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大躍進とは言わないけれど...英国的パリ五輪総括

パリ五輪が終わりテレビではメダリストを招いた振り返り番組で賑やかです。柔道のメダルラッシュや男子体操の躍進に沸いた日本ですが、イギリスはどうだったのでしょうか。少し辛口なコメントも交えた英国視点でのパリ五輪総括です。

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◎”Fait Accompli”(これにておしまい)

パリ五輪開幕時の空気感はお世辞にも良いものではありませんでした。フランスは国を2分する選挙の殺伐としたムードが色濃く残り、オリンピック特有のお祭りムードとは縁遠い状態。開会式も賛否両論やら批判の声やらで不完全燃焼感が拭えないものとなってしまいました。実際に当日は15日分の雨が1日に降り注ぐという悪天候に見舞われ、言葉の通り”しけった花火(①a damp squib)”の様相です。

しかし、一度競技が始まりメダル争いが白熱するにつれ選手達の団結する姿によって現地も英国本土も盛り上がり(②buoy spirits)を見せました。英国勢としては800mで勝利を収めたKeely Hodgkinsonや世界記録を更新しながら金メダルを勝ち取った女子自転車チームスプリントの活躍、ダイビングやボートの勝利がハイライトだったようです。
また、メダルこそ獲得しませんでしたがこの大会での引退を表明しているテニスの名選手Andy Murray氏の熱戦も人々の心に残るものとなりました。

英国のメダル獲得数としては金メダル14個を含め65個。確かに過去の東京、リオ、北京に比べて数こそ少なく金メダルの獲得数では7位に甘んじました。とはいえ英国の規模からすれば大健闘といえる水準でしょう。金メダルを1つしか獲得できなかった1996年のアトランタ大会を振り返れば雲泥の差(③be a far cry from)です。振り返ってみれば近年の英国のスポーツ振興では宝くじ基金からの資金支援が大きな役割を果たしてきました。そうした裏方の支援者にも選手達やホストとなったパリ市民と同様に感謝と祝福を送るべきでしょう。


□本日のポイント■■■

①a damp squib/期待はずれ

dampは湿ったという意味で、squibは爆竹。爆発すれば大きな音がでる爆竹ですので皆身構えますが、湿っていれば何も起きません。良いものであれば期待はずれ、悪いものであれば杞憂という感じです。
オリンピックの開会式ですので、皆期待する所が大きいですがThe Timesの中の人はあまり気に入らなかったようですね。当日降った大雨を引き合いに出してまさに湿った爆竹だと辛口のコメントになっています。

🔳 The public were apathetic at best about the Games. The opening ceremony was, in truth, a damp squib, amid the downpour of 15 days’ worth of rain in one evening.

(試訳)世間はオリンピックに対して良く言って無気力、開会式は湿った爆竹の様に期待はずれだった。一晩にして15日分の大雨も降り注いでいる中だったので、言葉どおり湿ってしまったのだろう。

② buoy spirit/盛り上げる

buoyは日本語にもなっています。漁業で使う網の位置を示す標をブイといいます。そこから何かを浮かせるという意味で使い、人々の魂を浮かせるというように組み合わせて盛り上げるという言い方です。buoyantという形で形容詞にもなり好調な様子を表す言葉にもなっていますね。市場がbuoyantであるという事は上昇ムード、好況です。

The Channelは英国とフランスを隔てている英仏海峡の事で、その英仏海峡のこちら側といえばイギリス本土。自国の選手の奮闘で現地フランスだけでなく遠くからテレビ中継などでオリンピックを観ているイギリス人達も盛り上がったという意味ですね。

🔳 A creditable performance from Team GB has, no doubt, helped buoy spirits on this side of the Channel too.

(試訳)英国チームによる素晴らしいパフォーマンスがイギリス本土を大いに盛り上げた事は疑いがない。

③be a far cry from/大違いである、雲泥の差だ

2つのものに大きな隔たり、差があることを言う言い方です。元々はスコットランドの部族が他の部族に大声で様々な情報を連絡していた事に由来するそうです。大声で伝えようにも遠すぎるくらい遠いという所から今の意味に変遷しました。

🔳It is all a far cry from the miserable display at Atlanta in 1996, from which Team GB returned with a solitary gold.

(試訳)1996年のアトランタでの有様に比べれば雲泥の差だ。英国チームが帰国時に獲得した金メダルはたった一つのみだった。

◇一言コメント

パリ五輪だけにこれでもかと言わんばかりにフランス語の言い回しが出てきました。タイトルのFait Accompliはこれにておしまいという感じです。
英語の勉強なのにフランス語?とも思いますが、英語の辞書を引くとちゃんと記載されています。つまり一種の外来語として英語の語彙として認識されているという事で、私たち英語学習者が看過できない存在です。

ところで1個目のa damp squidは2011年に訳した文章に登場していました。同じThe Timesの社説ですが、訳したままにとりあえずEvernoteに放り込んでいたものを検索が拾ってくれました。その年にアメリカを直撃した大型台風の被害が大したものではなかったという件で、当時のニューヨーク市長であったブルームバーグ氏と大統領であったオバマ氏の大規模すぎる対応を論じる内容でした。懐かしいですね。

🔳 Airports were closed and stations idle. But although it was very damp, Hurricane Irene, at least in New York, was something of a damp squib. 
(試訳)空港は閉鎖され、電車は止まり、だいぶ雨も降ったわけだが、少なくともニューヨークにおいて台風イレーネは杞憂とでもいうものであった。

ところでアメリカ、中国に次ぐ金メダル数を叩き出した我らが日本の祝勝ムードは継続中ですが、どういうわけか私は明日から出勤です。

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