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詩とそれにまつわる話(幼少期)

目に涙を浮かべた私と
飛んでくる父の手
駆け寄る母親の優しい言葉に
ふりそそぐ蛍光灯の光
部屋は石油ストーブに温められ
おびえる弟の顔は
やかんの音に取って代わり
遥かかなた遠い田園風景を
私は見ていた

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私の父は、怒ると手をあげる人だった。時代もあったのだと思う。父は祖父から日常的に殴られていたという。その名残が、父の中にもあったのかもしれない。あるいは、父にのしかかる精神的ストレスが、彼をそうさせたのかもしれない。
私は頑固な子供だった。今でも頑固だと思うが。「ごめんなさい」という言葉で簡単に頭を下げることを頑なに拒否した。それに反して弟は賢かった。弱気とも言えるが。私を見て学び、手をあげられることは少なかった。
母は優しい人だった。泣いている私に駆け寄り、背を撫でてくれていた。痛くて眠れない時も、ずっと側にいてくれた。母の優しさは父にも伝わっていたのだと思う。母の優しさが父を包んでいたのだと思う。
2人は、でこぼこであり、互いを補っているように見える。完璧な人間なんていないということを、私に教えてくれた。
祖父母の家に住んでいた時。広いその家のリビングには、冬の間、石油ストーブが置いてある。その上にあるやかんはシューシューと音を立て、それが「この部屋は暖かいよ」という合図のように聞こえる。
こういうことが、「普通」ではないとは知らない私だった。どこの家庭でもあることだと思っていた。その時は。何も違和感を持たず、ただ目の前の事柄を見ていた。

その時の私を見ていられない。田園風景を見ていたのは、少し前の、当時の状況を理解し難かった私だ。

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