Vol.73#挑め!Leading Article/遺伝子編集の可能性
今日のテーマは”遺伝子編集”です。
🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸
英国で遺伝子編集を経た作物の栽培が解禁されました。遺伝子編集(gene-editting)とは植物に元々備わった遺伝子の組成を変化させる事で望ましい特徴を持たせる技術の事です。外部の遺伝子を持ち込んで繋ぎ合わせる遺伝子改変(gene-modification)とは似て非なる技術です。
欧州連合はこの遺伝子編集により作られた作物の栽培を遺伝子改変と区別せず禁止していますが、英国はこの遺伝子編集作物にリスクはないと判断しています。程度と速度の差こそあれ野の植物を育てて交配などの方法で品種改良を重ねるのも一種の遺伝子編集であり、言ってみれば12000年分の実績があるのです。
最先端の技術への興味を持って、読み進めていきましょう。
◎今日のLeading Article:Editing our Food
Gene-editing has the potential to give a huge and needed boost to agriculture
Later this year gene-edited crops will be planted at about two dozen commercial farms across England for the first time to see how plants previously confined to the laboratory and glasshouse will fare in real-world conditions. No other European nation is conducting such trials because the European Union treats gene-editing the same as it does gene-modification, effectively banning cultivation.
Recent legislation passed at Westminster (but not enacted by Holyrood or the Senedd) makes a distinction between GE and GM, allowing the sowing of the former to go ahead. This farsighted decision could have major benefits.
Genetic modification, which gave rise to the scaremongering about “Frankenfood” a generation ago, usually involves splicing the DNA of different species together. Gene-editing concentrates on altering the genetic composition within one organism. Farmers have been performing a version of gene-editing since formerly wild plants were first domesticated in the Levant about 12,000 years ago. Painstaking experimentation to increase crop yields has, when successful, proved to be a significant factor underlying population growth, urbanisation and the development of complex civilisations.
Agricultural progress is the essential factor in the quality of human life now being immeasurably greater than it was for our ancestors. Modern food crops are all already genetically edited improvements on their forebears. The difference now is that the fine-tuning can be done swiftly. At a time of climate fluctuation and international upheaval, the benefits of developing domestic food sources more resistant to weather, pathogens and pests are clear. The gene-edited crops being trialled could reduce methane emissions of cattle, cut carcinogens and produce a larger wheat grain.
These are self-evidently desirable outcomes.
□解釈のポイント■■■
①Westminster, Holyrood, Senedd/英国、スコットランド、ウェールズ
3つとも国会のある地名です。こうして各国の議会を地名で呼ぶ風習は事情通の雰囲気を醸し出します。Westminsterは連合王国の中央議会であり英国の議会といえばまずはここです。しかし、その傘下にあるスコットランドとウェールズ、北アイルランドにも各々議会があり一定の内容については自治と立法を行う事が認められています。Holywoodはスコットランド議会、Seneddはウェールズの議会です。
遺伝子編集作物の栽培は中央議会では可決となったものの、まだスコットランドとウェールズは検討中という事ですね。
②splicing/継ぎ合わせる
遺伝子改変側の方ですね。他の植物から持ってきたDNAをつぎ合わせて新しい植物を作るので、まさにフランケンフードです。これと遺伝子編集は違います。
遺伝子編集は”はさみ”に例えられます。10年ほど前に発明されたCRSPRと呼ばれる技術で”はさみ”のようなものを送り込み遺伝子の特定機能を除去する事が可能です。近年はその精度向上とあわせて機能追加などもできるように進化しており今後の他分野への応用が期待されています。
The Timesが運営しているPodcastにシリコンバレーの最新トレンドを起業家へのインタビューで紹介する”Danny in the Vally”があります。リンク先はその遺伝子編集を扱った回でMammothというバイオベンチャーを取り上げています。
③pathogen /病原体
ウィルス、微生物、細菌、カビ菌など病気を起こす生物の総称です。
遺伝子編集によりこうした病原体に抵抗力のある作物をつくることができれば、農薬や環境負荷のある方法をとらずとも生産量を確保できます。
■試訳
今年の後半には遺伝子編集を経た作物の栽培が開始される。イングランドの約24の商業的農場で、これまで実験室と温室に限定されていた植物が現実の環境でどれだけ育つのかを見るに至る。欧州にこの様な試みをしている国はない。欧州連合の遺伝子編集への対処は遺伝種改変への対処と違わず、実質的に栽培する事を禁じているからだ。最近国会を通過した法律(ただし、スコットランドとウェールズでは施行されていない)によりGE(遺伝子編集)とGM(遺伝子改変)の区別が設けられた。これによって、農家による栽培が許可されたことになる。この先見のある決定により享受される利益は小さくない。遺伝子改変は10年前”フランケンフード”だとして世間を騒がせた。それらは皆異なる種類のDNAを繋ぎ合わせる内容のものだった。これに対して遺伝子編集は1つの生体の遺伝子的な組み合わせを変化されるものだ。12000年前に東方で野生植物が自家栽培されるようになってから、農家はある種の遺伝子編集を続けているのだ。栽培量を増加の為に苦労を重ね実験を行い、それが成功した事で人口増、都市化、そして複雑な文明の発展を下支えする重要な要因となっていた事がわかっている。農業の進歩は人間の生活が祖先の頃よりも著しく良いものになっている事の欠かせない要因である。現代の食用作物はみな前の世代の植物を遺伝子編集により改良されてできたものだ。今はこれまでと異なるのは、その微調整が簡単にできるようになっているという事だ。気候変動と国家を超えた激動の時代において国内に食料源をより天候や疫病、害虫に強いものに開発する事のメリットは明らかだ。現在試験中の遺伝子編集作物により牛のメタンガス排出量は削減され、発がん性物質は減り、小麦の生産量も増える。これらが望ましい結果である事は自明である。
◇一言コメント:
Gene-edittingというと聞きなれない技術のイメージですが、品種改良は山形県民にとっては馴染みのある言葉です。
稲作の開始から幾千年を経てなお、山形県民達はうまいコメを目指す終わりなき戦いの渦中にあります。ササニシキというスタンダードから、平地と高冷地での作り分けという革新を掲げたはえぬき・どまんなか。そして時代は更なる美味を求め雪若丸に至ります。
米どころとして圧倒的なプレゼンスを誇る新潟が擁するコシヒカリを相手に盆地地形による厳しい気候と耕作面積の狭さというビハインドを覆すにはうまさで突き抜ける戦略にかけるしかありません。
これほどまでの情念に突き動かされたgene-edittingは世界に誇るものではないでしょうか。
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