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今日は綴れない日。なのに原稿用紙を書いては破り、ペーストしては削除の繰り返しをかれこれ8時間以上続けている。しかし今逃げてしまうと心はまた私を置いて明日に行こうとする。
きっとそれほど残したい出来事があったのだろう。皆無な文章力故に純粋な思いが宿るこの記事をどうか温かい目で見ていただきたい。

突然だが皆は運命という曖昧で形のないものを信じるだろうか?
私は信じて時々捻じ曲げる。
私は今日も望んだ未来へと命を運ぶ。
徹夜続きの私は16時から今日がスタートする。
空腹より心が空いている気がする。
寂しいのだろうか。そんな日も1人の出会いで温かい日に変わる。今日はそんな
『 温 』  についてのお話。

温かい居場所は心の拠り所である。
私は自然と温かいを探していたのかもしれない。
そんな時、例の不思議な娘と出会う。
3時間程度話しただろうか。
「曇ってて月が見えないね。」彼女がいう
「見えてるだろほら。」雲の奥から微かに溢れる月あかりに指をさす。
「いや、あれは見えてないでしょ!」序盤の会話はやや生温(ぬる)い。

しかし、温もりというのはじんわりと、ゆっくりと、そしてその場にいる者を平等にあたためる。そうして無意識に、刻一刻と、今日の締め作業にはいる。
「今日をあらわすなら?」彼女が聞いてきた。
「デザート」私が答える。
「私はサプライズ」と彼女が言う。

私は今日をご褒美と捉え、彼女は非日常として捉えていた。

今日の彼女の言葉は温かい。常識の蓋で抑えていた彼女の心の音がこもることなく解き放たれる。寒い常識のなかで本音の湯気がたつ。ひとはこの湯気を「温もり」そう呼ぶ気がした。

誠に「きれい」であった。

「◯からもらった縁が次の縁を結んで…」
「私の作品も◯に見てもらいたくて、…」
「◯とはLINEではなく会わないとダメで、」
「◯は白色。色んなものへ染まるはずなのに染まらなくて。」

彼女の今日の言葉はいつもより大胆であり、私がほしい言葉を次々と編んでくれた。驚くほど完璧に編まれた彼女の作品の数々。私のほしい柄や模様までに心が行き届いていた。

もらった分私も応えよう。最後に、私から。
誰にも話さない、心の奥にしまっていた話をした。心に近ければ近い言葉ほど紡いだときに温もりを帯びていたことに気づく。
たくさん話した。

「今何時だと思う?」
『9時43分』共に同じ時が流れていた。
急いで外の時刻をスマホで確認する。
9時51分であった。
全然違うじゃん!と笑いに変えたかった。
しかし、車内と外との時刻のズレが
この時を夢ではないと証明されたように思えた。

そうして場所を変えては話を変え、またしても時をこえそうになる。
しかし今回は違う。温もりが生み出した別れのサインに私が気づく。私は曇る車のフロントガラスを見て車内と外、双方の時間差と温度差に気づき焦りをおぼえたのだ。
時計の針は23時をさしていた。しかし彼女はまだ今を噛みしめている。その間にもビニールの掠れ音が、また互いの鼓動とのズレが別れを醸しだす。それでも「あなたの温もりを私だけもらうのは贅沢。もっと色んな人へ話して欲しいと。」彼女の声は震えていた。とても激しく。そして優しく。
「よかった…」そう思い私は今を咀嚼していた彼女に気づかず席を立とうとした時、彼女は手編みで急ぎながらも言葉を丁寧にと紡いでくれた。相変わらずどこまでも丁寧である。

前回の別れ際放った私の言葉は何を作ろうとしたかは伝わるが、ほつれていて人前では着けれないような仕上がりになっていた。
一方、彼女の編んだ言葉はその逆である。何を作ろうとしたか分からない。ただ私の好きな柄が編まれており、途中なはずなのに、ほつれないようにと、返し抜いや玉結びの句読点にも温もりを感じるほど。未完とは程遠いものであった。編まれた言葉は私の着け方で色も変わる。

「あなた自身、分かってることだろうけどあなたはあなたを生きて。」

なんと、汎用性のある編み物だろうか。それゆえに編みかけの言葉は己の用途や願望次第で沢山の温もりに変わる。手袋にも、マフラーにも、コートにでもなれそうな言葉をもらった。
誰にでも言えそうな綺麗事と感じる人も少なくないだろう。
しかし『温』で絶対に言えることが一つだけある。それはその場でしか味わえないということ。時が経ち、空間を越えようとすると冷めてしまうということ。
彼女の声は詰まってもう出そうに出せない緊迫感。そんな彼女の振り絞って編んだ言葉ほど嬉しいサプライズは他にない。常に完璧主義でネタにふれないなら最初からやらない選択肢をとるような女性だ。だからこそ、この用途のわからない手編みことばで私はいくつもの「寒い」を越すだろう。

互いの言霊が居心地に磨きをかける。

(さあ、私は降りよう。降りなくては。)

温かいのは心の拠り所。
しかし居座りすぎてもいけない。
今の私たちの出会いもご縁のおかげである。
今日のご縁を命と共に各々の明日へと運ぶ。
この温かいを感じ続けるには寒さも感じなくてはならない。
換気をしなくては目や鼻が腐る。
寒すぎては風邪を引く。
近すぎても離れすぎてもいけない。
私たちも運命さんも、ご縁ちゃんも、環境君も、この世はうまくできている。
寒さを知った私はさらに多くの温め方を知る。

お互いに命を運ぶ明日がある。
そうして今と彼女に深くありがとうを伝えて私は車を降りた。彼女の表情は窓ガラスより曇っていたかもしれない。少し温めすぎた。
グーを交わして、パーを振る。
体も気持ちを共有できたみたいだ。
なにかを心に決めドアを閉める。

吐息が白い。そうか私は温かい場にいたのか。思い出と共に彼女の車へと振り返り、手を振ろうとした。

そんな彼女の車のフロントガラスはまだ曇っていた。


寂しいすらも温かく感じれる人に私はなりたい。


『温』

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