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Vol.69#挑め!Leading Article/スターリンを継ぐもの

今日のテーマは”ロシア大統領選挙”です。

🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸

当時大統領だったエリツィン氏がが突然辞職をつげるテレビ演説を行ったのは1999年12月31日、20世紀最後の日です。経済政策での行き詰まりやチェチェン戦争に苦慮したエリツィン氏が21世紀を担う”強い”リーダーとしてロシアを託したのが当時まだ47歳のPutin氏でした。その日からプーチン氏は大統領をメドベージェフ氏に譲った僅かな期間を除いてロシアの最高権力者として君臨してきました。

今週末に行われる選挙での勝利が決まれば、そこに更に6年間任期が加わりソ連時代に長期の独裁政権を維持したスターリン氏を凌ぐ事が確定します。
スターリン氏の死去は在任中の事でした。人生の最後の日まで最高権力者であったわけですので、独裁者としてはこの上もなく幸せな死だった事でしょう。就任時には未だ40代であったプーチン氏も今や71歳。この”前任者”に倣おうとしていても不思議ではありません。

弾圧に負けない気持ちで、読み進めていきましょう。


◎今日のLeading Article:Stalin’s Heir

With this weekend’s Potemkin presidential election out of the way, Vladimir Putin will be set fair to achieve his ambition of outlasting Joseph Stalin in power. The Soviet dictator and warlord ruled for almost 31 years, a reign drenched in blood, marked by purges, arbitrary arrest, detention and execution.

President Putin, who first assumed supreme power in Russia on the last day of the 20th century, is looking forward to six or more years in the Kremlin. He will, of course, never remotely match his predecessor’s stupendous bodycount. Stalin murdered some 20 million people. Mr Putin is more like a Chicago hood, picking off enemies in vivid, selective hits: a radioactive poisoning here, a nerve agent attack or midair bombing there.

Infinitely more economical in lives lost but effective, nevertheless, in cultivating in the Russian people a sense of foreboding and helplessness in the face of omnipotent and merciless power.
(中略)
In the face of Mr Putin’s security machine, protest carries with it a high risk of a beating or arrest or the loss of one’s job. Before the 2018 election, Alexei Navalny, the principal thorn in Mr Putin’s side, barred from standing for election by trumped-up charges, held protest rallies. With Mr Navalny’s sudden death in an Arctic prison last month the resistance to Mr Putin has lost its spiritual leader. Pro-democracy activists will have to tread carefully before the closure of polling stations tomorrow night. They are opting for a more subtle form of protest in showing up at lunchtime to cast their votes. This flash mob tactic is some attempt at least to keep the flame of opposition alive.
(中略)
At the same time Ukraine offers a glimmer of hope. Hundreds of thousands of Russian men are serving on a front that has descended into static, attritional warfare. As many as 300,000 Russians have been killed and many more wounded. An invasion in February 2022 meant to be a coup de main aimed at installing a puppet regime in Kyiv was thrown back in humiliating style. Western aid is decisive in keeping Ukraine in the fight but a huge American aid package is stalled in Congress.

The West must not allow Ukraine to fail.

Abandoning a democracy to the mercy of a rapacious dictator would discredit Nato and the EU, and embolden authoritarian challengers to the rules-based order. If Vladimir Putin fails in Ukraine he may yet fail at home. Unlike fraudulent ballot papers, defeat in war cannot be hidden.

□解釈のポイント■■■

①Potemkin/形ばかりの、はりぼての

ロシア帝国の軍人グレゴリーポチョムキンが征服したクリミア地方を訪れたエカチェリーナ2世にアピる為に豊かな農村のはりぼてを作ったという”伝説”から、形ばかりのという意味で使われるようになった言葉です。

今度のロシア大統領選挙もまるで民主主義的な選挙をしているように見せるためだけのものになってしまっているので、まさにポチョムキン選挙だというわけです。

②flash mob/フラッシュモブ

通行人が突然ダンスしたり歌い始め、いつの間にかそこに加わる自分のつれあいがプロポーズをしてくるという演出がありますが、そうした演出をフラッシュモブというそうです。突然あらわれ消えていく様子がflash(閃光)という事なのでしょう。事前に警察署に届け出が必要だそうです。

ロシア政府から目をつけられている人が普通の時間に投票所に行くと妨害される可能性があるので、昼休みの時間に食事を装って投票してしまうという作戦です。小さく目立たなくとも抵抗の火を絶やしてはいけないという事でしょう。

③ coup de main /奇襲

”くーでま”みたいな読み方をするフランス語です。予告なしに攻撃する事を差します。

ウクライナ侵攻は奇襲から短期間で終わらせる目論みだったロシア政府でしたが、はや2年が経とうとしています。外交や戦争の語彙にはフランス語由来のものが多いですね。

■試訳

今週末に実施される形だけの大統領選挙をおしのけ、Vladimir PutinがJoseph Stalinを超える長期政権を実現する野望を達成する見込みは確実なものだ。ソビエトの独裁者であり、31年間にわたってロシアを支配した軍事的指導者。その治世を特徴づけるのは血と粛清、恣意的な逮捕と勾留、そして処刑だった。
Putin大統領がロシアで最高権力者となったのは20世紀最後の日であったが、今回更に6年以上権力の座にとどまる見込みである。もちろん彼が前任者が殺害した人数を凌ぐ事はない。

Stalinは2000万人もの人々を殺している。Putin氏はどちらかといえばシカゴマフィアのように、敵を選定し鮮烈で的をしぼった形で殺害する。こちらでは放射性物質を使った毒殺や神経毒を使った攻撃、あちらでは飛行中の航空機爆破といったように。より効率の良い殺害方法であるが、ロシアの人心に全能で冷酷な権力の前では恐れと絶望しかない事を植え付けるのに効果抜群である。
(中略)
こうしたPutin氏の安全装置を前に抵抗するとなれば、暴行を受けたり逮捕されたり仕事を失ったりするリスクがある。2018年の選挙の前にPutin氏にとって最も邪魔な存在であったAlexei Navalnyはでっちあげで起訴され出馬を阻まれ、抗議デモを行なった。Navalny氏が先月北極圏の刑務所で休止した事で、Putin氏への抵抗運動は精神的な指導者を失った。民主主義を主張する活動家達は明日の投票所が閉まるまでの間は夜道に気をつけなければならないだろう。彼らは投票するのを昼休みの時間帯にする事でささやかな抵抗を示ししている。このフラッシュモブ作戦はせめて抵抗の火を絶やさない試みだ。
(中略)
同時にウクライナにはささやかながら希望の光が差している。何百、何千ものロシア人男性が配置されている前線の戦況はこう着状態で、皆消耗している。300000人ものロシア人が命を落とし、負傷した人数は更に多い。2022年2月の侵攻の際に意図されていたのは奇襲であり、それによってウクライナ政府を傀儡化しようというものであった。しかし、その試みは阻まれロシアは面目を失った。欧米諸国による支援はウクライナが戦い続けるには決定的なものであるが、アメリカによる巨額の支援策は下院で行き詰まってしまった。
欧米諸国はウクライナを支えねばならない。民主主義を見捨て強欲な独裁者の思い通りにさせてはNATOとEUの面目に関わる。また法基づく国際秩序に従わない独裁者を増長させてしまうことにもなるだろう。仮にVladimir Putinがウクライナでこければ、国内でもこけるだろう。不正な選挙用紙と違って、戦争での敗北は隠しようがない。

◇一言コメント:

はりぼての誹りを受け後世の言い回しに登場する羽目になったポチョムキン氏ですが、実際は大変な実務家であったようです。
エカチェリーナ2世の愛人、秘密の夫という出自の怪しさはあるものの数々の内乱を平定し海軍を中心とした軍備の充実を推進し、地政学上不安定だった当時のロシア帝国にあって発展の基礎を築くなどの実績を上げています。
ポチョムキン村についても近年の研究ではポチョムキン氏は当該地域の振興、開発に成功していた事が指摘されており、はりぼてを作るまでもなく豊かな領土となっていたようです。はりぼての話は女帝の寵愛をうけたポチョムキンを妬んだアンチによるデマだったわけですね。

実はすごいできる人

そんなポチョムキン氏が眠る聖エカテリーナ大聖堂は現在ウクライナ軍とロシア軍が死闘を繰り広げるヘルソンにあります。反撃に転じたウクライナ軍から追われ、ヘルソン州から撤退するロシア軍はポチョムキン氏の遺骨を運び出した事が報道されました。ロシア人にとっては領土拡大の英雄ですが、ウクライナ人にとってはロシア支配の象徴です。収奪や破壊を懸念したのでしょう。ロシア側の英雄ではありますが、この地域の経済発展に貢献したのは事実です。そうした多面的な性格を持つ歴史上のアイコンをウクライナ人はどう受け止めるのでしょうか。墓標を暴くような野蛮な行為に及ぶとは思えません。

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