小説【多次元世界ヒストリア】第3話中編
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第3話中編『普通の人、来ちゃった』
そう考えると色々と疑問が浮かぶ。
改めてミーシャの姿を見る。チェーンソーを持った白黒のエプロンドレス。
「なんでエプロンドレス?」
「ああ、じじ様の趣味じゃ」
「恐るべし織田信長!」
まあ趣味なら仕方ない。人の趣味にツッコミいれるのはやめておこう。
「じゃあ、あのロボットも信長の趣味なの? 日本製ならてっきり日本の鎧武者デザインかなーって思ったけど」
「簡単じゃよ。日本の鎧は重すぎた。ハデな装飾品も再現できん。そこで海外の鎧を盗んで作った物が天鋼我の基礎になっておる」
それで西洋甲冑が基本デザインになったのか。
「でもよりによって金ピカって」
「なにを言うておる。黄金色は目立つじゃろ。戦場では大将が一番目立つ存在であらねばならん」
ピコピコ動くケモノ耳に目が止まる。
「ところで……この耳、本物?」
ちょっと触ってみる。
「ふみゃ!」
触った感触は犬や猫の耳とほぼ一緒だった。
「どういうこと?」
「どーもこーも無いわ。日本人はみんなケモノ耳が生えておるぞ、遺伝子操作でな。動物と人間の遺伝子を結合するんじゃ」
「それも信長がやったの?」
「うむ。人間には限界がある。その天井をブチ抜くために動物の遺伝子を利用したんじゃ。
瞬発力、腕力、脚力。動物の身体能力を手に入れれば人間はより強くなれる」
天下統一、世界征服、そんなもののために人間を捨てる魔王信長。
「狂ってるね……戦国時代」
「戦争する奴は、みぃんな狂っておるよ」
残念そうにミーシャが空を見上げる。
「じじ様が狂っておるのはわしら家族も承知しておる。世界征服と言ってまず最初にやったのが世界中に進撃して大量の女子を攫ってきた。じじ様は世界からの憎まれ者じゃ。結果、またたく間に子供が増えてウチ中が全員おだ織田オダで」
「まー、そうなるよね……」
「家族中、織田まみれになって区別がつかんからわしらは母方の姓を名乗っておるのだ。わしのミーシャ・カイという名もしかりじゃ」
ミーシャの耳がピコピコ動き、なにか思いついたのかポンと手を打った。
「戦争が拡大した最大の原因があってな。じじ様は侵攻の時、世界中の空に基地局をばら撒いてネットワークを作ったんじゃ。自律型の浮遊システムでな。半永久的に空中で送受信ができる装置じゃ。あれは便利すぎる物じゃった」
世界中にケンカ売ったついでにインターネットまで作ったのか……。
「なんでも作るなー、信長」
「おかげで世界中の誰とでも会話できるようになったが、ケンカ売りまくったあげく見事に負けて日本に帰ってきたからな」
「え、ロボットあったのに負けたの?」
「当たり前じゃて。天鋼我があっても中身は人間が操縦しておる。人が関われば当然、水、食料、睡眠、あれこれ必要な物が大量にある。敗北は当然の結果じゃった」
「計画性、どこ行った……」
「うむ、その通りじゃ。なんせ負けて逃げ帰る時、世界中に天鋼我を捨ててきたからのう。あっという間に技術を盗まれ大量生産されたわ」
詰めが甘いな、信長。
「さらに追い討ちをかけたのが失言じゃ。ネットワークの試験利用でな、いっちばん最初のテストでじじ様が言いおった。英国の娘は子守唄がヘタじゃ、とな。そこでイギリスの怒りを買った。盛大にな」
信長、ネットで大炎上。
「ここで燃えたか、本能寺……」
「プライドを痛く傷つけられ、それがきっかけでヨーロッパを中心に新しい戦闘国家が生まれた。打倒信長を掲げた国、戦闘国家ユーラギアじゃ」
さきほどメントスコーラをくらって倒れている敵ロボットを指差す。
「あの人型ロボットもすべてユーラギアのものじゃ。指揮をしていた部隊長はワンスという男でな、なかなか強い人間じゃぞ。わしもたびたび苦戦する」
なぜか嬉しそうに話すミーシャ。生きるか死ぬかの戦場で強い相手に会えるのが嬉しいのだろうか。
「じじ様がすべてを壊した。国も人も土地も文化も」
歴史が変わっても世界が変わっても、結局どこかで争いが起こってしまう。
「今もどこかで戦は起きる。そして敗れた織田の血が流れておる。兄弟家族が命を落とす。じゃが戦争はやめられん。ヒトは握った刀を捨てられぬ」
「信長が死んだのに戦争が終わらないの?」
ミーシャがひとつ頷く。
「たとえ戦を止めたくてもな、じじ様の血が恨まれすぎた。英国のプライドを傷つけ、世界中から命を奪った。……なによりユーラギアを止めるにはイギリス女王を説得せねばならん。ただ戦があれば人は死ぬ。武器があれば人は死ぬ。病にかかれば人は死ぬ」
日本として負けを認めるわけにもいかず、和平の落としどころが見えないのだろう。
「もはや誰にも分からぬ。戦争の止め方を探るにはあまりに多くの血が流れすぎた。
「ロボットの足、直りましたー」
スウちゃんの声に振り返る。
金ピカ天鋼我の片足が真緑になっていた。
「緑黄色野菜かな?」
健康的な野菜ジュースの色である。
ミーシャがロボットの足に触った。そして満足そうに笑って頷く。
「うむ、強度は悪くない。お主よく修復できたのう。おもしろい妖術を使う娘じゃな」
「妖術じゃないですー」
「それにしても……」
これまでずっと大人しく話を聞いていたリカ先生が口を開いた。てっきりミーシャの会話に割り込んでくるかと思ったら意外と今まで沈黙を守っていた。
「あなたのヒストリアとしての力、ドンドン強くなっているみたいね」
「私なにもしてませんけど」
「あの多次元ゲートを見れば分かるでしょう。これほど強力な存在を異世界から召喚できるのよ、しかも一気に大量に。成長しているわ、確実にね。それもかなりの短時間で」
そう言われてもレベルアップの自覚がないのでピンとこない。なにより自分で操作しているという感覚が薄い。
「チカラを使っている、というより誰かに引っ張られている感覚があるんですよね、なんとなく」
「利用されている……誰かに」
答えを探してリカ先生の視線がわずかに泳ぐ。
「犯人がいるかもしれないわね。今回の召喚事件」
「犯人ですか」
「そう、あなたの能力を利用してなにかをやろうとしている存在がいる。この世界に」
いや、世界とか言われても。
「それじゃ範囲が広すぎて……」
「まず無理ね、簡単には見つからない。けれど相手もそれほど遠くには行けないはずよ。敵の能力にも射程距離があるもの。こうしてあなたに何度も干渉するということは、ある程度近くにいて多次元ゲートを発生させている可能性もある」
ゲートを自在に操作できる存在。なにか目的があってゲートを発生させている誰か。
「その犯人も多次元ゲートを自由に開けられるってことですよね」
「相手の能力にもよるけれど、おそらく条件があるはず。ゲートを開けることしかできないとか、複数同時開放はできないとか。もしかしたら回数制限があって、あと数回しか能力が使えないとかね」
「あー、なるほど。なんでも好き勝手できるわけではないと……」
「もう気づいているでしょ? ゲートが一回開放されるたびにインターバルが発生している。敵もゲートの連続使用はできないってことね」
確かにこれまでのゲート出現状況を思い返すと、ざっくり二種類のゲートが存在している。
「犯人が開放しているゲートと、たぶん私が無意識のうちに開放しちゃっているゲートがありますね」
「そうなると相手の目的は……単純にこの世界の破壊か、もしくは」
あー、なんかイヤな予感が。
「もしかして私が狙われてます?」
「その可能性が高いわね。あなたの周辺でゲートが開き戦闘が起こり巻き込まれる。犯人の目的はあなた自身かもしれないわ」
「どこでそんな恨み買ったかなー……」
「この世界の話ではないかもしれない。召喚された人たちを見れば分かるでしょ。この世にはたくさんの知らない世界が同時に存在している。知らないあいだに異世界で何かあったのかも」
「原因が異世界とか言われても行ったことないんですけど住所どこですかそれ」
異世界の転居届けはどこに出せばいいんだ。オススメの引っ越し業者は軽トラで異世界に行けるのか?
そこでふと気がつく。
とにかくゲートが原因で色々と問題が起こるのだから、あの巨大な穴をどうにかできれば全部解決できるのではないだろうか。
「んー……つまり」
私もヒストリアなら強いイメージでなにか変えられるかもしれない。
ゲートさえ暴走しなければ敵だってもう現れない。
たったそれだけで色々な問題が簡単に解決できる。
やってみる価値はあるだろう。
両手を組み祈るようにゲートを見上げる。
きっとイメージだ。
自分の能力発動方法は分からないけど、おそらくイメージ映像が現実に影響を与えるはず。
まず一番の問題である最初のゲートを閉じなきゃいけない。
空に浮かぶ多次元ゲート。今もメガ人が無造作に落ちてくる。
なんにしても祈るしかない。
「閉じろ閉じろ閉じろ」
祈る。
「遠慮しなくていいから、はよ閉じろ」
念じる。
「はよ閉じろ、埋めるぞボケぇぇぇーッ!」
歪んだ。
空が歪んで苦しむみたいに震えたあと突然ゲートが閉じた。
「圧をかければ良かったのか……?」
呆然と空を見上げる。
理屈はよく分からないけど最初のゲートが完全に閉じた。
ずーっと多次元ゲートから降り注いでいたメガ人の出現がこれで止まった。
「やれば出来るじゃん、私!」
音。
その直後に音が近づいてきた。
遠くから聞こえてくる無数の足音。
白銀の甲冑が見えた。あいつらが帰ってきたのだ。
「ほっほう、ようやく戻ってきよったか。ほれスウ殿、出番じゃ。ドカーンとやってしまえ」
信長の孫、他人任せを発動。
「いっきますよおーっ!」
杖を振りかざしスウちゃんが意識を集中する。
しだいに小柄な魔法少女に光が集まって……。
「あ、あれ?」
そのまま倒れた。
「スウちゃん!」
倒れた少女に駆け寄る。意識がない。呼吸はしている。小さな紳士ハムスターがスウちゃんの顔を覗き込む。
「いやっは、魔力の使いすぎであるな、これは」
「簡単に言うなー! どーすんの、これ!」
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