 今田勝美 日本写真学会誌第51巻 第4号 1988年 pp312 引用
*2:「Dry, Cool, and Contained: Setting environmental limits avoiding」 Tom Strang 画像保存セミナー要項 日本写真学会 2010年 pp3 引用

カビの影響は古い写真ばかりではありません。学生時代に制作した10数年前の写真にもカビが確認されました。
fig.4では白い粉状のものが確認できるかと思います。そしてフィルムにもカビの付着が確認されました(fig.5)。
長時間、温・湿度の管理をせず、自室で無造作に保管していた結果、このような惨事になってしまいました。
fig4と5の写真であれば、まだカビの菌糸が写真画像の奥深くまで影響していない可能性があるため、カビの除去を実験的に行ってみようと思います。その方法や結果はnote記事で改めてご報告したいと思います。

画像5

fig.4 private collection (学生時代に制作した写真の一部)


画像4

fig.5 private collection(Ektachrome)


*参考資料:
『Microbial Deterioration of Gelatin Emulsion Photographs: A case study』, Miguel J. L. Lourenço, José Paulo Sampaio, AIC, 2006

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次回は「写真の劣化」の続き、物理的的劣化に注目します。
それでは4週間後にまたnoteを見に来て頂けたら嬉しいです。

タケウチ蛇足memo
虫対策は資料に限ったことではなく、日常生活においてこの時期Gの存在も気になる季節です。
4月から部屋の掃除と対策をすることで増殖を抑える事ができるそうです。我が家ではハッカ油を玄関や台所に置いています。この3年くらいお会いする事がなくなりました。

さてトップの写真はガラス乾板です。ロンドンのノッティング・ヒルで購入しました。古い写真ばかりを扱うお店で、一日居ても時間が足りませんでした。
日本に比べて湿度も低く、一年を通して温度も低いイギリスでも写真にカビが生えるものなんだな!っと、その生命力に圧倒されました。
カビは気管支に入ると肺炎を起こすこともあるので、取り扱いとクリーニングの際は気を付けなければいけません。クリーニング方法については、今後じっくりご紹介したいと思います!

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