クロイツェル・ソナタを読みました。

この本は聖書の引用から始まります。

しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。
(マタイによる福音書第五章二八)

トルストイ(著), 原 卓也(翻訳)「クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)」: p8

この言葉がどのような事を意味するのか、悟りを開いた男が自身の結婚生活をもとに語ります。物語の序盤に、男の結婚観が端的に語られます。

結婚の中に何か神秘的なもの、神に対して義務を背負わせるような神秘を見いだす人々の間には、たしかに結婚は存在してきたし、今も存在しています。そういう人たちの間には存在しても、わたしたちの間には存在しないんですよ。われわれの間では、結婚というものに性行為以外の何物をも見いださずに、人々は結婚するんです。だからその結果は、欺瞞か、でなければ強制ということになってしまうのです。

トルストイ(著), 原 卓也(翻訳)「クロイツェル・ソナタ/悪魔 (新潮文庫)」: p25-26

そうして、彼の結婚生活は後者だったと明かされていきます。

貴族の出の男は、人並みに女遊びを楽しんできましたが、清らかな家庭生活を築いていく伴侶も望んでおりデートを重ねていました。ある女性とボート遊びをした帰りの夜更け、男はこの人こそ自分にふさわしい女性だと直感し結婚します。そして、今後は女遊びをせず、理想的な夫婦になると決意します。

しかし、結婚後は違和感を覚える場面が度々あり、喧嘩をする事が増えていきます。そして、どういう訳か結婚生活は彼にとって地獄とみなされるものになってしまうのです。その原因は性欲であったと男は語ります。

本書の表題はベートーヴェンの楽曲から取られており、物語の後半に登場します。この楽曲が男の精神を大きく刺激し、悲劇的な結末まで臨場感たっぷりに描写されます。

本書では、現代でも見聞きする結婚生活の細々とした事柄や対立が具体的に記述されていて、身近な事のように感じられました。また、悲劇をもたらす社会システムにまで洞察が行われており読み応えがありました。
結婚について考えたい方におすすめします。

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